激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
3 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#2 新参者

しおりを挟む
「イベントの詳細は決まり次第発表するが、ひとつだけ言っておくと、これは学園祭2日目に、完全に外部との交流を遮断して、学校関係者のみで行う予定だ。よって、そうしたシークレット性の高い行事があることも、周囲にはくれぐれもオフレコにしておいてほしい。むろん、保護者をも含めてね」
 場内にざわめきが広がった。
 保護者にも秘密の行事という一点が、反抗期真っ盛りの生徒たちの琴線に触れたに違いなかった。
 が、周囲が高揚するのに反比例して、杏里の気分は沈んでいく一方だった。
 校長は、本当にあれを行うつもりなのだ。
 全校生徒の”死への衝動”を一気に浄化する、一大イベント。
 すなわち、杏里を餌食にした究極の脱出ゲーム。
 確かに、爆発寸前の人間たちからストレスを吸収するのが、杏里たちタナトスの役割である。
 また、その過程で外来種を発見できる可能性もあるのだから、理論的には悪い話ではない。
 これまでしてきたように、毎日数人ずつ、放課後の教室で、あるいはトイレ、体育倉庫でと、ちまちまと浄化を繰り返すより、一度に全員が集合する機会を設けて一息に片づけるほうが、ずっと手間が省けることも確かである。
 ただ、その人数が問題だった。
 1年生から3年生まで合わせると、生徒だけで約500人。
 そこに教職員も含めたら、600人近い数になるのではなかろうか。
 さすがの杏里も、これには憂鬱にならざるを得なかった。
  しかも、今回は、どんな時でも身体を盾にして杏里を守ってくれた由羅はいない。
 杏里ひとりで600人を相手にしなければならないのだ。
 失敗すれば、前代未聞の人数の暴漢たちに、集団レイプされることになるだろう。
 その屈辱ときたら、想像するだに恐ろしい。
 無類の再生機能を備えたこの肉体はともかく、果たして精神が耐えられるかどうか、はなはだ自信がない。
 正直、委員会本部でのあの勝ち抜きバトルにも匹敵するレベルの、難度の高さだった。
「何するつもりなのかねえ」
 隣で純がしきりに首をひねっている。
「それに、性的行為禁止だなんて今になっていきなりねえ。あたしはいいけど、美里先生がいなくなってから、みんな相当もやもやがたまってるみたいだし、本当に大丈夫なのかって気がするよ」
 そもそも、朝礼のような公的な場で、学校責任者の口からそんな言葉が飛び出すことからして常軌を逸しているのだが、長い間美里の影響下に置かれていた生徒たちは、純も含めてそれについては何の違和感も感じていないらしかった。
「それは…」
 言いかけて、杏里は口をつぐんだ。
 校長の狙いは明確だ。
 生徒たちのストレスを限界まで溜めに溜めておいて、頂点に達したところで、イベント当日、いちどきに杏里にぶつけさせるつもりなのだ。
 そのほうが、ひとりの脱落者もなく、全員を綺麗に浄化できると踏んだのだろう。
「ん? どうしたの? 杏里、何か知ってるの?」
 純が杏里の言葉尻を聞きとがめてそう詰め寄った時、
「それからきょうは、もうひとつお知らせがある」
 大山校長の朗々とした声が杏里の耳朶を打った。
「新しい先生を紹介しよう。小谷小百合先生だ。主に2年生の体育を担当していただく」
「2年生っていったら、うちらじゃないの」
 こうべをめぐらせ、壇上に目をやった純が、そこであっと小さく喉の奥で叫んだ。
「うっそー! あれ、元オリンピック選手の…」
 再び高まり出した喧噪の中、舞台への階段を大柄な人影がのぼっていく。
 身長は軽く180センチは超えていそうだ。
 首が後頭部と同じくらい太く、たくましい。
 短く刈り上げた髪。
 先がふたつに割れたたくましい顎。
 名前を先に聞いていなければ、女性だとは到底思わなかったに違いない。
「オリンピック選手って…何の競技?」
 その類人猿じみた風貌にどこか見覚えがある気がして、杏里はそっと純にたずねた。
「やだ。杏里ったら知らないの? 小谷小百合といえば、レスリングに決まってるじゃない。うわあ、すごいなあ。ひょっとして、女子レスリング部をつくるつもりなのかなあ」
「まさか」
 杏里は苦笑した。
 ただでさえ部活の種類の少ない公立中学に、レスリング部などできるはずがない。
 が、杏里は間違っていた。
 その”まさか”を、堂々と校長の大山が口にしたのである。
「みんなも知ってるだろう? 小谷先生は、前々回のオリンピックの銅メダリストだ。もう現役は引退しておられるが、わが校に教師として赴任するにあたり、新たにレスリング部を創設したいと考えていらっしゃる。まずは女子から募集されるそうだから、我と思わんものは、直接先生にお願いするといい」
「うは。あたし、入ろっかなっ」
 お気に入りのアイドルを見つけたファンみたいに、純が胸の前で両手を組み合わせた。
「ねえ、杏里もどう? 一緒にやろうよ、レスリング」
「む、無理無理」
 激しく首を振る杏里。
 運動自体苦手なのに、格闘技なんてできるわけがない。
 と、壇上でマイクを前に、小谷小百合が話し始めた。
「みなさん、初めまして。今度体育の教師として、この曙中学にお世話になることになりました、小谷小百合です。これまではアスリートとして第一線で頑張ってきましたが、これからは初心に返り、皆さんと一緒に、一介の新米教師として、少しずつ成長していきたいと思っています…」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...