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第9部 倒錯のイグニス
#122 戦略②
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「ああ、でも、そう決めつける前に、相手の出方を予想してみないか。ちょっと思いついたことがある。もっと寄ってくれ」
咲良に促され、肩を寄せ合い、円陣を狭める3人。
元柔道部のエースだけあって、咲良はこの手の討論には燃えるタチのようだ。
本来なら副キャプテンの純が中心になるべきところを、そのお株を奪って完全に仕切り役になっている。
「スタンダードな布陣で行くなら、最初にふみ、次に麻衣、3番手に美穂、トリがアニスと、こういう感じじゃない?」
咲良の熱気が伝わったのか、純も大いに盛り上がっているようだ。
「ふみは格闘技の経験はゼロだけど、なんせあの巨体でしょ? 体重200キロはありそうだから、おそらく誰にも倒せない。だから一番手にふみを持ってきて、先手必勝を狙う。ね、ありそうな戦法じゃない?」
「うん。あたしもそう思う。トップはふみかアニスに間違いないだろうな。アニスは本場のプロ級選手だから、これもあたしたちでは勝ち目が薄い。ならば、いっそのこと、このふたりに杏里とトモをぶつけて、ほかのふたりからあたしと純が勝利を奪う。そうすれば、なんとか引き分けに持ち込める。こんな戦法もあるんだが」
「なるほどね」
純が感心したようにうなずいた。
「最初から引き分けを目標にしてに戦うってわけだね。確かに、まともにぶつかったら、敗色が濃いもんね。私と咲良がふみとアニスに負けたら、もう後がない」
「だろ? だから、こういう順番もありってことだ。1番、トモ。2番、純、3番、あたし。そして、トリが杏里」
「そ、そんな…」
泡を喰ったのは、杏里である。
「そんなの、ないよ。一番弱い、私がトリなんて…」
「だから今説明しただろ? 杏里は別に勝たなくてもいいんだよ。相手がふみであれ、アニスであれ、怪我しないように適当に戦って、負ければいいのさ」
馬鹿にしたように咲良が言ったので、杏里は内心、むっとした。
はじめっから負けろだなんて。
それじゃ、八百長みたいだし、だいたい、試合に出る意味、ないじゃない。
「でも、私、頑張りますよ。勝つつもりで」
杏里と同じ思いを抱いたのだろう。
1年生のトモが、やにわに口を開いた。
「そりゃ、ふみ先輩も、アニスキャプテンも、強敵です。けど、私が勝つ可能性だって、ゼロじゃない」
勝ち気な性格なのか、悔しそうに唇をぐっと左右に引き結んでいる。
「そうだな。トモは運動神経もいいし、素早いから、ひょっとするとひょっとするかもな。だけど、杏里は…」
咲良の流し目に悪意を感じ、杏里は顔をうつむけた。
握ったこぶしが膝の上で震えるのがわかった。
そりゃ、そうだけど。
でも、そんなに馬鹿にしなくてもいいじゃない。
むらむらと対抗心が湧き上がってくる。
繰り返すようだが、杏里はスポーツ音痴である。
身体の柔らかさ以外、取り柄はない。
でも。
と思う。
ここでいい加減な試合をしたら、小百合先生に申し訳が立たない。
あの先生、目当ては私の身体みたいだったけれど、ちゃんと私を見込んで、勝てる方法を教えてくれたのだ。
ならば、せいいっぱいやってみるしかない。
性露丸も、まだ十分残っている。
どうせドーピング検査なんてないだろうから、あれをたっぷり飲んでいけば…。
「気を落とさないでよ。杏里は私たちのマスコットなんだからさ。そこに居てくれるだけでいいんだよ」
沈黙した杏里を気遣ってか、純がやさしい口調で声をかけてきた。
「ありがと」
こぶしを握り締めたまま、杏里は微笑んだ。
「でもね、純。悪いけど、私も勝つよ」
咲良に促され、肩を寄せ合い、円陣を狭める3人。
元柔道部のエースだけあって、咲良はこの手の討論には燃えるタチのようだ。
本来なら副キャプテンの純が中心になるべきところを、そのお株を奪って完全に仕切り役になっている。
「スタンダードな布陣で行くなら、最初にふみ、次に麻衣、3番手に美穂、トリがアニスと、こういう感じじゃない?」
咲良の熱気が伝わったのか、純も大いに盛り上がっているようだ。
「ふみは格闘技の経験はゼロだけど、なんせあの巨体でしょ? 体重200キロはありそうだから、おそらく誰にも倒せない。だから一番手にふみを持ってきて、先手必勝を狙う。ね、ありそうな戦法じゃない?」
「うん。あたしもそう思う。トップはふみかアニスに間違いないだろうな。アニスは本場のプロ級選手だから、これもあたしたちでは勝ち目が薄い。ならば、いっそのこと、このふたりに杏里とトモをぶつけて、ほかのふたりからあたしと純が勝利を奪う。そうすれば、なんとか引き分けに持ち込める。こんな戦法もあるんだが」
「なるほどね」
純が感心したようにうなずいた。
「最初から引き分けを目標にしてに戦うってわけだね。確かに、まともにぶつかったら、敗色が濃いもんね。私と咲良がふみとアニスに負けたら、もう後がない」
「だろ? だから、こういう順番もありってことだ。1番、トモ。2番、純、3番、あたし。そして、トリが杏里」
「そ、そんな…」
泡を喰ったのは、杏里である。
「そんなの、ないよ。一番弱い、私がトリなんて…」
「だから今説明しただろ? 杏里は別に勝たなくてもいいんだよ。相手がふみであれ、アニスであれ、怪我しないように適当に戦って、負ければいいのさ」
馬鹿にしたように咲良が言ったので、杏里は内心、むっとした。
はじめっから負けろだなんて。
それじゃ、八百長みたいだし、だいたい、試合に出る意味、ないじゃない。
「でも、私、頑張りますよ。勝つつもりで」
杏里と同じ思いを抱いたのだろう。
1年生のトモが、やにわに口を開いた。
「そりゃ、ふみ先輩も、アニスキャプテンも、強敵です。けど、私が勝つ可能性だって、ゼロじゃない」
勝ち気な性格なのか、悔しそうに唇をぐっと左右に引き結んでいる。
「そうだな。トモは運動神経もいいし、素早いから、ひょっとするとひょっとするかもな。だけど、杏里は…」
咲良の流し目に悪意を感じ、杏里は顔をうつむけた。
握ったこぶしが膝の上で震えるのがわかった。
そりゃ、そうだけど。
でも、そんなに馬鹿にしなくてもいいじゃない。
むらむらと対抗心が湧き上がってくる。
繰り返すようだが、杏里はスポーツ音痴である。
身体の柔らかさ以外、取り柄はない。
でも。
と思う。
ここでいい加減な試合をしたら、小百合先生に申し訳が立たない。
あの先生、目当ては私の身体みたいだったけれど、ちゃんと私を見込んで、勝てる方法を教えてくれたのだ。
ならば、せいいっぱいやってみるしかない。
性露丸も、まだ十分残っている。
どうせドーピング検査なんてないだろうから、あれをたっぷり飲んでいけば…。
「気を落とさないでよ。杏里は私たちのマスコットなんだからさ。そこに居てくれるだけでいいんだよ」
沈黙した杏里を気遣ってか、純がやさしい口調で声をかけてきた。
「ありがと」
こぶしを握り締めたまま、杏里は微笑んだ。
「でもね、純。悪いけど、私も勝つよ」
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