【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子

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疑惑の夜会

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婚約破棄から一週間が経った頃。
我が家を訪れたのは意外な人だった。

下が騒がしい‥‥父の大きな声が響く。

「何かしら?」

「いえ、お嬢様は行かれない方が‥‥」

モニカのいわくありげな様子が気になる。

止められながらも私が下の応接間へ行くと、扉は開いたままで、父は早く帰るように促しているように見える。

その相手は‥‥

「ミリディ嬢!話しを聞いてくれ!お願いだ」

私を見つけた男性が慌てて駆け寄る。

「レオン様!」

「娘に関わるのはもう」

「お父様、レオン様と少し話しをさせて下さい」

「‥‥分かった‥‥少しだけだ。
扉は開けたままにしておくぞ」

父はそう言って出ていった。
婚約者でない男女が密室でいることは許されない。
扉は大きく開かれたまま。

向かい合って座ったレオン様は頭を下げた。

「このように、せっかくの縁を台無しにしてしまったこと。許してほしい‥」

「いえ、‥‥もう」

「ただ聞いてほしい、君には正直に伝えておきたいと思っていて‥‥。
私が夜会で一緒だった女性は知らない女性だ。
初めて見る女性だった。
以前からの関係など全くない、信じてほしい」

「ではあの夜会で好意をもったということですか?」

「いや、そうではない。
その‥‥、はっきり思い出せないところがあるんだ。
あの日、酒を少し飲んだ後に、バレン伯爵が私に話しがあると伝えにきた男がいて、言われるまま付いて行ったら女性が部屋にいて、その後はあまり‥覚えていなくて。
あんなことに。
何故あんなことになったのか私も知りたいくらいなんだ」

「バレン伯爵?」

「ああ、君の父上と親しいバレン伯爵だから、婚約者になった私に何か話したいことがあるのかと」

父はバレン伯爵の補佐役をしている。

「‥‥そのことを父や他の方には?」

「いいや、こんなことになった私がバレン伯爵の名前など出したらそれこそ問題になる。
誰にも言ってない。
けれどミリディ嬢には最後に本当のことを話しておきたいと思って今日伺ったんだ。
どんな理由であれ、女性と二人きりであのような場面を大勢の人間に目撃されている。
私の弁明などもはや無意味だが‥‥
ミリディ嬢との結婚を望んでいたのは本心だ。
こんなことになって本当に‥申し訳ない。
だがあれから考えてみたんだ。
あの夜会は誰かに仕組まれていたのではないかと‥‥今になってみれば」

「おや?エヌマーレ子爵家のレオン殿ではないですか?」



「ロベールトン家のライド様!」

「ライド様?どうなさったのですか?」

「戸が開いていたのでね。
それで、もう婚約者でない子爵家の息子が何の用だ?」

「あっ‥いえ‥」

「ミリディ嬢に近付くなど、どの面下げてと言うべきかな?
私の夜会であの様な騒ぎを起こした人間が、今更何の目的でこの家にやって来たか聞いてもいいかな?
何を言ったところで婚約破棄は覆らないぞ」

レオン様はその言葉に膝の上の拳を強く握りしめた。

「‥分かっております。
ロベールトン公爵家に多大なご迷惑をおかけし、エルグスト家とミリディ嬢の信頼を裏切る行為であったことをお詫びします」

テーブルに頭が付くほど深く頭を下げた。

「分かっているのなら今すぐに出て行ってくれ。
くれぐれもミリディ嬢には今後近付くことがないように気をつけてくれ。
彼女は君のせいで深く傷つき世間からの目も厳しくなった。
理解したならエルグスト家に出入りするなどやめるんだな」

「‥‥はい。
肝に銘じます‥‥」

それからレオン様は見るからに肩を落として帰って行った。

「ライド様?今日はどうして」

「あの男はミリーを傷つけた奴だ!
そんな人間に情けをかけるようなことはやめるんだ。
私が間に合ったから良かったものの、よりを戻そうなどと都合の良いことを言い出したらどうするんだ!」

「レオン様はあの夜会でのことを謝って下さっただけです。それだけです」

「何か下心がなければわざわざ来るはずがないよ。
ミリーの優しさにつけ込んで許してもらおうと思って来たのだろう。
まったく図々しい男だよ」

「そういう感じではありませんでしたけど」

「いや。騙されてはいけないよ」

「‥‥」

騙される‥‥?
レオン様は夜会での出来事を仕組まれたことではないかと言いかけていた。
彼の言う通りならば私とレオン様の婚約をよく思わない人がいるということになる。
けれど‥誰の言ってることが‥正しいのか‥‥
レオン様の話しは本当?嘘?

「ミリー?もう終わったことにいつまでも囚われてはいけないよ。
もう過去だ。そうだろう?」

「ええ‥‥まぁ」

三度目ともなれば立ち直るのにも少し時間がかかる。
それに破談について考える必要があるかもしれない‥‥

「うっ、いっっ!」

プニッと頬を軽く引っ張られ、ライド様は少し怒った顔をする。

「そんなにあの男が気に入っていた?」

ライド様の手をぱっと払い首を振る。

「そうではなくて」

「じゃあ終わり。
さぁ、今日は服を仕立てに行こう。
最近のミリーは暗い色の服ばかり着ているから悪いんだ。
それじゃメイドと変わりないだろう」

手をすっと取り自然に歩き出してしまう。

「服などいいですから」

「いいや、昔の君は鮮やかな色を好んでいただろう?
気分が落ち込むのはその服のせいだ。
私がミリーに似合う服を選んであげるよ」

「あまり目立ちたくないんです。
それにライド様は婚約者が決まっておられるのですから、お相手に悪いです」

「あれ?妬いてくれるの?」

「え?妬きませんよ。
私とライド様では身分が違いすぎますから」

「身分ねぇ‥‥。
私は気にしたことはないけどね」

天下のロベールトン公爵家が何を言うのだろう。

貴族は階級社会。
公爵家はその頂点の存在であり、ロベールトン公爵家はもとは王族の人間であることは皆が知っている。
子爵家の娘では釣り合いが取れないことはよく理解している。

「とにかく、私が気にしていないのだからミリーが心配することではないよ。
さぁ、店には連絡してあるんだ。急ぐよ!」

いつものようにすっかりライド様のペースに乗せられてしまった‥‥。




















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