47 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#46 基礎訓練⑮
しおりを挟む
「遅かったな」
更衣室で新しいレオタードに着替えていると、乱暴にドアを開け放って小百合が入ってきた。
太い首筋とこめかみに血管が浮かび上がっているところを見ると、かなり機嫌が悪いらしい。
「すみません。校長先生に呼ばれていたものですから」
あわててレオタードの肩ひもを肩にかけ、杏里は弁解した。
材質は同じだが、きょうのレオタードは紺色である。
だから、一見したところ、スクール水着のように見える。
レオタードは都合三着、璃子から渡されていた。
白とベージュ、そしてこの紺色だ。
練習が毎日あっても、洗濯さえ怠らなければ、三着で十分間に合う。
ただ、できれば、ほかのメンバーのように、早くちゃんとしたユニフォームがほしいと思う。
「イベントの話なら、聞いている」
若干表情を和らげて、小百合が言った。
「私も参加するように言われている。どんな役割なのかは、まだ聞かされていないが」
「先生も…ですか?」
そういえば、大山もそのようなことを口の端にのぼせていた。
もしかしたら、と杏里は思う。
小百合とのこの個人練習も、そのイベントの準備なのではないだろうか。
効率よく逃げながら、鬼たちを浄化していく技を身につけるための…。
小百合にその意図はないにしろ、もしかしたら、校長の大山が陰でそれとなく、そう仕向けているのかも…。
「時間がない。きょうは走り込みはいいから、すぐ私の部屋に来い。きのうに続いて、プロレス技を解く練習をする」
「でも、レスリングとプロレスは違うんですよね…? どうしてそんな、プロレスの技ばっかり…」
それも疑問だった。
ネットで少し調べてみたら、レスリングの技は、安全第一が基本だと書いてあったのだ。
例えばきのうかけられた絞め技は、だから危険すぎて本来なら反則なのではあるまいか。
「そう、その通り。プロレスの技には、危険なものが多い。そのまま試合で使えば反則だ。ただ、これは練習だから、反則もなにもない。むしろ危険な技を回避する技術を身につけることで、おまえはほかのメンバーたちよりずっと優位に立てる。これは、そのための個人練習なのだ。準備ができ次第、部屋に来い。私は先に行っている」
その逆三角形のたくましい背中を見送りながら、杏里は深いため息をついた。
最近、ため息ばかりついている気がする。
今のため息は、きょうのメニューを思い出したからだ。
キャメルクラッチ。
ネットの画像で見た。
信じられないくらい、痛そうだった。
が、自分がもはや、痛みを感じない身体だということはわかっている。
いや、むしろ、その技をかけられている自分の姿を想像すると…。
更衣室にも、鏡はあった。
杏里はその前に立つと、きわどいレオタードに包まれたはちきれそうな己の肢体をしげしげと観察した。
乳房の形も、乳輪も、乳首もへそも恥丘のスリットも、すべてが克明にトレースされた極薄の布は、ある意味全裸よりエロチックだ。
鏡の中の自分に顔を近づけると、杏里はその唇にそっと己の唇を押し当てた。
いとしい分身の唇は、とても冷たく、かすかに埃っぽい味がした。
更衣室で新しいレオタードに着替えていると、乱暴にドアを開け放って小百合が入ってきた。
太い首筋とこめかみに血管が浮かび上がっているところを見ると、かなり機嫌が悪いらしい。
「すみません。校長先生に呼ばれていたものですから」
あわててレオタードの肩ひもを肩にかけ、杏里は弁解した。
材質は同じだが、きょうのレオタードは紺色である。
だから、一見したところ、スクール水着のように見える。
レオタードは都合三着、璃子から渡されていた。
白とベージュ、そしてこの紺色だ。
練習が毎日あっても、洗濯さえ怠らなければ、三着で十分間に合う。
ただ、できれば、ほかのメンバーのように、早くちゃんとしたユニフォームがほしいと思う。
「イベントの話なら、聞いている」
若干表情を和らげて、小百合が言った。
「私も参加するように言われている。どんな役割なのかは、まだ聞かされていないが」
「先生も…ですか?」
そういえば、大山もそのようなことを口の端にのぼせていた。
もしかしたら、と杏里は思う。
小百合とのこの個人練習も、そのイベントの準備なのではないだろうか。
効率よく逃げながら、鬼たちを浄化していく技を身につけるための…。
小百合にその意図はないにしろ、もしかしたら、校長の大山が陰でそれとなく、そう仕向けているのかも…。
「時間がない。きょうは走り込みはいいから、すぐ私の部屋に来い。きのうに続いて、プロレス技を解く練習をする」
「でも、レスリングとプロレスは違うんですよね…? どうしてそんな、プロレスの技ばっかり…」
それも疑問だった。
ネットで少し調べてみたら、レスリングの技は、安全第一が基本だと書いてあったのだ。
例えばきのうかけられた絞め技は、だから危険すぎて本来なら反則なのではあるまいか。
「そう、その通り。プロレスの技には、危険なものが多い。そのまま試合で使えば反則だ。ただ、これは練習だから、反則もなにもない。むしろ危険な技を回避する技術を身につけることで、おまえはほかのメンバーたちよりずっと優位に立てる。これは、そのための個人練習なのだ。準備ができ次第、部屋に来い。私は先に行っている」
その逆三角形のたくましい背中を見送りながら、杏里は深いため息をついた。
最近、ため息ばかりついている気がする。
今のため息は、きょうのメニューを思い出したからだ。
キャメルクラッチ。
ネットの画像で見た。
信じられないくらい、痛そうだった。
が、自分がもはや、痛みを感じない身体だということはわかっている。
いや、むしろ、その技をかけられている自分の姿を想像すると…。
更衣室にも、鏡はあった。
杏里はその前に立つと、きわどいレオタードに包まれたはちきれそうな己の肢体をしげしげと観察した。
乳房の形も、乳輪も、乳首もへそも恥丘のスリットも、すべてが克明にトレースされた極薄の布は、ある意味全裸よりエロチックだ。
鏡の中の自分に顔を近づけると、杏里はその唇にそっと己の唇を押し当てた。
いとしい分身の唇は、とても冷たく、かすかに埃っぽい味がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる