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第9部 倒錯のイグニス
#22 緊急事態④
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ルナの予測通り、裏門の警備は手薄だった。
門の前の車道にパトカーが2台。
制服警官の数は6人だ。
「どうするの?」
杏里がたずねるより、ルナの念力の発動のほうが早かった。
ルナはパトカーのほうを見ただけだった。
なのに。
杏里の言葉の語尾が消えぬうちに、1台が鼻づらを見えない手で持ち上げられたかのように直立すると、次の瞬間、もう1台のボンネットの上に倒れ込んだのである。
ものすごいクラッシュ音が轟き、下敷きになったパトカーのボンネットから、めらめらと炎が吹き上がった。
「なんだ?」
「どうしたんだ?」
浮足立った警官たちが右往左往する。
「行くよ」
短く言って、ルナが閉まった門扉を見た。
とたんに鋼鉄の格子がぐにゃりと曲がり、向こう側に倒れ込んで砂埃を舞い上げた。
恐るべき力だった。
杏里は今更ながらに戦慄した。
ルナはその眼で見つめるだけで、対象物を破壊してしまうことができるのだ。
精神力でそんなことが可能だというその事実が、杏理には不思議でならなかった。
ルナの力はこの世のことわりを超越している。
そう思えてならなかったのだ。
「外は騒がしくなりそうね。いいわ。重人は校舎裏のクラブハウスで待機して」
校舎裏には長屋のような平屋の建物が並んでいる。
どうやら運動部の部室らしい。
そのひとつの扉をひと睨みで吹き飛ばすと、ルナはそこに重人を隠れさせた。
「裏門側から増援が来るとか、何か変わったことがあったら連絡して。いざとなったら、冬美たちとの中継を」
「いいけど、とにかく早く行ってやって。いずなの様子が変だ。呼びかけても、さっきから返事がないんだよ。長くはもたないかもしれないよ」
テレパシーでいずなと連絡を取り合っていたのだろう。
蒼ざめた顔で重人が言う。
「わかった。急ごう」
杏里の手を引いて、ルナがまず手近な校舎に入った。
「いずなが居るのはA棟の4階、美術室。グラウンドを突っ切るのは目立ちすぎるから、このB棟の2階から渡り廊下を使うとしよう」
「ねえ、どうしてそんなことになったの? タナトスのいずなちゃんが、外来種に監禁されちゃうだなんて」
人気のない廊下をかけ続けながら、杏里はたずねた。
「横尾守。それが犯人の名前。横尾は美術の非常勤教師として、つい最近、ここへ赴任してきたらしい。その時わたしはまだシンガポールだったから、彼の正体に気づいたのはきょうになってから。いずなが今朝、校内で外来種を見つけた。足止めしておくから、授業後美術室に来て。そう言ったんだ」
「それで?」
「たかが雄外来種と、高をくくったのが間違いだった。おまえと出会った時、外来種を一匹退治しただろう? あのくらいの感覚だったんだ。それが、まさか、あんなことになろうとは…」
「あんなことって?」
ルナはもう答えなかった。
そこから先は、自分の目で確かめろということなのだろう。
2階に上がると、廊下の真ん中あたりにT字型に伸びた別の廊下があり、それがもうひとつの校舎につながっているらしかった。
「この先がA棟だ。警官隊がいるだろうから、絶対に声を出すな。見つかったらわたしがなんとかする。おまえはただついてくるだけでいい」
ルナは相変わらず横柄だ。
だが、それも気にならないほど、杏里は緊張してしまっていた。
「お願いだから、人殺しはしないで」
走り出そうとするルナの袖を引いて、杏里は言った。
「私、もうこれ以上、誰かが死ぬところ、見たくない」
「大丈夫だ。外来種以外、殺さない」
アクアマリンの目が、杏里を見た。
その瞳に吸い込まれそうになりながらも、杏里は考える。
本当は、その外来種も、殺してほしくない。
だって、みんな…。
人間も、外来種も、私たちも…。
元を正せば、もしかしたら、みんな一緒なのかも知れないんだもの…。
門の前の車道にパトカーが2台。
制服警官の数は6人だ。
「どうするの?」
杏里がたずねるより、ルナの念力の発動のほうが早かった。
ルナはパトカーのほうを見ただけだった。
なのに。
杏里の言葉の語尾が消えぬうちに、1台が鼻づらを見えない手で持ち上げられたかのように直立すると、次の瞬間、もう1台のボンネットの上に倒れ込んだのである。
ものすごいクラッシュ音が轟き、下敷きになったパトカーのボンネットから、めらめらと炎が吹き上がった。
「なんだ?」
「どうしたんだ?」
浮足立った警官たちが右往左往する。
「行くよ」
短く言って、ルナが閉まった門扉を見た。
とたんに鋼鉄の格子がぐにゃりと曲がり、向こう側に倒れ込んで砂埃を舞い上げた。
恐るべき力だった。
杏里は今更ながらに戦慄した。
ルナはその眼で見つめるだけで、対象物を破壊してしまうことができるのだ。
精神力でそんなことが可能だというその事実が、杏理には不思議でならなかった。
ルナの力はこの世のことわりを超越している。
そう思えてならなかったのだ。
「外は騒がしくなりそうね。いいわ。重人は校舎裏のクラブハウスで待機して」
校舎裏には長屋のような平屋の建物が並んでいる。
どうやら運動部の部室らしい。
そのひとつの扉をひと睨みで吹き飛ばすと、ルナはそこに重人を隠れさせた。
「裏門側から増援が来るとか、何か変わったことがあったら連絡して。いざとなったら、冬美たちとの中継を」
「いいけど、とにかく早く行ってやって。いずなの様子が変だ。呼びかけても、さっきから返事がないんだよ。長くはもたないかもしれないよ」
テレパシーでいずなと連絡を取り合っていたのだろう。
蒼ざめた顔で重人が言う。
「わかった。急ごう」
杏里の手を引いて、ルナがまず手近な校舎に入った。
「いずなが居るのはA棟の4階、美術室。グラウンドを突っ切るのは目立ちすぎるから、このB棟の2階から渡り廊下を使うとしよう」
「ねえ、どうしてそんなことになったの? タナトスのいずなちゃんが、外来種に監禁されちゃうだなんて」
人気のない廊下をかけ続けながら、杏里はたずねた。
「横尾守。それが犯人の名前。横尾は美術の非常勤教師として、つい最近、ここへ赴任してきたらしい。その時わたしはまだシンガポールだったから、彼の正体に気づいたのはきょうになってから。いずなが今朝、校内で外来種を見つけた。足止めしておくから、授業後美術室に来て。そう言ったんだ」
「それで?」
「たかが雄外来種と、高をくくったのが間違いだった。おまえと出会った時、外来種を一匹退治しただろう? あのくらいの感覚だったんだ。それが、まさか、あんなことになろうとは…」
「あんなことって?」
ルナはもう答えなかった。
そこから先は、自分の目で確かめろということなのだろう。
2階に上がると、廊下の真ん中あたりにT字型に伸びた別の廊下があり、それがもうひとつの校舎につながっているらしかった。
「この先がA棟だ。警官隊がいるだろうから、絶対に声を出すな。見つかったらわたしがなんとかする。おまえはただついてくるだけでいい」
ルナは相変わらず横柄だ。
だが、それも気にならないほど、杏里は緊張してしまっていた。
「お願いだから、人殺しはしないで」
走り出そうとするルナの袖を引いて、杏里は言った。
「私、もうこれ以上、誰かが死ぬところ、見たくない」
「大丈夫だ。外来種以外、殺さない」
アクアマリンの目が、杏里を見た。
その瞳に吸い込まれそうになりながらも、杏里は考える。
本当は、その外来種も、殺してほしくない。
だって、みんな…。
人間も、外来種も、私たちも…。
元を正せば、もしかしたら、みんな一緒なのかも知れないんだもの…。
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