2 / 20
幼馴染み
しおりを挟む
「エイリア君、途中までお送りします」
ルディの部屋を出るとジールが声をかけてきた。いつものことなので、遠慮なく返事をする。
「お願いします」
学院の寮は3階まであり、1年は1階、2年は2階と各階それぞれの学院生が住んでいる。エイリア達は、学院の寮に住んで3年目になるため最上階だ。
自分達の部屋の前まで、足取り軽く二人で廊下を歩いていく。
「ルディ様とエイリア君は、幼馴染みでしたね。昔からあんなのと一緒にいて疲れませんか?疲れもそのせいじゃないですかね?」
しれっとルディをあんなの呼ばわりしているが、それが許され、できるのは従兄弟であるジールくらいだろう。
「いやいやいや、違うよ!ルディと一緒にいると居心地がいいくらいだし、疲れるなんてことはないから!」
間違った解釈をされたら困るため、慌ててジールの言葉を否定する。
「っていうか、僕は混血だから…ルディがいなかったらこんな有意義な学院生活は送れてないし、感謝しかないよ」
「ルディ様のおかげではなく、ライディア家という家名のおかげだと思いますけど。三大貴族に逆らう馬鹿はいないでしょう?」
ヴァンパイア達の上に君臨し続ける[三大貴族]は、元祖の子供3人を祖に持つ名家だ。
他者を寄せつけないほど能力が強く、ライディア家はその名家の一つにあたる。
元祖を信仰するヴァンパイアにとって、この三大貴族は絶対的な存在だ。逆らえば、きっとこの世界で生きてはいけない。
「それと混血だからと言うのはやめなさい。周りがどうであろうと、ライディア家の者であるルディ様と私が気にしてないのですから」
ジールが気を使って言ってくれているのがわかったが、エイリアは笑みを返すことしかできなかった。
すでに自分の容姿が混血の証だと言っているようなものだったからだ。エイリアの髪色は、ヴァンパイアにはいない金髪だった。
もちろん学院内には、少数ながら混血が存在するが容姿ではわからない。
人間である母から譲り受けた金髪は、学院内では目立ちすぎた。
実際、学院内には三大貴族であるルディの近くにいるエイリアを気に食わない者が多い。
だが、ルディがエイリアをそばに置くことを望んでいるため、誰も口出しできないでいる。
それをエイリアは知っていた。
(お母様は僕が生まれてすぐに死んでしまったから、この金髪に思い入れはない。せめて、お父様と同じ黒い髪だったらな…)
隣を歩くジールの髪色を羨ましく思い、見てしまう。
「…貴方の金髪は何者にも変えられない、素敵なモノです。ルディ様から散々、自慢されましたし。自分のモノじゃないのをよく自慢できるなと思いましたよ」
あり得ないですよね、とジールが肩をすくめて呆れた動作を見せる。
「それに今はもうエイリア君しかいないとは言え、貴方もライディア家に仕え続ける立派な家柄でしょう?」
「そうですね、まだ許可はもらえてないけど…ルディが許可してくれたら、僕も卒業後はライディア家に仕えたいです」
エイリアの家系は、ライディア家の歴代当主の側近として仕えていた。父親が亡き今、親族がいないエイリアが家系最後の一人だ。
「エイリア君のお父様を覚えてますよ。実に洗練された動きで前当主を支えており、私もあんな風になりたいと思いましたから」
「まさか、ジール君に褒められるなんて…お父様もきっと喜んでいると思う」
「ふふっ、生きていたら側近としての教えを乞いたかったですね」
「…うん、僕も教えを乞いたかったな」
二人で当時の父親を思い出し、しんみりしつつも部屋の前に着いたので足を止める。
「ジール君、また明日」
「はい、また明日会いましょう」
もう少し先にある部屋へと向かうジールを見送り、エイリアは自分の部屋へと入った。
学院の寮は、みんな一人部屋でバスタブもトイレも各室付いており、快適に過ごせるようになっている。
バスタブに湯を張りつつ、エイリアは服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。程よくバスタブに湯が溜まったのを確認し、バシャッと頭まで潜り込んだ。
(…お父様が生きていたら)
7年前に起きた事故で、エイリアの父親は亡くなった。
移動の最中に馬車が大破し、乗っていた前当主と奥方が亡くなるというライディア家にとっても惨劇であり、忘れられぬ事故だった。
残念なことに、その馬車にはルディも乗っていた。
一命を取り留めたエイリアの父親は、瀕死のルディを抱きかかえ近くの家へと助けを求めた。
そのおかげで、ルディは死なずに済んだが、エイリアの父親は力尽き命を失った。
知らせを受けたエイリアは、父親の死に絶望したが、幼馴染みのルディが生きていたことが唯一の救いになった。
そして、屋敷に戻ってきたルディにエイリアは驚愕した。赤かった瞳が赤黒い瞳に変わっていたからだ。
原因は、事故で一部の記憶が抜け落ちてしまったことだった。そのせいで、ルディはヴァンパイアの能力を失ってしまった。
記憶が戻れば、能力も戻るだろうと言われていたが、7年経った今でも欠けた記憶は戻っていない―――
(お父様が残してくれた希望…僕もルディを側近として支えていきたい)
バスルームから出たエイリアは、軽くバスローブを羽織ってベッドへと潜り込んだ。
「うたた寝の続きが見れたらいいな…」
呟いた言葉は闇に消え、エイリアは深い眠りに落ちていった。
ルディの部屋を出るとジールが声をかけてきた。いつものことなので、遠慮なく返事をする。
「お願いします」
学院の寮は3階まであり、1年は1階、2年は2階と各階それぞれの学院生が住んでいる。エイリア達は、学院の寮に住んで3年目になるため最上階だ。
自分達の部屋の前まで、足取り軽く二人で廊下を歩いていく。
「ルディ様とエイリア君は、幼馴染みでしたね。昔からあんなのと一緒にいて疲れませんか?疲れもそのせいじゃないですかね?」
しれっとルディをあんなの呼ばわりしているが、それが許され、できるのは従兄弟であるジールくらいだろう。
「いやいやいや、違うよ!ルディと一緒にいると居心地がいいくらいだし、疲れるなんてことはないから!」
間違った解釈をされたら困るため、慌ててジールの言葉を否定する。
「っていうか、僕は混血だから…ルディがいなかったらこんな有意義な学院生活は送れてないし、感謝しかないよ」
「ルディ様のおかげではなく、ライディア家という家名のおかげだと思いますけど。三大貴族に逆らう馬鹿はいないでしょう?」
ヴァンパイア達の上に君臨し続ける[三大貴族]は、元祖の子供3人を祖に持つ名家だ。
他者を寄せつけないほど能力が強く、ライディア家はその名家の一つにあたる。
元祖を信仰するヴァンパイアにとって、この三大貴族は絶対的な存在だ。逆らえば、きっとこの世界で生きてはいけない。
「それと混血だからと言うのはやめなさい。周りがどうであろうと、ライディア家の者であるルディ様と私が気にしてないのですから」
ジールが気を使って言ってくれているのがわかったが、エイリアは笑みを返すことしかできなかった。
すでに自分の容姿が混血の証だと言っているようなものだったからだ。エイリアの髪色は、ヴァンパイアにはいない金髪だった。
もちろん学院内には、少数ながら混血が存在するが容姿ではわからない。
人間である母から譲り受けた金髪は、学院内では目立ちすぎた。
実際、学院内には三大貴族であるルディの近くにいるエイリアを気に食わない者が多い。
だが、ルディがエイリアをそばに置くことを望んでいるため、誰も口出しできないでいる。
それをエイリアは知っていた。
(お母様は僕が生まれてすぐに死んでしまったから、この金髪に思い入れはない。せめて、お父様と同じ黒い髪だったらな…)
隣を歩くジールの髪色を羨ましく思い、見てしまう。
「…貴方の金髪は何者にも変えられない、素敵なモノです。ルディ様から散々、自慢されましたし。自分のモノじゃないのをよく自慢できるなと思いましたよ」
あり得ないですよね、とジールが肩をすくめて呆れた動作を見せる。
「それに今はもうエイリア君しかいないとは言え、貴方もライディア家に仕え続ける立派な家柄でしょう?」
「そうですね、まだ許可はもらえてないけど…ルディが許可してくれたら、僕も卒業後はライディア家に仕えたいです」
エイリアの家系は、ライディア家の歴代当主の側近として仕えていた。父親が亡き今、親族がいないエイリアが家系最後の一人だ。
「エイリア君のお父様を覚えてますよ。実に洗練された動きで前当主を支えており、私もあんな風になりたいと思いましたから」
「まさか、ジール君に褒められるなんて…お父様もきっと喜んでいると思う」
「ふふっ、生きていたら側近としての教えを乞いたかったですね」
「…うん、僕も教えを乞いたかったな」
二人で当時の父親を思い出し、しんみりしつつも部屋の前に着いたので足を止める。
「ジール君、また明日」
「はい、また明日会いましょう」
もう少し先にある部屋へと向かうジールを見送り、エイリアは自分の部屋へと入った。
学院の寮は、みんな一人部屋でバスタブもトイレも各室付いており、快適に過ごせるようになっている。
バスタブに湯を張りつつ、エイリアは服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。程よくバスタブに湯が溜まったのを確認し、バシャッと頭まで潜り込んだ。
(…お父様が生きていたら)
7年前に起きた事故で、エイリアの父親は亡くなった。
移動の最中に馬車が大破し、乗っていた前当主と奥方が亡くなるというライディア家にとっても惨劇であり、忘れられぬ事故だった。
残念なことに、その馬車にはルディも乗っていた。
一命を取り留めたエイリアの父親は、瀕死のルディを抱きかかえ近くの家へと助けを求めた。
そのおかげで、ルディは死なずに済んだが、エイリアの父親は力尽き命を失った。
知らせを受けたエイリアは、父親の死に絶望したが、幼馴染みのルディが生きていたことが唯一の救いになった。
そして、屋敷に戻ってきたルディにエイリアは驚愕した。赤かった瞳が赤黒い瞳に変わっていたからだ。
原因は、事故で一部の記憶が抜け落ちてしまったことだった。そのせいで、ルディはヴァンパイアの能力を失ってしまった。
記憶が戻れば、能力も戻るだろうと言われていたが、7年経った今でも欠けた記憶は戻っていない―――
(お父様が残してくれた希望…僕もルディを側近として支えていきたい)
バスルームから出たエイリアは、軽くバスローブを羽織ってベッドへと潜り込んだ。
「うたた寝の続きが見れたらいいな…」
呟いた言葉は闇に消え、エイリアは深い眠りに落ちていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる