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#87 天気輪の柱③
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馬車は街道を東に進み、なだらかな丘のふもとで停車した。
「あれじゃないかな。天気輪の柱って」
ソロが指差したのは、双子の丘の右側のてっぺんである。
なるほど、キラキラした光の粒子が、螺旋を描いて空に登っていくのが見える。
「ここさ、王立女学院の裏山なんだけど、普段は立ち入り禁止区域に指定されてるらしい」
「で、その子は、あの立ち入り禁止区域内であなたと逢引きしようと持ち掛けてきたわけね」
「逢引きなんて、古い言葉知ってるなあ。まあ、そんなところさ。誰も来ない場所で会いたいって言ったら、じゃ、あの丘の上がいいって。だけど、結局は未遂に終わっちゃったんだけどね」
「未遂? どうして?」
「俺とつきあってることが親にバレちまってさ。なんせ、いいとこのお嬢様だったから、そんな下級貴族の不良と交際するのはまかりならんって、ま、そんなわけさ。ひどい話だろ」
「よかったじゃん。児童福祉法違反になんなくって」
ソロと軽口を叩き合いながらも、私は次第に緊張し始めていた。
ついに見つけた。天気論の柱。
ならば、後はあそこで、銀河鉄道の到着を待つだけだ。
「ありがとね。じゃ、私、行くから」
丘の頂上に続く小道を登り始めると、後ろから泡を食った口調でソロが呼びかけてきた。
「なんか知らないけど、ひとりで大丈夫なのか? なんなら最後までつきあってやってもいいんだぜ?」
ソロの親切は身に染みたけど、私はぎゅっと文庫本を持つ手に力をこめた。
これは、私がひとりでやり遂げなければならないことなのだ。
なんといっても、宮沢賢治は、私の世界の作家なのである。
たとえ彼がこの世界では魔王になっているにせよ、その運命を異世界の者の手に委ねるわけにはいかないのだ。
後ろ髪引かれる思いで頂上にたどり着くと、思った通り、そこは無人の駅のホームになっていた。
光の粒子が形づくる天気輪の柱の真下に小さな駅舎があり、そこから線路が始まっているのだ。
二本の線路は初めは丘の上を走り、次第にせり上がってその先は空に溶けている。
夕日に輝く銀色の軌条が、なぜだか涙が出るほど美しかった。
駅舎には人影がなく、改札口に近づくと、何もしないのに、腰の高さの跳ね板が開き、私を中に通してくれた。
もしかしたら、私の持っているこの本が、切符の代わりなのかもしれなかった。
ホームに出ると、そこも無人で、猫の子一匹いなかった。
時刻表らしきものもなく、ただ古びたベンチが何脚か放置されているだけである。
私はベンチのひとつに座ると、膝の上に文庫本を開いた。
魔法のブックカバーの力で、この本に記載されているものなら、なんでも実体化できる。
そう、あの不思議な少年、ダーク=トルストイは言った。
つまり、魔王を倒すための武器は、この本の中から調達しないといけないというわけだ。
『銀河鉄道の夜』の中に、そんな武器になるようなものが出てきただろうか?
私は電車が来るまでの間に、もう一度この童話を読み返そうと思った。
なんとしてでも、ここから武器を探さねばならないのだ。
最初の1ページに目を落とす。
そうしていつしか、私はお馴染みの物語の中に、知らず知らずのうちに引きこまれて行った…。
「あれじゃないかな。天気輪の柱って」
ソロが指差したのは、双子の丘の右側のてっぺんである。
なるほど、キラキラした光の粒子が、螺旋を描いて空に登っていくのが見える。
「ここさ、王立女学院の裏山なんだけど、普段は立ち入り禁止区域に指定されてるらしい」
「で、その子は、あの立ち入り禁止区域内であなたと逢引きしようと持ち掛けてきたわけね」
「逢引きなんて、古い言葉知ってるなあ。まあ、そんなところさ。誰も来ない場所で会いたいって言ったら、じゃ、あの丘の上がいいって。だけど、結局は未遂に終わっちゃったんだけどね」
「未遂? どうして?」
「俺とつきあってることが親にバレちまってさ。なんせ、いいとこのお嬢様だったから、そんな下級貴族の不良と交際するのはまかりならんって、ま、そんなわけさ。ひどい話だろ」
「よかったじゃん。児童福祉法違反になんなくって」
ソロと軽口を叩き合いながらも、私は次第に緊張し始めていた。
ついに見つけた。天気論の柱。
ならば、後はあそこで、銀河鉄道の到着を待つだけだ。
「ありがとね。じゃ、私、行くから」
丘の頂上に続く小道を登り始めると、後ろから泡を食った口調でソロが呼びかけてきた。
「なんか知らないけど、ひとりで大丈夫なのか? なんなら最後までつきあってやってもいいんだぜ?」
ソロの親切は身に染みたけど、私はぎゅっと文庫本を持つ手に力をこめた。
これは、私がひとりでやり遂げなければならないことなのだ。
なんといっても、宮沢賢治は、私の世界の作家なのである。
たとえ彼がこの世界では魔王になっているにせよ、その運命を異世界の者の手に委ねるわけにはいかないのだ。
後ろ髪引かれる思いで頂上にたどり着くと、思った通り、そこは無人の駅のホームになっていた。
光の粒子が形づくる天気輪の柱の真下に小さな駅舎があり、そこから線路が始まっているのだ。
二本の線路は初めは丘の上を走り、次第にせり上がってその先は空に溶けている。
夕日に輝く銀色の軌条が、なぜだか涙が出るほど美しかった。
駅舎には人影がなく、改札口に近づくと、何もしないのに、腰の高さの跳ね板が開き、私を中に通してくれた。
もしかしたら、私の持っているこの本が、切符の代わりなのかもしれなかった。
ホームに出ると、そこも無人で、猫の子一匹いなかった。
時刻表らしきものもなく、ただ古びたベンチが何脚か放置されているだけである。
私はベンチのひとつに座ると、膝の上に文庫本を開いた。
魔法のブックカバーの力で、この本に記載されているものなら、なんでも実体化できる。
そう、あの不思議な少年、ダーク=トルストイは言った。
つまり、魔王を倒すための武器は、この本の中から調達しないといけないというわけだ。
『銀河鉄道の夜』の中に、そんな武器になるようなものが出てきただろうか?
私は電車が来るまでの間に、もう一度この童話を読み返そうと思った。
なんとしてでも、ここから武器を探さねばならないのだ。
最初の1ページに目を落とす。
そうしていつしか、私はお馴染みの物語の中に、知らず知らずのうちに引きこまれて行った…。
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