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第9部 倒錯のイグニス
#123 女王覚醒①
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一見したところ、何の変哲もないマンションの1室である。
わずかばかりの調度類とベッド。
ただ、不思議なことに、窓がない。
なぜなら、ここはマンションの部屋などではなく、地下にある小部屋だからだ。
もう一点、普通と違うのは、ベッドの中やアームチェア、あるいは床までもが、何人もの全裸の少女たちで埋まっていることだ。
卵型の顔。
愁いを含んだ瞳。
あどけないフェイスにそぐわぬ、豊満な肢体。
全部で7、8人はいるだろうか。
なのに少女たちは、皆同じ姿形をしている。
「おまえはきょうからしばらくの間、ここで暮らすんだ」
部屋の入口で立ちすくむヤチカの裸の肩に手を置き、井沢が言った。
「なに、完全に正気を取り戻す必要はない。この子たちの相手をしながら、オリジナルへの欲望を募らせるんだ。時が近づいてきた。だから、杏里の記憶を解放することを許可してやる。オリジナルと再会する前に、ここでせいぜい楽しむんだな」
「杏里、ちゃん…」
催淫剤の投与と井沢のマインドコントロールで霞がかかったようになっているヤチカの脳裏で、何かが動いた。
見つめてくる、切なげなハシバミ色の瞳たち。
喘ぐ杏里の顔がいきなりフラッシュバックして、ヤチカは股間が濡れるのを感じ、思わず唾を飲み込んだ。
「本当に大丈夫なのか?」
分厚いステンレスチールの扉を前に、百足丸は怯えていた。
トレンチコートの前を両手でつかみ、長身の背を猫のように丸めている。
「解毒は完了した。医者の話では、欠損部位の修復もほぼ済んでいるそうだ。今の零はどこから見ても健康体だ」
壁のパネルに手のひらをかざしながら、淡々とした口調で井沢は答えた。
ヤチカの調教はもうすぐ終わる。
次は並行してもうひとつの計画を実行に移すだけだ。
「そういうことじゃない」
百足丸が珍しく語気を荒げた。
「俺たちの命の保障はあるのかって訊いてるんだよ。健康体なら尚更まずいじゃないか」
「だから私が来てやったんだ。作業しやすいようにお膳立てしてやるから、おまえが気をもむことはない」
音もなくドアが開いた。
内側にもう一枚ドアがある。
井沢がもう一度、掌紋認証パネルに手を当てると、そのドアがスライドして壁に吸い込まれた。
内部は、刑務所の独房のような殺風景な部屋である。
分厚い防音材を張り巡らされた壁には、やはり窓はない。
あるのは鉄パイプにマットを乗せただけの粗末なベッドと、部屋の隅をパーテーションで仕切ってつくった簡易トイレとユニットバスだけだ。
そのベッドの上に、両手を鎖でつながれた裸の女が座っていた。
半ば顔を隠し、ふたつの乳房を覆うように流れた長い髪。
体つきは華奢だが、かなりの長身で、手も足も長い。
投げ出した女の足首には鉄の輪がはまっていて、床の金具に固定されている。
「クィーンの部屋にしては、罰が当たるほどお粗末だな」
声を低めて、百足丸がささやいてきた。
「調教はどん底から始めるのが最も効果的だ。従順になるに従い、扱いを変えていくのさ」
井沢が答えた時である。
零が首をゆすり、髪を払いのけた。
その下から、切れ長の目とその中央で光る血のように赤い瞳孔が現れた。
「おまえがここのリーダーか?」
ほとんど口を動かさず、零が言った。
「待っていたぞ。この虫けらめ」
右手を軽く引っ張った。
ピキン。
金属音とともに、鎖がはじけ飛ぶ。
左手も同じだった。
手首を軽く曲げたとしか思えないのに、太い鎖が引き千切られ、零の腕から垂れ下がる。
零がベッドから降りてきた。
長いストレートヘアが、乳首と陰部をかろうじて隠している。
交互に足首をひねり、たやすく両足の拘束を解き放つと、かすかに口角を吊り上げて井沢を見た。
零の裸身からは、目に見えぬ瘴気のようなものが噴き出しているようだった。
負のオーラとでもいうべきものが、ほとんど物質化して顔に吹きつけてくる。
「私を誰だと思ってる。こんなことをして、ただで済むと思うのか」
「勘違いするな」
しり込みする百足丸を押し留めながら、井沢は言った。
「私はあなたを助けたのだ。それともあのまま、殺人鬼のまねごとを続けていたかったのか」
「助けなどいらない」
零の瞳に、ふいに怒りの色が宿った。
「私はひとりで、生きたいように生きる。誰がおまえたちのような、劣等種の世話になどなるものか」
「あなたはそうかもしれないが、我々のほうであなたに用がある」
井沢はサングラスに手をかけた。
もう潮時だろう。
瞬殺される前に、動きを止めなければ。
「そんなに死にたいのか」
零の口角が、更に吊り上がる。
唇の端から、尖った犬歯の先がのぞいている。
零は、どうやら笑ったらしかった。
わずかばかりの調度類とベッド。
ただ、不思議なことに、窓がない。
なぜなら、ここはマンションの部屋などではなく、地下にある小部屋だからだ。
もう一点、普通と違うのは、ベッドの中やアームチェア、あるいは床までもが、何人もの全裸の少女たちで埋まっていることだ。
卵型の顔。
愁いを含んだ瞳。
あどけないフェイスにそぐわぬ、豊満な肢体。
全部で7、8人はいるだろうか。
なのに少女たちは、皆同じ姿形をしている。
「おまえはきょうからしばらくの間、ここで暮らすんだ」
部屋の入口で立ちすくむヤチカの裸の肩に手を置き、井沢が言った。
「なに、完全に正気を取り戻す必要はない。この子たちの相手をしながら、オリジナルへの欲望を募らせるんだ。時が近づいてきた。だから、杏里の記憶を解放することを許可してやる。オリジナルと再会する前に、ここでせいぜい楽しむんだな」
「杏里、ちゃん…」
催淫剤の投与と井沢のマインドコントロールで霞がかかったようになっているヤチカの脳裏で、何かが動いた。
見つめてくる、切なげなハシバミ色の瞳たち。
喘ぐ杏里の顔がいきなりフラッシュバックして、ヤチカは股間が濡れるのを感じ、思わず唾を飲み込んだ。
「本当に大丈夫なのか?」
分厚いステンレスチールの扉を前に、百足丸は怯えていた。
トレンチコートの前を両手でつかみ、長身の背を猫のように丸めている。
「解毒は完了した。医者の話では、欠損部位の修復もほぼ済んでいるそうだ。今の零はどこから見ても健康体だ」
壁のパネルに手のひらをかざしながら、淡々とした口調で井沢は答えた。
ヤチカの調教はもうすぐ終わる。
次は並行してもうひとつの計画を実行に移すだけだ。
「そういうことじゃない」
百足丸が珍しく語気を荒げた。
「俺たちの命の保障はあるのかって訊いてるんだよ。健康体なら尚更まずいじゃないか」
「だから私が来てやったんだ。作業しやすいようにお膳立てしてやるから、おまえが気をもむことはない」
音もなくドアが開いた。
内側にもう一枚ドアがある。
井沢がもう一度、掌紋認証パネルに手を当てると、そのドアがスライドして壁に吸い込まれた。
内部は、刑務所の独房のような殺風景な部屋である。
分厚い防音材を張り巡らされた壁には、やはり窓はない。
あるのは鉄パイプにマットを乗せただけの粗末なベッドと、部屋の隅をパーテーションで仕切ってつくった簡易トイレとユニットバスだけだ。
そのベッドの上に、両手を鎖でつながれた裸の女が座っていた。
半ば顔を隠し、ふたつの乳房を覆うように流れた長い髪。
体つきは華奢だが、かなりの長身で、手も足も長い。
投げ出した女の足首には鉄の輪がはまっていて、床の金具に固定されている。
「クィーンの部屋にしては、罰が当たるほどお粗末だな」
声を低めて、百足丸がささやいてきた。
「調教はどん底から始めるのが最も効果的だ。従順になるに従い、扱いを変えていくのさ」
井沢が答えた時である。
零が首をゆすり、髪を払いのけた。
その下から、切れ長の目とその中央で光る血のように赤い瞳孔が現れた。
「おまえがここのリーダーか?」
ほとんど口を動かさず、零が言った。
「待っていたぞ。この虫けらめ」
右手を軽く引っ張った。
ピキン。
金属音とともに、鎖がはじけ飛ぶ。
左手も同じだった。
手首を軽く曲げたとしか思えないのに、太い鎖が引き千切られ、零の腕から垂れ下がる。
零がベッドから降りてきた。
長いストレートヘアが、乳首と陰部をかろうじて隠している。
交互に足首をひねり、たやすく両足の拘束を解き放つと、かすかに口角を吊り上げて井沢を見た。
零の裸身からは、目に見えぬ瘴気のようなものが噴き出しているようだった。
負のオーラとでもいうべきものが、ほとんど物質化して顔に吹きつけてくる。
「私を誰だと思ってる。こんなことをして、ただで済むと思うのか」
「勘違いするな」
しり込みする百足丸を押し留めながら、井沢は言った。
「私はあなたを助けたのだ。それともあのまま、殺人鬼のまねごとを続けていたかったのか」
「助けなどいらない」
零の瞳に、ふいに怒りの色が宿った。
「私はひとりで、生きたいように生きる。誰がおまえたちのような、劣等種の世話になどなるものか」
「あなたはそうかもしれないが、我々のほうであなたに用がある」
井沢はサングラスに手をかけた。
もう潮時だろう。
瞬殺される前に、動きを止めなければ。
「そんなに死にたいのか」
零の口角が、更に吊り上がる。
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