激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#130 紅白戦④

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 その少し前のことである。
 2限目終了のチャイムが鳴るとしばらくして、教室に咲良がやってきた。
「璃子はどこだ?」
 巨体で入口をふさぐようにして立つと、胴間声で吠えるように言った。
「やだ、咲良じゃないの? どうしちゃったの? こんな時間に?」
 席から腰を上げ、応対する純。
「聞いてないのかよ? 紅白戦のルール変更のこと」
 巨体でクラスメートを押しのけるようにして咲良が入ってくると、その背後から小柄なミホが現れた。
 どうやら咲良と示し合わせて、一緒にやってきたらしい。
「体育館のリングは見たけど、ルール変更って、どういうこと? 杏里、知ってる?」
 純が振り向き、杏里を見た。
「う、うん。今朝、アニスに聞いたけど」
 うなずくと、3人がそろって、杏里の席を取り囲んだ。
 さっきまで居たのに、教室内に璃子とふみの姿はない。
 面倒を恐れて外に逃げ出したのだろうか。
 咲良の巨大な尻に机を押され、隣の唯佳が嫌そうな顔をした。
 咲良ではなく、杏里をひと睨みすると、ぷいと顔を背けて、教室を出て行ってしまった。
 あ、唯佳、ごめん。
 そうあやまりたかったが、壁になった3人が障害になって、つい声をかけそびれてしまった。
「やっぱりか」
 咲良が唯佳の椅子を引き寄せてきて、その上にどっかりと座り込む。
「あたしも麻衣にちらっと聞いたんだけどさ、璃子の口からじかに聞こうと思って、こうして出向いてきたんだけど」
「いないみたいだね。ふみと一緒に、トイレかな」
 純が周囲を見回した。
「まあいいさ。それより、杏里、おまえが聞いたのはどんな内容だ。ちょっと話してみな」
「えっと」
 机の上に頬杖をついた咲良に威圧され、杏里は半ば上半身をのけぞらせて、どぎまぎしながら答えた。
「確か、プロレスルールに変更して、チーム対抗のトーナメント戦にするとか…」
「リングを見れば、プロレス技OKってのはすぐわかるけど、チーム対抗のトーナメント戦って、それ何よ?」
「要は、勝った選手は、自分が負けるか、相手チームに全勝するまで戦い続けるってことさ。あたしらが予測してた、ひとり一勝で済む試合方式じゃなくなったってこと」
「え? てことは、組み合わせを考え直さなきゃいけないじゃん」
「だからトモも連れてきたのさ。きのう決めた順番は一度白紙に戻して、ここで決め直そうと思ってな」
 驚く純に、冷静な口調で咲良が言った。
 その言葉に、杏里はほっと胸を撫で下ろした。
 きのうの打ち合わせでは、トモ、純、咲良、杏里の順で、杏里がトリだったからである。
「トーナメント方式ってことは、先鋒で勝ちに行くのは、不経済ってことになるよね」
 考え考え、純が口を開いた。
「自軍の選手が最後まで残ればいいわけだから、むしろエース級は温存して最後に出したほうが有利ってことか」
「だな。となると、杏里のトリはまずいだろう」
「そうか。そうだね。じゃ、自然とこうなるんじゃない? 1番、杏里、2番、トモ、3番、私、で、トリが咲良」
「うん。あたしもそれで行こうと思ってた。要は、弱い者順だな。だから杏里、おまえが先鋒だ。勝たなくていいから、せいぜい敵を疲れさせてくれ。後はうちら3人でなんとかするからさ」
「私が…先鋒?」
 杏里は呆然と、咲良の血色のいい顔を見返した。
 トリも嫌だが、先鋒はもっと嫌だ。
 もし仮に1勝してしまったら、次の相手と戦わねばならなくなってしまうのだ。
「最初に負ければ、あとはずっと見学なんだから、そのほうが気が楽だろ?」
 咲良の頭には、杏里の勝利という未来はかけらもないようだ。
「でも、私が勝ち進んだら?」
 口にするなり、3人がどっと笑った。
「またそんなこと言って」
 1年生のトモがくすくす笑いながら言った。
「杏里先輩って、見かけによらず、面白い人なんですね」


 



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