【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子

文字の大きさ
5 / 21

ライドとヘンリー

しおりを挟む
「ロベールトン公爵家のライド様がいらっしゃいました」

「ああ、分かった」

メイドの声に頷いた父親よりも先に息子のヘンリーが立ち上がる。

「父さん、今日は俺がライドと話しをするよ。
父さんは仕事を優先してくれ」

「そうか?
ならヘンリーに任せるよ」

入ってきた馬車を出迎えるように外に歩いて行く。

「やぁ、ヘンリー!
ミリーの様子はどうかな?」

「ああ、大丈夫だ。元気にしている」

「それは良かった、心配で昨日は眠れなくてね」

「そうか‥‥」

「元気な顔を見ないと落ち着かないよ」

そのまま屋敷に入ろうとするライドの肩を掴んだ。

「⁈何だ?」

「今日は外で話そう。
ミリディに会うのはやめてくれ」

「⁈」

「悪いが部屋を用意してくれないか?」

「‥‥分かった。
では馬車に乗ってくれ」





「チェイズ?東プリンツへ行ってくれ」
「かしこまりました」


プリンツは東と西にある貴族の男性のみが商談や会談に使うことができる建物で、管理しているのは貴族筆頭の公爵家である。

東はロベールトン家、西はシルヴィス公爵家が管理をし、中では食事や酒も用意され泊まることもできるようになっている。
ただ貴族でもロベールトン公爵家が許可しなければ入ることはできない。


「ライド様?
どうされたのですか?」

「上の部屋を用意してくれ。
友人と使いたい」

「かしこまりました」

頭を下げる責任者の男性も公爵家の使用人である。

広く一番良い部屋を案内される。
扉は重くぴたりと閉まればどんなに大きな声を出そうとも声が漏れることはない。

「素晴らしい部屋だな」

ヘンリーが見回しポツリと呟く。

「そうだな‥‥」

大きなテーブルを挟んで向かい合う。

「何か飲むか?」

酒が飲めるよう部屋の端はバーカウンターになっている。

「いや、何もいらない」

「友人同士の語らいにしては堅苦しいな」

笑顔を見せるライドに対し表情を変えないヘンリー。

「話しが終わればすぐに帰るよ」

「‥‥分かった。
それで何の話しだ?」

この国一番と言われるほどの美男子であるライドに対し、ヘンリーの外見も彼に劣らない。
ミリディのピンクの髪とは違うキャメル色をした髪にヘーゼル色の瞳をしたヘンリーは魅力的な男だった。

「ミリディにこれ以上近付くのはやめてもらいたい」

「⁈何故そのようなことを言う?」

「お前はこれから婚約者を決めなければいけないだろう。
王家や隣国からも気に入られ縁談は数多くあるはずだ。
うちのミリディに関わる必要はないはずだ」

「婚約者は自分で決める」

「まさかミリディか?」

「そうだ」

「やめてくれ!
ミリディに公爵家など務まらない!
妹はそんな器ではない、公爵夫人になるなど無理だ!分かるだろう?」

「私が幼い頃からミリーを想い続けていることはお前が一番よく知っているはずだが?
公爵家の仕事など私が全て把握していることだ。
ミリーには私の隣にいてもらえればいい、
ミリーの為ならいくらでも私が補佐する」

「‥‥お前が諦めてくれれば俺はミリディに何も言わない。
だがまだミリディに近付くようならお前がしたことをミリディに言う」

「‥‥何を?」

整った美しい顔は鋭い目つきでヘンリーを睨む。

「三度も破談にしたのはお前だとな」

「‥‥」

ヘンリーも負けじと睨み返す。

「三人の婚約者に薬を入れた酒を飲ませ、雇った娼館の女と二人にし、あたかも人目を盗んだ恋人同士のように見せかけた。
意識が朦朧とした彼らは、真っ赤な口紅を付けられても強く抵抗できない。
その場面をわざわざ人を集めて目撃させることで婚約を破棄させるよう仕向けた」

「勝手な妄想だ。やめてくれ」

睨み合う二人の間の空気は張り詰めていた。

「ミリディに近付くな。
お前は公爵家の嫡子だ。
王女と結婚すればいい。
それが家の為だろう。
オリビア王女はお前を気に入っている」

「ヘンリー?
私がそんなことをした証拠はあるのか?」

「三人の婚約者は俺の知り合いだ。
婚約破棄になった後、それぞれから話しを聞いている。
三人とも受け取った酒を飲んだ後に意識が朦朧としてきたと言っている。
逢引きするつもりなら意識を失うほど酒を飲んで逢うのはおかしいだろう。
酒を手渡してきたのは公爵家で見たことのある者だったと言っている。
目撃者は多かったが、相手がどこの令嬢か皆知らないと言っていた。
つまりお前が雇った女だ」

「くだらない。
お前の妄想だ」

「ショックを受けたミリディを誰よりも早く慰め信頼できる人間だとアピールする。
計算高いお前らしいやり方だ」

「はははっ、友人に対して随分な言い草だな」

「友人?昔の話だろ。
ミリディに近付く為に俺を利用しているだけだ」

「はぁ‥‥。
賢い男だな。
私はお前の賢さを買っているよ」

「一見温厚そうで誰にでも優しく振る舞うお前ほど腹黒い男はいないだろうな」

「ははははっ」

ライドは立ち上がると笑いながら酒を取りに歩いていく。

「分かったら二度とミリディには近付くな」

背を向けたライドにヘンリーは吐き捨てるように言った。



ブランデーのグラスを手に持ちながら再び座りヘンリーを見たライドは、

「ミリーに近付くなとは酷いね。
悪いけどそれは受け入れられない。
私はミリーを愛してるんだ」

「やめろ!執着するな!
自分の立場を考えるべきだ」

ははははっ
声高らかに笑うライドをヘンリーは変わらず睨み続ける。

今の二人の姿はとても友人同士とは思えないだろう。 

「ヘンリー。
君にその言葉をそのまま返そう。
兄ならば妹に執着するのはやめた方がいい。
君がミリーにこれ以上関わろうとするのなら、こちらにも考えがあるよ」

「何?」

「言われて困るのは君の方じゃないのか?
君はミリーの本当の兄ではないとね」

「⁈」

「ミリーは知らないだろう?
血の繋がった兄だと信じているのにね」

「‥‥何故」

「私はね、公爵家の人間だよ。
貴族の間で起こったことなら全て把握している。
それが統べる側だ」

「‥‥」

「ミリーの婚約者を選んだのは君だ。
そうだろう?
そして父親の子爵を説得したんだ。
何故あの男達を選んだのか‥‥」

「‥‥」

「ミリーを取られたくなかったからだ。
つまり、彼らはミリーを取らない‥‥。
男色だ」

「⁈なっ」

「だからこそ女性と二人きりになって逢引きするなど信じられなかったのだろう?
彼らは親には言えない秘密を抱えていた。
家の為には誰かと結婚しなければならないが、愛するのは男性だけだ。
そこでヘンリー。
君はミリーを取られない彼らを選んだ。
私よりずっと腹黒いよね?
今だって妹を心配するふりをして私を引き離そうとするなんてね」

「お前という男は‥‥」

「恐ろしいか?
公爵家は貴族社会の表と裏を網羅している。
あらゆるところに息のかかった者がいるんだ。
公爵家というより私のね。私の味方だ。
友人の君には教えてあげるけど、父には近いうちに退いてもらうつもりだよ。
私が公爵家を引き継ぐつもりだ。
父では能力が足りないからね」

「そんな!」

「どういうことか分かるよね?ヘンリー。
君の能力を買っているんだ。
本当だよ。
これからも友人として仲良くしていこう。
ミリーの兄だからね」

「‥‥」

「私はミリーと結婚するし、誰よりも幸せにする自信がある。
ミリーを傷つける人間は許さないし、一生苦労はさせないと約束する。
安心して私に任せてくれ。
秘密も漏らさない。
領地で療養している子爵夫人に心労はかけたくないだろう?」

「‥‥」

「さぁ!話しは終わったね。
ミリーの顔を見ないと安心できないよ。
早く帰ろう」

「‥‥」



誰より美しく微笑む美男子の底知れない恐ろしさ。
間違いなくこの男がこの国を動かしていくのだと思うと、ヘンリーは恐ろしさで血の気が引いた。














































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

雑草姫、選ばれし花の庭で踏まれて生きる 〜ガラスの靴は、土いじりには不向きです〜

お月見ましろ
恋愛
没落寸前の男爵家に生まれたロザリー・エヴァレットは、貧しさの中でも誇りだけは失わずに生きてきた。 雑草を食材にし、服を縫い直し、名門貴族学園を「目立たず、問題を起こさず、卒業する」――それが特待生として入学した彼女の唯一の目的だった。 だが入学初日、王子の落としたハンカチを拾ったことで、ロザリーは学園の秩序を乱す存在として「雑草令嬢」と呼ばれ、理不尽な洗礼に晒される。 泣かず、媚びず、折れずに耐える彼女を、ただ静かに支え続ける幼なじみがいた。 成金商家の息子・フィンは、「楽になる道」を決して差し出さず、それでも決して手を離さない。 さらに彼女の前に現れるのは、飄々とし、軽薄な仮面を被るノア。そして、王子として雑草を踏みつけることで秩序を守ろうとする、レオンハルト。 選ばれた者たちの庭で、場違いな雑草令嬢は、王子たちの価値観と世界を静かに揺るがしていく。 これは、ガラスの靴を履かないシンデレラ―― 雑草令嬢が、自分の足で未来を選ぶ物語。

悪役を演じて婚約破棄したのに、なぜか溺愛モードの王子がついてきた!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢ミュールは、重度のシスコンである。「天使のように可愛い妹のリナこそが、王妃になるべき!」その一心で、ミュールは自ら「嫉妬に狂った悪役令嬢」を演じ、婚約者であるキース王太子に嫌われる作戦に出た。 計画は成功し、衆人環視の中で婚約破棄を言い渡されるミュール。「処罰として、王都から追放する!」との言葉に、これで妹が幸せになれるとガッツポーズをした……はずだったのだが? 連れて行かれた「追放先」は、王都から馬車でたった30分の、王家所有の超豪華別荘!? しかも、「君がいないと仕事が手につかない」と、元婚約者のキース殿下が毎日通ってくるどころか、事実上の同棲生活がスタートしてしまう。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

立風花
恋愛
第八回 アイリス恋愛ファンタジー大賞 一次選考通過作品に入りました!  完結しました。ありがとうございます  シナリオが進む事のなくなった世界。誰も知らないゲーム後の世界が動き出す。  大崩落、王城陥落。聖女と祈り。シナリオ分岐の真実。 激動する王国で、想い合うノエルとアレックス王子。  大切な人の迷いと大きな決断を迫られる最終章! ーあらすじー  8歳のお誕生日を前に、秘密の場所で小さな出逢いを迎えたキャロル。秘密を約束して別れた直後、頭部に怪我をしてしまう。  巡る記憶は遠い遠い過去。生まれる前の自分。  そして、知る自分がゲームの悪役令嬢であること。  戸惑いの中、最悪の結末を回避するために、今度こそ後悔なく幸せになる道を探しはじめる。  子息になった悪役令嬢の成長と繋がる絆、戸惑う恋。 侯爵子息になって、ゲームのシナリオ通りにはさせません!<序章 侯爵子息になります!編> 子息になったキャロルの前に現れる攻略対象。育つ友情、恋に揺れる気持<二章 大切な人!社交デビュー編> 学園入学でゲームの世界へ。ヒロイン登場。シナリオの変化。絆は波乱を迎える「転」章<三章 恋する学園編> ※複数投稿サイト、またはブログに同じ作品を掲載しております

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...