激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第9部 倒錯のイグニス

#147 ふみ①

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 再びリングの上に立ってみて初めて、自分がどうしようもなく疲弊し切っていることに気づいた。
 視界が揺れる。
 膝が笑って、立っているのもやっとの状態だ。
 無理もない、と思う。
 禁じ手を使ったとはいえ、己より数段技量の優れた3人の敵と戦ってきたのである。
 もとよりスポーツには素人の杏里の体力が底をついたとしても、何の不思議もない。
 むしろ、ここまで頑張ってきた自分を褒めてやりたいほどだった。
 しゃんとしなさい! 杏里!
 両の手のひらで頬を張って、活を入れた。
 あとひとり。
 あとひとりなんだから。
 半ば停止しかけた思考では、もう、ふみが外来種であろうとなかろうと、どうでもよくなっていた。
 とにかく、勝って休みたかった。
 それには、なんとしてでも苦手のふみを浄化し尽くす必要がある。
 これまで何度も浄化に失敗してきたふみを…。
「おお! 杏里、会いたかったよぉ! 好きだよぉ! もう、食べちゃいたいよぉ!」
 疲れ果てた杏里とは打って変わって、ふみは最高にハイテンションだった。
 ようやく落ち着いたものの、杏里の裸身を舐めるような眼で見つめ、早くも口の中を唾液で一杯にしている。
 アニス戦の名残りで、杏里は全身が性感帯と化したような余韻にどっぷりと漬かったままである。
 身体中の肌が体液で濡れ、光沢を放ち、股間では陰核を固定したリングが鈍い輝きを放っている。
 胸から突き出た乳房はかつてないほど膨らみ、平らな下腹が快感の余韻で波打っていた。
 対するふみは、最初から裸だった。
 何層にも肉を重ねたようなボンレスハムのような巨体が、醜悪このうえない。
 あまりに肉の層が厚すぎて、どこが乳房でどこが腹なのか、皆目区別がつかないのだ。
 だから全裸といってもそこには単に巨大な肉塊がそびえ立っているだけで、エロスはかけらもない。
 ただ、その醜悪な躰に杏里が対峙するとなると、話は別だった。
 ふみの肉体の醜さが、華奢でありながら豊満な杏里の肢体を、否応なしに際立たせている。
 その醜悪な肉塊に隠花植物のような己の肌が蹂躙されるシーンを想像するだけで、杏里は濡れてきてしまう。
 身体を支えていたロープから手を放すと、杏里はよろめきながらふみの前に立った。
「食べちゃいたい…食べちゃいたいよぉ」
 うわ言のように、ふみが繰り返す。
「勝手にしろ!」
 呪文のようなつぶやきに嫌気がさしたのか、璃子が何の前触れもなく、だしぬけにホイッスルを吹き鳴らした。
「ひゃっほうっ!」
 奇声を上げて突進してくるふみ。
 杏里には、それをよけるだけの体力もない。
 胸に体当たりをくらって、吹っ飛ばされた。
 背中からロープにぶち当たり、反動でリングの中央にまろび出た。
 丸めたふみの背中が迫ってきた。
 勢い余ってその上にのしかかった瞬間、ふみが大きく跳ね起きた。
 杏里の裸体が宙を舞う。
 体育館の天井がどんどん近づいてくる。
 ずいぶんと長い、滞空時間だった。
 放物線の頂点まで達し、やがて落下に転じながら、杏里は思った。
 このままマットに沈んで、フォールされてしまえば、どんなに楽だろう…。
 落下が速くなる。
 もうすぐマットだ、と思ったとたん、腰骨が折れそうなほど軋んだ。
 杏里が落ちたのは、ふみの膝の上だった。
 毬のようにバウンドして、後頭部からマットに叩きつけられた。
 気が遠くなった。
 全身がバラバラになったような気がした。
「食べちゃう食べちゃう!」
 大の字になった杏里の裸体の上に、どん!とジャンプしたふみの巨体が落ちかかってきた。
 トラックの下敷きになったような衝撃に、杏里の手足が壊れた人形のように踊った。
 フォールしようと思えば、簡単にできたはずだった。
 だが、ふみはそうしなかった。
 杏里の頭部をいきなり抱え起こすと、ふいに分厚い唇を杏里の口に押しつけてきたのだ。
 チャンス!
 気を奮い起こし、杏里は思った。
 ディープキスに持ち込めば、ふみの動きを止められる。
 唾液を注入して、性腺刺激中枢に火をつけてしまえばいい。
 杏里は侵入してきた海鼠のようにざらついたふみの舌を、己の舌で絡め取ろうとした。
 だが、ふみのほうが一枚も二枚も上手だったようだ。
 杏里の舌を外に引きずり出すと、その表面に前歯を立てて、やにわに噛みついてきたのである。
 口腔内に熱いものが溢れ返った。
 鉄さびそっくりの匂いが鼻孔に充満する。
 杏里の舌は、先端から1センチほど、切断されていた。
 その切れ端を、ふみが咥えている。
 やがて、ガムでも噛むように、ふみが口をくちゅくちゅやり出した。
「おいしい…!」
 咀嚼した肉片を飲み下すと、うっとりとした口調で、つぶやいた。
「ねえ、杏里…。次はどこを食べてほしい?」

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