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第9部 倒錯のイグニス
#151 ふみ⑤
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リングの上は、嵐に遭遇した帆船のように、揺れに揺れていた。
純と咲良が、ふたりがかりでふみを痛めつけているのだ。
だが、神経の麻痺したふみは、いくら殴られたり蹴られたりしてもひるまない。
獣めいた唸り声を上げて、猛牛のようにふたりに立ち向かっていく。
体重にものをいわせてぶつかってくるふみに、純がはじき飛ばされた。
倒れ込んだ純にボディプレスを見舞おうとするふみを、背後から咲良が羽交い絞めにして止めにかかる。
その咲良の顔面に頭突きを食らわせ、振り向きざまふみが丸太のような腕で殴りつける。
側頭部を強打され、ロープに倒れかかる咲良に咆哮をあげてのしかかるふみ。
リング上で繰り広げられる死闘を横目で見ながら、杏里はひそかに肉体が回復するのを待っていた。
杏里の体細胞に寄生するおびただしい数のミトコンドリアは、すべて雌外来種起源のものである。
そのエネルギー効率は人間のそれの何十倍にも達し、自由度の高い幹細胞群へと常にパワーを供給している。
杏里はそのタナトスとしての治癒能力に加え、美里からラーニングした高い回復力をも身につけている。
更にサイコジェニーが与えた”暗示”がそれらの力を増幅し、杏里の不死身性をほぼ完璧なものにしていた。
だから、たとえ舌と乳首を噛みちぎられ、子宮を破られ、全身の骨をぐずぐずにされても、杏里は死にはしないのだ。
脳が生きている限り、”修復作業”は自動的かつ迅速に実行されるからである。
扁平だった乳房に、弾力が戻ってきていた。
根元が裂け、先端の1センチを失った舌は、すでに元の形を取り戻している。
はじけた膣周辺の括約筋も同様だった。
杏里の秘所は、己の淫汁を滋養として、すっかり元の初々しさを回復している。
膣の奥の子宮もあるべき位置に戻り、出血もほとんど止まっていた。
あとは、骨がつながるのを待つばかりだ。
リングでは、ようやくふみの動きが鈍り始めていた。
顔から血を流した咲良がふみをロープ際に抑え込み、その短い両手にロープを絡みつかせている。
ふみの前に立った純が、長くたくましい脚を振り上げ、分厚いリングシューズの底でふみの顔を何度も何度も蹴りつける。
リングの上で展開されているのは、もはやプロレスともいえぬデスマッチだ。
レフェリーの璃子は、すでに仲裁に入るのを放棄してしまったらしく、ホイッスルすら鳴らさず呆れたように3人の乱闘を眺めている。
それにしても腑に落ちないのは、外来種が誰にすり替わっているのかということだ。
戦った4人は、外来種ではなかった。
だが、状況はすべてこの現場に外来種が潜入していることを示している。
水飲み場から校舎入口へと続く血痕。
物言いたげなまなざしを残して消えた唯佳の首。
そして、試合直前に、杏里の肌に突如として現れた刻印。
特に最後の”刻印(スティグマ)は、杏里が外来種に触れない限り、現れないものなのだ。
ようやく手足の指先に感覚が戻ってきて、試しに上半身を起こそうとした時だった。
ふいにすぐ近くで人の気配を感じて、杏里はとっさに振り向こうとした。
その瞬間、腕をつかまれ、ロープの隙間から場外に引きずり落とされた。
もがく杏里を、誰かが更にリングの下の狭い空間へと引きずりこんでいく。
リングの下は、高さ50センチほどの床下になっている。
そこに、何物かがひそみ、獲物を巣穴に引き込むように杏里を拉致したのだった。
「だ、誰?」
新しく復元した舌のせいで、妙にかすれた声が出た。
「あ・た・し」
闇の奥にひそむ何かが、からかうような口調で言った。
「あ、あなたは…」
杏里は凍りついた。
どういうこと?
そんな…ありえない…。
純と咲良が、ふたりがかりでふみを痛めつけているのだ。
だが、神経の麻痺したふみは、いくら殴られたり蹴られたりしてもひるまない。
獣めいた唸り声を上げて、猛牛のようにふたりに立ち向かっていく。
体重にものをいわせてぶつかってくるふみに、純がはじき飛ばされた。
倒れ込んだ純にボディプレスを見舞おうとするふみを、背後から咲良が羽交い絞めにして止めにかかる。
その咲良の顔面に頭突きを食らわせ、振り向きざまふみが丸太のような腕で殴りつける。
側頭部を強打され、ロープに倒れかかる咲良に咆哮をあげてのしかかるふみ。
リング上で繰り広げられる死闘を横目で見ながら、杏里はひそかに肉体が回復するのを待っていた。
杏里の体細胞に寄生するおびただしい数のミトコンドリアは、すべて雌外来種起源のものである。
そのエネルギー効率は人間のそれの何十倍にも達し、自由度の高い幹細胞群へと常にパワーを供給している。
杏里はそのタナトスとしての治癒能力に加え、美里からラーニングした高い回復力をも身につけている。
更にサイコジェニーが与えた”暗示”がそれらの力を増幅し、杏里の不死身性をほぼ完璧なものにしていた。
だから、たとえ舌と乳首を噛みちぎられ、子宮を破られ、全身の骨をぐずぐずにされても、杏里は死にはしないのだ。
脳が生きている限り、”修復作業”は自動的かつ迅速に実行されるからである。
扁平だった乳房に、弾力が戻ってきていた。
根元が裂け、先端の1センチを失った舌は、すでに元の形を取り戻している。
はじけた膣周辺の括約筋も同様だった。
杏里の秘所は、己の淫汁を滋養として、すっかり元の初々しさを回復している。
膣の奥の子宮もあるべき位置に戻り、出血もほとんど止まっていた。
あとは、骨がつながるのを待つばかりだ。
リングでは、ようやくふみの動きが鈍り始めていた。
顔から血を流した咲良がふみをロープ際に抑え込み、その短い両手にロープを絡みつかせている。
ふみの前に立った純が、長くたくましい脚を振り上げ、分厚いリングシューズの底でふみの顔を何度も何度も蹴りつける。
リングの上で展開されているのは、もはやプロレスともいえぬデスマッチだ。
レフェリーの璃子は、すでに仲裁に入るのを放棄してしまったらしく、ホイッスルすら鳴らさず呆れたように3人の乱闘を眺めている。
それにしても腑に落ちないのは、外来種が誰にすり替わっているのかということだ。
戦った4人は、外来種ではなかった。
だが、状況はすべてこの現場に外来種が潜入していることを示している。
水飲み場から校舎入口へと続く血痕。
物言いたげなまなざしを残して消えた唯佳の首。
そして、試合直前に、杏里の肌に突如として現れた刻印。
特に最後の”刻印(スティグマ)は、杏里が外来種に触れない限り、現れないものなのだ。
ようやく手足の指先に感覚が戻ってきて、試しに上半身を起こそうとした時だった。
ふいにすぐ近くで人の気配を感じて、杏里はとっさに振り向こうとした。
その瞬間、腕をつかまれ、ロープの隙間から場外に引きずり落とされた。
もがく杏里を、誰かが更にリングの下の狭い空間へと引きずりこんでいく。
リングの下は、高さ50センチほどの床下になっている。
そこに、何物かがひそみ、獲物を巣穴に引き込むように杏里を拉致したのだった。
「だ、誰?」
新しく復元した舌のせいで、妙にかすれた声が出た。
「あ・た・し」
闇の奥にひそむ何かが、からかうような口調で言った。
「あ、あなたは…」
杏里は凍りついた。
どういうこと?
そんな…ありえない…。
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