【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子

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デートの定義とは‥

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「彼女に似合う服を見せてくれ。
明るくて可愛らしいものがいい」

「かしこまりました」

「それと何着かオーダーしたい。
デザイン画を頼む」

「かしこまりました。優秀なデザイナーがおりますので今呼んで参ります」

パタパタと店の奥へ駆けていく。

「ちょっとライド様!困ります!
私、服なんていりません。
しかもオーダーなんて、こんな高いお店では足が震えます!」

「はははっ、足が震える姿を見てていいかな?」

「揶揄うのはやめてください。本当に困ります。
私何もいりません!」

‥‥お金も無いし、こんな高級店に見合う人間でもない。
私の為にライド様にお金を使わせるのも気が引ける。

「私と歩くのにそんな格好ではメイドを連れていると勘違いされるよ。
もっとミリーに似合う可愛い服を着てくれないと私が悲しいよ。
今日はデートなんだからね」

「デート⁈」

ライド様はさらりと口にする。
意味が分からないということはないだろうに、その使い方は間違っている。
デートの定義が私とライド様では違うのかもしれない‥‥

誰にでも優しく親切なライド様にとっては何てことないのかもしれない。
隣国でもきっとモテただろうし、こんな風に女性と出掛けることは日常茶飯事だっただろう。
お金に余裕もあるし。
出掛けることが全てデートだと思っているのかもしれない‥‥

でも私にとってデートと言われると刺激が強すぎる。
私にとっての定義はお互いに好意がある者同士、恋愛対象の相手とするものだと思っているから、軽々しく口にはできない。

昔から群を抜く美男子だったけれど、今は色気も加わり目が合うたびに一度息が止まる。
こんな色気だだ漏れで女性に接していたら、誰だって勘違いするかもしれないのに、婚約者の女性は心配にならないのかしら‥‥。
早く皆に公表して欲しいと言わないのかしら‥‥。

「ミリーと出掛けるのだからデートと呼ぶべきだろう?
さぁ、早く着替えないとね」

奥から店員が十着以上のドレスを運んでくる。

「こちらは新作です!」

色鮮やかなドレスがずらりと並ぶ。

「うーん、そうだな‥‥白もいいが、この水色も清楚で良い雰囲気だ。
でもやっぱりペリドットの色のドレスにしよう。
ミリーには一番似合う色だからね」

「この色はライド様の色ではないですか!
いけません!!
この色を着た私が誰かに見られたら、また何を言われるか‥‥それに婚約者の方の為にもよくありません!」

「ん?ああ‥そう。婚約者?
ミリーは分からないの?」

「‥‥」

分かるわけない。
ライド様は名前を教えてくれていないのに私が知るわけもない。
ヘンリー兄様だって知らないことなのに。
自分が言ってないことに気付いていないのかしら。

「婚約者の名前を聞きたい?」

!!
「お、教えていただいてもいいのなら‥はい」

急に鼓動が速くなる。気にはなる!誰なの‥

「あはははっ!可愛い、可愛すぎるねミリー。
悪いけど言わないよ!
可愛いからもう少し焦らさせて」

「は?」

何それと言いたくなったが、焦らさないと言えないほどの大物ということかしら。
何かモヤっとする‥‥

「デザイナーのクリスです。
ロベールトン公爵家のライド様のお仕事をさせていただけるなんて光栄です」

「ああ、頼むよ。
彼女は私の大切な人なんだ。
彼女に似合うドレスを作りたい、可愛らしいデザインにしてくれ。
肌の露出は避けて、色は白とペリドット、ポイントに青を入れようかな」

「なるほど、とても良い色合いです」

「あとは薄いピンクから裾は濃い色に、ポイントにはペリドットを入れよう」

「それも素敵ですね。ふわりと広がるドレスがお似合いになりそうです」

「うん、そうだね。彼女の柔らかな雰囲気を壊さないようにきつい色は避けてくれ」

「はい」

さらさらと私を見ながらクリスさんはデザイン画を描いていく。

「水色のドレス生地にビーズなどはいかがですか?
精密なデコレーションで美しく仕上げますが」

「それいいね」

「大まかにこんな感じはどうでしょうか?
胸元はあまり開かず袖はひらひらとした動きをもたせ、ウエストはキュッと締め下はふわりと広げて品の良さと可愛らしさを共存させて」

「うん、いいね!彼女らしい雰囲気になる」

「ありがとうございます。ではこのようなデザインで進めさせていただきますので」

「ああ、仕上がったら連絡を頼むよ」

「かしこまりました」

二人のやり取りがあまりにも流れるようで口を挟める隙がない。
クリスさんは「では早速!」と見るからに興奮気味にデザイン画を握りしめ踊るように去って行った‥‥。

「‥‥ライド様、私いらないと申しましたよね?」

「気にしなくていいよ。ほら、私はお金があるからね」

「そういうことではなくて‥‥」

こんなに優しくしてもらっても困るだけ。
私がライド様にお返しできるものなどない。
一方的にしてもらうばかりでは心苦しいばかりだ。

それに婚約者のいるライド様をこれ以上好きになるのは辛いもの‥‥。
これ以上側にいて私に欲が出てきてしまったらもっと苦しいし、傷つける人を増やしてしまう。

妹なんて都合の良い立場を利用して、いつまでも甘えているわけにはいかない。
もし私が婚約者の立場だったら、いくら恋愛感情のない相手だと言われても許せないだろう。
二人で食事や買い物、ドレスまで買っていると思えば嫉妬で責め立てるかもしれない。
相手の女性に怒鳴り込まれても何も言い返せない。

「ミリー?早く着替えておいで」

「いえ、いいです」

「私に可愛い姿を見せてくれないの?
ミリーに似合うと思うよ」

私の指を持ち上げ美しい顔に当てると、その頬を滑らせるようにすりすりとまるで恋人が甘えているかのような自然な動きで、こっちはどうしていいか分からない‥‥。
指から伝わる体温が心を乱す。
戸惑って何と言えばいいか言葉に詰まる。

「まぁ!ライド様がおられるわ!」
「本当だわ、まぁお会いできるなんて」
「こんなところでお会いできるなんて嬉しいわ」

店に入ってきた令嬢の声にはっとしてすぐに手を引く。
あっという間に三人のご令嬢にライド様は囲まれ、私は急いで離れる。

「私達、今日こちらの新作を見せてもらいにきたんです!
ライド様も見にこられたのですか?」

「そうだね。先程見せてもらったけど、どれも素晴らしいものだったよ」

「まぁ、どなたかに贈られるのですか?」

「ははは、どうかな?」

「あら、あちらは子爵家の?」

「ああ、ミリディ嬢と出掛けている最中でね」

「まぁ、ライド様があの?三度の破談の?」

「あまり失礼な発言は控えてもらいたいね」

「すみません、私ったら失礼を‥‥」

「女性が傷付く発言は心が痛むのでね。
分かってくれればいいよ。
そうそう、このドレスは君に似合うのではないかな?」

「え?私ですか?じゃあ私これにしますわ」

「私にも選んで下さいライド様!」

「ああそうだね、こちらはどうかな?」

「私にもライド様!」‥‥

どんどんと人が集まってくる。
彼の人気は昔から。
隣国への留学が決まった時の令嬢達の落胆ぶりは大きく、いつ戻られるのかと騒ぎになったものだ。
 


私はそっと店を出た。

「ミリディ様?」

突然声を掛けられて振り返る。

「シモン?」

「お一人ですか?モニカはどうしたんですか?」

「今日はちょっと‥一人なの。モニカは一緒じゃないわ」

「そんな!ミリディ様お一人では心配です。
家に戻られるならお送りしますよ。
ちょうど仕事が早く終わったんです」

「大丈夫よ」

シモンはモニカと同じ孤児院で育った友人で、歳は私の一つ上。

「いいえ、女性一人では危険ですよ。
俺は予定もないですし、送るくらいできます。馬車は向こうですが」

「いえ、いいのよ」

「さぁ、行きましょう」

シモンは歩き出してしまう。

「ひゃぁぁ!!」

突然後ろから抱きしめられ自分でも驚くような変な叫び声が出る。

「!!お嬢様」

「人の女を連れて行こうだなんて、誰かな?君は」

「ちょっとライド様」

「また勝手に私を置いていったね?ミリー。
逃げ足の速い子だ」

「手をどけて下さい!それに彼はモニカの友人です。私の知り合いです」

がっちりと抱えられた腕をとにかく必死に引き剥がし離れる。

「彼はモニカに用があるようなので一緒に帰ります。
ごめんなさいライド様」

「そう‥。
ミリーがそう言うのなら仕方ない。
それじゃあまたね」

「い‥いんですか?‥お嬢様」

不安そうに私とライド様の顔を見比べると、シモンは躊躇いながら確認するように小さい声で私に聞く。

「ええ、行きましょう、シモン」

ライド様はどこにいても注目の的。
それなのに彼の行動はあまりにも大胆で、まるで人の目を気にしていないかのように振る舞っている。
今の私にとってはこれ以上他人の話題になるようなことはしたくない。
‥‥してはいけない。

ライド様の優しさに甘え続けて、国に戻られたばかりのライド様の評判に傷を付けるわけにはいかない。
自分に言い聞かせながらその場を後にした。





~~~~~~~~

「ダリル?」

「はい、ライド様」

「あの男、一応調べておいてくれる?
シモンと言ったかな」

「かしこまりました。すぐに手配しておきます」

「私のミリーを連れていくなんて怖いもの知らずだよね」

「左様でございますね。ですがむやみな殺生はいけませんよ」

「厳しいね、ダリル」

「ミリディ様のこととなると過激な発言が多くなりますのでお気をつけください」

「厳しいね、ダリル」

「ミリディ様が悲しむことはお控えください」

「まったく、私を困らせるのが上手いよね、ミリーは‥‥」




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