【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子

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最終話 皆裏の顔がありました

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「急にお茶にお誘いしてごめんなさいね。
公爵夫人とゆっくりお話しがしたくて」

「いいえ、マゼルダ様のお誘いならいつでも大歓迎です」

「そう、それなら良かった。
私あなたに謝りたくてね」

「謝る?」

ゆっくりとカップを持ち上げ紅茶を口にしたマゼルダ様が何故か冷たい目で私を見る。

「私思い違いをしていたの。
だってあなたは守ってあげなければならない程弱い人間ではないんだもの。
したたかで図太くて誰よりも策士だった。
そうでしょう?」

「‥‥何のことですか?」

「ふふっ。そうやって何も知らないふりをして、純粋で儚げな人間にみせるのがお上手ね?
まるで詐欺師だわ」

「話の意図がまったく分かりませんが」

「私も公爵家の人間よ。
ロベールトン家に引けは取らないわ。
あなたがどんな人間であるか、色々私なりに調べてみたの。
だって子爵家の娘がロベールトン家に嫁いだんだもの。
しかも一度は修道院に自ら入っておきながら、まんまと公爵夫人の座を手に入れた。
何か裏があると思わない?」

「裏なんて‥‥そんなものありません」

「ふふっ。そう。
あなたの本当の親はただの平民の靴職人なんでしょう?
運良く血の繋がらない子爵家で育てられたけれど、その子爵家の身分でも公爵家に嫁ぐにはまだ現実的には難しいことのはず。

でもあなたはライド様から異常なほどに自分が愛されていることを知っていた。
どんな手を使ってそんなに気に入られたのかしらね?

そしてあなたが修道院に入れば、連れ戻す手段はただひとつ。
結婚していたという修道院のきまりを破ることだけ。
ライド様はシャルドール大聖堂に乗り込んで、自分はミリディ様と結婚を誓い合った仲だと主張し結婚を認めてほしいと言ったのよ。
その時に一人の司祭がその現場を一部始終見ていたと申し出たの。
‥‥そして承認された。
ライド様はとても驚かれてうずくまって泣いたそうよ。
つまり彼は司祭が見ていたことを知らなかった。
全てあなたが根回しした通りに物事が動いていた。
すごいわね?

それからライド様はあちこちを奔走し、あなたを傷つけた人間達を皆葬り去った。
ミリディ様が修道院に行かなければならない程の心の傷を与えた者達を誰一人許さなかった。
それはあなたの父も兄も同様で、あなたが心を痛めた原因の母親とすぐに離婚し領地から追い出した。

あなたは自分が修道院に行くことで、自分の邪魔になる者を全て片付けられることを知っていた。
だって皆があなたを異常に愛しているんですもの。
あなたを連れ戻す為なら何だってやると知ってのことでしょう?」

「‥‥」

私は少し冷めた紅茶をゴクリと飲んだ。
彼女は私に何を言わせたいのだろう。

ロベールトン家と肩を並べるシルヴィス家の娘であるマゼルダ様は、とても美しく聡明な人だ。
平民の血を引く私にとっては雲の上の存在。
そんな女神のような、皆に称えられる彼女が別人のような形相で私を睨む。

「平民のはずのあなたが公爵夫人だなんてね」

「‥‥ふ‥ふふっ‥‥」

「何?」

「マゼルダ様のそれが本音なのですね。
マゼルダ様が私の何を調べたのか分かりませんが、私はエルグスト家の娘です。
ただ私は、公爵家の人間になっても、この地位や権力を笠に着るようなことはしません。
生まれや育ち、地位で人を判断するような人間にはなりたくありません」

「‥‥」

美しい女神の初めて見る醜く歪んだ顔。
これが本当の顔なのだろう。

「マゼルダ様が私を調べてくださったように、私もマゼルダ様を調べさせていただきました」

「どういうことかしら?」

「私に親切にしてくださっていたのは、格下の人間であった為。
絶対にロベールトン家に嫁げないと思っていたからなのでしょう?
ライド様に気に入られている私に親切にすることでライド様の心証をよくしたかった。
つまり。
マゼルダ様はライド様がお好きなのでしょう?
ロベールトン家に嫁げるのは皆が認める自分であるべきだと思っていたのですよね?

だって、ライド様とマゼルダ様が密かに婚約しているという噂を世間に広めていたのはあなた自身ですもの」

私の言葉に大きく反応するその姿に私は確信する。

「私よりずっと近い距離で育ってきたマゼルダ様は、ライド様と対等な立場として自分が必要とされると信じておられたはず。
まさか子爵家の平凡な娘が優秀なライド様に見初められるとは思わなかったのでしょう?
美しく聡明で身分が釣り合うなら、シルヴィス家の娘である自分しかいないと思ってらしたのにね?」

「‥‥本当に図々しい」

「図々しい?」

「そうでしょう?公爵家は他の貴族とは立場が違うわ。
この国を動かす力を持つ選ばれた人間なのよ。
ライド様の力になれるのは、同じ公爵家であり対等な能力をもつ私しかいない。
頭の良い彼なら最後は必ずそう判断すると思っていたのに‥貧乏な平民の血が国の中枢に入るなんてどうかしてるわ。
平民の成り上がる指南書でもあるのかしら?」

「‥‥」

マゼルダ様は怒り心頭だ。
私は対照的に冷静だった。
これが彼女の裏の顔‥‥。






「ミリー?ミリー?」

奥から私を呼ぶ声。

「ライド様!」

姿が見え、私が軽く手を振ると駆けてくる。

「ミリー、迎えにきたよ。
夕方になると冷えるからね。
もう帰ろう。
マゼルダ嬢、急にミリーを呼びつけるのはやめてほしいな」

「女同士の交流の場にも口を出されるのですか?」

「もちろん。ミリーは私の愛する妻だからね。
心配するのは当然だよ。
マゼルダ嬢」

「‥‥」

「マゼルダ様には公爵家の人間としての立ち振る舞いを教えていただいておりました」

「へぇ‥‥。
でもミリーは気にしなくてもいい。
必要なことは私が教えてあげられるからね。
さぁ、行こう」

「はい。
マゼルダ様、今日はお招きいただきましてありがとうございました」

立ち上がりライド様のエスコートで歩き出す。

「あー、マゼルダ嬢?
ミリーを傷つけるようなことがないように念を押しておくよ。
ではまた明日の会議でね」

ライド様は私の腰を抱き寄せた。

ガチャンとカップの乱れた音がする。





人間は誰にでも裏の顔がある。
表がいくら華やかでも育ちが良くても親切であろうとも‥どんな人であろうと例外などないものだ。
 


「ミリー?君が好きなミートパイをたくさん焼いているとスーザンが言っていたよ」

「それは嬉しいです!
食べすぎてしまうかも」

「口のまわりについたら私が拭いてあげるからね」

「なら、たくさんつけておきます」

「はははっ、またそんな可愛いことを言うんだね?
君って人は昔から私を夢中にさせるのが上手すぎるね。
指南書でも隠してる?」

「ふふっ、まさか」

「可愛い、私のミリー」

彼はきっとこれからも私に夢中だ‥‥。




裏の顔ですら愛しいのなら本物だ‥‥
『田舎娘と王子様』‥リンディ著





              ~END~
              








  ~~~~~~~~~~~~~~~

ここまで読んでくださった皆様。
本当にありがとうございましたm(_ _)m
感謝しておりますm(__)m
























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