【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子

文字の大きさ
20 / 21

野心家

しおりを挟む
私は公爵家に住まいを移すことになった。

「まずは、公爵と夫人にご挨拶しなければ」

そう言うと、

「ミリーは知らないだろうけど、君が修道院に行ってる間に父の不正が発覚してね。
今は二人とも牢の中だ。
弟は遠くの親戚に引き取られたよ」

「え⁈何ですって!!」

「シルヴィス家のマゼルダ嬢の告発でね。
裏付けのある確固たる証拠があったんだ。
罪状についてはミリーは知らなくていいことだよ」

「マゼルダ様が?ロベールトン家を告発?
そんな‥‥同じ公爵家ですのに」

「こちらとしてはお礼として、国政に関わる権利を女性で初めてマゼルダ嬢に与えることにしたんだ。
女性の目線も取り入れる新たな体制を整えるつもりだよ」

「ええ⁈」

「彼女は賢くて実行力もある。
地位だけの無能な男達よりもよほど国の為に動ける人だ。
私の右腕として、今後外交にも携わってもらうつもりだから頼りになる。
父親の宰相の座を狙ってるんじゃないかな?
女性初の宰相も遠くないかもしれない」

「お礼‥というのはどういう意味ですか?
ライド様のご両親を告発したのでしょう?」

「あー、それについては私の生い立ちが関わってくるのだけど、今夜にでもミリーに話してあげるよ。
愛する妻には隠し事はしたくないからね」

「ええ、聞かせてください。
ライド様のことなら何でも知っておきたいもの」

「また可愛いことを言ってくれるね!」

ライド様のスキンシップが過剰になりすぎていてすぐにキスをされる。

「だからね、これからは私が公爵、ミリーは公爵夫人というわけだよ」

「知らない間にそのようなことがあったなんて‥‥。
驚きすぎて今は心臓がドキドキして痛いです」

「はははっ、マゼルダ嬢と私は野心家という面では気が合う人だよ」

「野心家‥‥」

「心配しないでミリー。
マゼルダ嬢とは仕事の付き合いは増えるだろうけど、私が愛するのは君だけだよ。
知ってるだろう?
私の愛の深さを」

「‥‥ええ」




コンコンッ
「失礼致します」

ガチャ

「さぁさぁ、お茶をお持ちしました。
ミリディ様がロベールトン家に来てくださるのをどれほど皆が待っていたことか。
ライド様の奥様としてこの家に来てくださるのを一同夢にまで見て待ち望んでおりました」

「スーザンさん、トーマスさんも!」

「これからお仕えできることを嬉しく思っております。奥様。
どうかライド様をよろしくお願い致します」

使用人達は次々に部屋に集まり、何故か涙を流す者までいる。
こんなに歓迎されるなんて思ってもみなかった。
さらに驚いた私の心臓はうるさいままで痛みは続いていた。







夕方。
私は荷物の整理もひと通り片付き落ち着いた頃、

「ミリー?庭に出てみないか?」

そう誘ってくれたライド様と共に外に出た。
ライド様はとてもラフな服装で、外で見る姿とは違い家でくつろぐシンプルな装いにドキドキしてしまった。

公爵家は広大な敷地である為、庭の規模も違う。
我が子爵家がいくつ入るか‥‥。

「この庭で遊んでいた頃が懐かしいですね」

「ああ、そうだね。懐かしいよ」

私の手をギュッと握りながらゆっくりと広い庭を歩く。

「結婚式はシャルドール大聖堂で挙げよう。
盛大な結婚式にしなければね。
ミリーの可愛らしいウエディングドレス姿が楽しみだ。
君は昔から絵本の中のお姫様に憧れていたからね。
白いフリルがたくさんのものがいいと言っていたかな?」

「ええ。ふふっ、華やかで可愛らしくて、そんなドレスが好きです」

「うん、似合うよ。とっても。
もう邪魔する者はいないんだ。
いたら私が全員消すから大丈夫だよ。
絶対にミリーを悲しませたりしない」

「はい」

私はそっとライド様に寄りかかる。

「ねぇミリー?」

「何ですか?」

「ひとつ聞いていいかな?」

「もちろん。答えられることなら何でも」

「私達があの古い教会で愛を誓った時、シャルドールの司祭が見ていたと言ったよね?」

「ええ、そのおかげで結婚が成立したと」

「うん。
私は本当にアレは知らなかったんだ。
まさか司祭が見ていて証人として名乗り出てくれるなんて思わなかった。
だって君があの後修道院に行くなんて気付いていなかったからね。
それなのに偶然司祭があの奥に居て見ていたなんて‥‥」

「へぇ‥‥すごい偶然ですね?」

「偶然かな?」

「それ以外に何か?」
 
「シャルドール大聖堂には手紙が届いていたそうだ。
教会の在り方について不満を持っている者達が近々集まって、あの古い教会で暴動を起こす予定だと。
それでシャルドールの司祭や関係者が連日張り込んでいたらしい。
その者達との話し合いをしようと準備もしていたそうだ」

「そうだったんですか。
ふふっ、偶然ってすごいですね」

「‥‥ああ本当に、奇跡のようだね‥‥。
‥‥ミリー、私は君に惚れ込んでいる。
それを君はよく知っていたはずだ‥‥。
ねぇ、君の婚約が決まれば必ず私が阻止すると分かっていた?」

「まさか。
あれはライド様が?」

「はははっ、ミリー!
私は君に出会ってから今まで手のひらで転がされているようだよ」

「まぁ!天下のロベールトン家のライド様が何を仰いますか」

「でもね。
愛する人に転がされるのは悪くないよ」

私の頬を両手で包み、とても幸せそうな顔をする。

「私の幸せはミリーだ。
ミリーがいないと幸せになれない。
昔も今もこれからも、私は君に夢中だ」

この世で一番美しい貴公子が甘く蕩けるような台詞を言う。
そしてそのまま口付ける。
恥ずかしさも心地良さに変えるほど濃厚で漏れる息さえも甘い。

大好きな小説『田舎娘と王子様』のクライマックスはこんなキスシーンだった‥‥。

脈が早まり心臓がうるさいほどに音を立て、ライド様にも聞こえているかもしれない。

「はぁぁ愛しすぎて止められない」

ライド様の唇が離れると力が抜けて立っていられなくなるところを抱きしめられる。

「幸せだよミリー、ありがとう」

私は腕の中で頷くだけで言葉が出てこない程に幸せだった。



「お二人ともー!お食事の時間ですよー!
ご用意ができておりますよー!」
「お嬢様ー!」

スーザンさんの張り切る声とモニカの呼ぶ声が聞こえる。

「今行くよ!!」

振り返って大きな返事をすると、思いついたようにペリドットの瞳が私を見てキラキラと輝く。

「そうだ!
ミリーにプレゼントがあるんだよ。
先に席に着いていて。
今取ってくるからね」

嬉しそうに駆けていく後ろ姿を見て、ふと昔の姿がよぎる。

この庭で初めて彼を見た時のこと‥‥。




『あの人、絵本の中の王子様みたい!
かっこよくてきれいな服着てる!
私あの人のお姫様になりたい!』

『あなたどこの子?』

『ん?私?私はミリディ・エルグストというの』

『私はあの子の母親よ。あなた子爵家の子供だというのに随分と野心家ね』

『やしんか?』

『ええ、あなたみたいな人のことをいうのよ』

ライド様の母である公爵夫人に言われたことを思い出す。

「‥‥私が一番の野心家‥‥だったみたいね」

ポツリと呟いて懐かしい庭をぐるりと見回す。




「ミリー?まだそこに居たのかい?
早くおいで!」

「今行きます!私の王子様!」

彼に向かって駆け出した。




























































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話

のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。 お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」

佐藤 美奈
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。 「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。 公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。 そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

処理中です...