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Vol.0 プロローグ

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テレビから、こんな声が聞こえてきた。

「2010~2020年代のはSNSの時代だった
Facebook、Twitter、Instagram・・・様々なSNSが登場し、発達し、人々の生活は変わっていった。」

「現在の20XX年は、おそらく後にAIの時代と呼ばれるだろう。人間のサポートを本格的にAIが始めた時代だからだ。本当に人間を理解し、メンタルケアを行う「MINEマイン」は我々人類を新たなステージへと導くに違いない。早期のリリースが望まれる。」

僕は、フーンと思いながらリビングのテレビからスマホへと意識を移す。
だって、AIなんてどうでもいいし、「MINEマイン」なんてもっとどうでもいい。
僕の喫緊の課題は、クラスのマドンナ橋本奈央に明日どうやって告白するか、だからだ。
意識を移した先のスマホには幼馴染の本田真矢から忌々しいメッセージが表示されていた。
「さっきの宣言、忘れてないからね。明日楽しみにしててあげる。」

話は放課後に遡る。僕は今年から通い始めた高校にも慣れ、そこそこの毎日を送っていた。
入学から4か月経ったが友達は一人もできない。別にいい。中学と同じだ。
今日の放課後も僕はいつも通り一人で校門を抜け、帰ろうとしていた。
「今日も一人じゃーん?田中太郎君?」
僕がフルネームで呼ばれるのを嫌がると知って、わざわざ意地の悪い話しかけ方をしてきたのは、さっきのメッセージの主と同じ本田真矢だった。
自分の名前を呪いのように思ったことがある。田中太郎って普通過ぎる名前だ。普通過ぎる僕にふさわしい。神が僕を目立たなくさせる為の呪いをかけたんだと思う。実際にはお爺ちゃんが日本男児らしさを表現したいと譲らなかった結果らしいけれど。
「そういう真矢も一人で下校してるみたいだけどね」
精一杯の皮肉を返す。皮肉で返さないと髪が肩まで伸びて、高校でメイクを覚えた幼馴染に見とれてしまいそうだからだ。
「ざんねーん、私はこれからお友達とカラオケでーす。太郎が帰ろうとしてるのが見えたから、ちょっかいだしに来ただけでーす。」
なんて意地の悪い女なんだろう。早く友達とカラオケ行けばいいのに。確かに5限が終わった直後、女子たちがカラオケいこーって話していたような気がする。
「本当にやめてくれよ、ただの幼馴染なのに毎日話しかけられるこっちの身にもなってくれ。変な噂がたったらどうしてくれるんだよ」
「生意気なこと言うじゃん。私と太郎が噂になったら迷惑なわけ?好きな人でもいるの?」
好きな人なんていない。そもそも高校生活で、真矢以外の女子と話した記憶がない。
「好きな人くらいいるよ。」
「マジ?だれ?」
「同じクラスの橋本奈央。」
「・・・マジ?」
全然マジじゃない。橋本奈央と言ったらクラスの男子全員が好きなマドンナ的存在だ。僕に手が届くわけない。
とっさにありそうな回答をしたが、さすがに嘘だとバレそうなので訂正しよう。
「あんたなんかが、奈央ちゃんと釣り合うわけないじゃん。絶対無理。そんなにバカだと思わなかった。地味だけど誰にでも優しくて気を使えるやつだと一目置いていた私がバカみたい。」
訂正する前に失礼な図星を吐き捨てられ、僕も熱くなってしまった。
「無理かどうかは分からないだろ?」
「なによ、告白する勇気もないくせに」
「告白してやるよ、明日。放課後見てろよ」
「はいはい、頑張ってね」

僕の初告白の日程はこんな形で決まってしまった。
どうやっても明日の告白を避ける方法も成功させる方法も思いつかないので
短く真矢に任せろと返信し、明日にならないことを祈りながらリビングから自分の部屋の布団へと移動した。

忌まわしい告白決行日。
アッという間に放課後になり、真矢の視線を感じながら体育館裏に呼び出した奈央さんへ僕は告白していた。

「好きです。付き合ってください。」
「ごめんなさい、太郎君、、だっけ。ちょっと唐突すぎて」

僕の初告白は、全人類の予想通り失敗した。
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