激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#4 強姦魔

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 授業後、バレー部に退部届を出してくると言う純と別れ、杏里はひとり、バスに乗った。
 時間が早いせいか、幸い乗客は数えるほどしかおらず、なんとか帰りは痴漢に遭わずに済みそうだった。
 それでもいざという時に備え、昇降口に一番近い席に座った。 
 正直なところ、今、タナトスとしての役割を果たすのは辛かった。
 目の前で死んでいった何人もの同胞たち、生死不明のままの由羅、満身創痍で逃走した零…。
 彼らのことに少し思いを馳せるだけで、気分がどんよりと沈んでくる。
 しかも、杏里自身、この手でふたりは殺している。
 やむをえない状況だったとはいえ、自分が殺人を犯したという事実は消えやしないのだ。
 そんなことを考えていると、とても性的遊戯に耽る気持ちにはなれないのだった。
 窓を半分ほど開け、風に吹かれながら、窓外に流れる景色を見るともなく眺めた。
 ひんやりした風が、杏里のやわらかな髪をなびかせては、きらめきながらガランとした車内を吹きすぎていく。
 その風に生臭い匂いが混じってきたと思ったら、バスは運河にさしかかるところだった。
 この近くで、つい最近、女性が殺されたのだ…。
 杏里は昼休み、純から聞いた話を思い出した。
 死体が発見されたのは、土曜日の深夜のことだったという。
 自転車でコンビニに向かう途中の男子高校生が、河原の草むらの中で見つけたのである。
 死体は近所の住む20代のOLのものだった。
 服を脱がされており、ほぼ全裸の状態で、しかも明らかに性的暴行の跡があったらしい。
 死因は出血多量。
 詳しくは報道されなかったようだが、そこまで聞けば充分だった。
 相手をレイプした挙句、出血多量で死に至らしめる。
 そんなこと、普通の人間にできるはずがない。
 おそらく、外来種の仕業だろう。
 純の話を聞き終える頃には、杏里はそう結論づけていた。
 そうだとすれば、問題は杏里ひとりでどう止めるか、である。
 由羅なしで戦え、とサイコジェニーは言った。
 外来種をもその場で浄化する、最強のタナトスになるのだ、と。
 それを、今こそ試してみる時なのかもしれなかった。
 でも、と思う。
 この精神状態で、果たしてそれが可能だろうか。
 たかが人間相手の浄化でさえも、想像するだけで億劫でたまらないのに…。

 バス停から家までは、かなりの距離がある。
 このあたりの田畑は、大半が荒れ地になっている。
 減反政策の休耕地が、そのまま放置されているからだ。
 その間を、とぼとぼと歩いた。
 教科書を詰め込んだリュックが重い。
 田畑の間を抜け、森に入った時だった。
 杏里はふと、重なり合う木々の合間に人の気配を感じ、ぎくりと立ち止まった。
 森の中を、誰かが並行してついてくる。
 杏里が立ち止まると、相手も立ち止まる。
 そんな気がする。
 来た。
 背筋を冷たい汗が伝った。
 それにしても、早すぎる。
 これでは、まるで待ち伏せされていたようなものではないか。
 とにかく、ここでは場所が悪い。
 木々の間の狭い砂利道を見渡して、杏里は思った。
 せめて、もう少し広い場所に…。
 森を抜ければ国道からの別れ道に出る。
 そこを渡れば、もう家は近い。
 我が家の敷地内にまで、相手を誘い込めれば、もう少し落ち着いて対応することができるに違いない。
 そう心に決めると、杏里は地を蹴って駆け出した。
 激しい葉擦れの音がして、杏里のすぐ後ろで、森の中の影がこちらの道に飛び出してくるのがわかった。
 振り向いている余裕はなかった。
 杏里は足に力を込めた。
 目の前に森の出口が近づいてくる。
 舗装された道を、車が一台横切っていった。
 あの道を渡りさえすれば…。
 が、できなかった。
 だしぬけに背中のリュックを強い力で引かれ、杏里は転倒した。
 もがきながらリュックの肩ひもを肩からはずし、死に物狂いで跳ね起きた。
 立ち上がりかけた杏里の前に、黒い影が立ちはだかっていた。
 これといった特徴もない、中年のサラリーマン風の男である。
 眼鏡のガラスが木漏れ日を反射して、その表情までは見えない。
「やめて。何するの?」
 鋭い声でなじったとたん、男が杏里の喉首をつかみ、もう一方の手でブラウスの前を引きむしった。
 ばらばらとボタンがはじけ飛び、真っ白な胸の谷間があらわになる。
「やっぱりな」
 その鎖骨のあたりに浮かび始めた”刻印”を目にするなり、男がにたりと笑った。
「タナトス、みっけ」

 
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