盲目

ジュネーブ

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希望

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2002年3月3日 14:38 

『ありがとう!本当に…ありがとう』
気がつくと、目の前に崩れた顔を必死に保とうとしている男がいた
色合い充ちた包まれるような暖かな空間とその男…いや、旦那が居る

『何があったの?』
少し前を巡るにも、フィルム切れの動画を再生するようなボヤけを思い出す
曖昧な現実に色合いを持たない空間、目の前の男性は溺れた顔を整え旦那になった

『華(はな)、大変だったね』
蛇口のように垂らした涙に対して何故ここまで思われているのかを思い出す
『いたた…、上手く動けないね』
事件前、突き刺さるように痛かった空間、白かった景色が角を作って私にくいこんできた?
痛みがあって足を上げること、動かすことすらままならない
腹部がツキツキするように痛い

ただ今は……

『まって、まだ1時間しか経ってないよ!無理に動かないで!』
布団の上に添えられた手に触れる
冷たい…ただ今はこの手が私を守ってくれたのかもしれない

背景が溶けた、不気味に白い壁が流れて行く

『全く、私がいないとご飯もろくに作らないね?これから、お父さんになるのに?』
『……』
ありがとう、あなたがいてくれたからだよ


『もう、いいよ。あなたは昨日何を食べたの?』
『袋ラーメンと豆腐』
『もう少し、栄養面を考えないと…、』
『それどころじゃなくてさ~』
にへらと笑っていた
『今度からはしっかりしてよ?』
そう伝えると彼は普段より、少し強く頭を痒いだ

『これからは大切な事がひとつ増えたんだよ?あなたも私もね』
『そうだな』
16:30……
優晴は華の言葉を受け入れ、服の青い部分を力強く掴む
『任せてよ』



『考えてきてくれた?』
唐突に振り出された言葉に対して何も考えていないような様子だった
『ねぇ?』


『おとうさん?しっかりしてくださいませ!』
下を向いたままの彼を一蹴する
『あ、あぁ…うん、大丈夫だよ』
『なんのことを?』
日常と変わりないやり取り、気がつけば痛みは引いていた
『……』
こうゆう時に限って鈍感なんだよな

『名前だよ、考えてきてくれた?』
『もちろん、考えてきてるよ、考えてたよ…女の子だったら』
優晴は窓に映る程合いの黒い夕焼けを見つめていた

『綺麗な夕日だね』
『そう?』
『うん』
『…そうだよね』

『名前はさ、綺麗な夕日からとってゆきって言うのはどう?』
紙に書かれた夕綺
とても、安直としか思えなかった


『他の名前はない?』
『ゆうかはどう?』
紙に優香と書き記す
『香は難しい方の華でもいいんじゃないかな?』
『2人の名前をとるって言うのは素敵だね』

その名前を聞いた瞬間に何か足りなさがあった
よく分からないが、別の名前がまだある気がした
『華は何か考えたの?』
優晴は次の白紙をみつめていた
『私が考えたのは…れい』
紙にひらがなが書かれる

『ひらがななの?』
『そうね、でも、悩むよね~この子のこれからを考えると』
紙に猫を落書きをする
『そうだよね』
優晴が猫に矢印を向けてヘタクソと書く
『んじゃ、お父さん?他にありますか?』
『これは俺自身、華に安直すぎるからって反対されると思ってボツにしようと思ってたんだけど』

ー未有

『なんでこの名前にしようって思ったの?』
『理由なんてないよ』
優晴は肘を触りもう一度
『理由なんてないよ、分からない…』
『んじゃ、理由を作らないとね』

『え…?』
優晴が答えた
『いいんじゃない?』
『なんで…あ、いやなんでもない』
優晴のなにか掴めない雰囲気に苛立ちを覚えた
どのような願いを思ったのか?



『…僕も理由を考えたんだけど』
一言…
『考えたんだね


わかったよ』
『この子の名前に理由はいらないね』
『可能性があるから…かもしれないね』
『カッコつけなくていいんだけど?』
突然着けた曖昧な理由なら聞いたところで意味が無い
『……わかった、わかったよ』

未有、池田、池田未有
時刻は19時06分
『そろそろ俺は行くよ、何かあったら電話して』
『わかった、掃除しといてよ?』
『してるよ!』
質問にすぐ答えて、少し早歩きになった優晴
『なら大丈夫だけどもね?』

ホントかよ……

時刻は19時10分
藤崎産婦人科病院 301号室 個室
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