184 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#184 イベント準備⑪
しおりを挟む
「でも、そんなこと、初めからわかってたはずでしょ? ルナもパトスなんだから」
ミルクシェイクをストローでひと口すすって、杏里は言った。
Lサイズの紙皿の上の食べ物は、あらかたなくなってしまっている。
しゃべりながら、杏里がその大半を食べてしまったからだ。
「そう、そうだよな」
ルナが泣き笑いのような表情を、その整った顔に浮かべた。
そして次に、その口から飛び出したのは、予想外の言葉だった。
「だから、やっぱりやめるよ。決めた。わたしは帰る。悪いが、カラオケは杏里ひとりで楽しんでくれ」
「はあ?」
杏里はミルクシェイクから顔を上げ、まじまじとルナを見つめた。
「何言ってるの? 誘ったの、ルナのほうでしょ?」
湧いてきた怒りで、自然と声が尖るのがわかった。
「ああ。けど、気が変わった。わたしは今のこの、悶々とした気持ちのままでいい。おまえを見て何も感じなくなるなんて、そのほうがよっぽど耐えられない」
何か、吹っ切れたような表情をしている。
「じゃあ、私も今のままの私でいいのね?」
背中を向けたルナに、意地悪く杏里は言った。
「快楽を求めて、男とも女とも、時と場合によっては外来種とだって寝る、こんなふしだらな私のままで」
「もちろん、嫌さ」
ドアを開けながら、振り向きもせず、ルナが肩越しに答えた。
「でも、我慢する。決しておまえには迷惑をかけない。もちろん、パトスの任務も全うするから心配するな」
「そんなことできるの? 急にいい子ぶっちゃって、きょうのルナ、なんか変だよ? 頭、大丈夫?」
燃え上がり損ねた欲情を持て余し、杏里はつい、そんな暴言を吐いていた。
が、ルナは振り返りもしなかった。
杏里の言葉は、荒々しくドアが閉まる音にかき消された。
「どうなってるの?」
閉まったドアを見つめ、杏里は呆然とそうひとりごちた。
「どうなってるんだ? あの外人女だけ、出て来たぞ」
隣のボックスから廊下の様子をうかがっていた百足丸は、信じられないといったふうに首をかしげた。
「喧嘩でもしたのか? リュックを背負ってるから、トイレでもなさそうだ」
廊下を歩く長身の少女の後ろ姿を目で追いながら、いぶかしげにつぶやいた。
「願ったり叶ったりね」
テーブルの上の灰皿で、細身のメンソールをにじり潰し、ヤチカが言う。
「理由なんかどうでもいいじゃない。こんなチャンス、めったにないんだから」
サングラスのせいで表情はわからないが、相変わらず淡々とした口調である。
「やるのか?」
声をひそめて、百足丸はたずねた。
「しかし、状況が変わったぞ。ふたりを引き離す必要がなくなった。計画の変更はどうするんだ?」
「私に任せて」
ヤチカが腰を上げた。
コートの裾が割れて、ストッキングに包まれた艶めかしい太腿が露わになる。
「あなたは最後の最後に出てきてくれればいい」
「だけど、方法は? 何の力もないおまえに、あのサイキッカーを無力化できるのか?」
「あなたや井沢さんには悪いけど」
部屋を出がけにヤチカがちらりと百足丸を見た。
「さすがに不安だったから、実はあなたたちには内緒で、こっそり保険をかけさせてもらったの。それが思わぬかたちで役に立ちそうよ」
ミルクシェイクをストローでひと口すすって、杏里は言った。
Lサイズの紙皿の上の食べ物は、あらかたなくなってしまっている。
しゃべりながら、杏里がその大半を食べてしまったからだ。
「そう、そうだよな」
ルナが泣き笑いのような表情を、その整った顔に浮かべた。
そして次に、その口から飛び出したのは、予想外の言葉だった。
「だから、やっぱりやめるよ。決めた。わたしは帰る。悪いが、カラオケは杏里ひとりで楽しんでくれ」
「はあ?」
杏里はミルクシェイクから顔を上げ、まじまじとルナを見つめた。
「何言ってるの? 誘ったの、ルナのほうでしょ?」
湧いてきた怒りで、自然と声が尖るのがわかった。
「ああ。けど、気が変わった。わたしは今のこの、悶々とした気持ちのままでいい。おまえを見て何も感じなくなるなんて、そのほうがよっぽど耐えられない」
何か、吹っ切れたような表情をしている。
「じゃあ、私も今のままの私でいいのね?」
背中を向けたルナに、意地悪く杏里は言った。
「快楽を求めて、男とも女とも、時と場合によっては外来種とだって寝る、こんなふしだらな私のままで」
「もちろん、嫌さ」
ドアを開けながら、振り向きもせず、ルナが肩越しに答えた。
「でも、我慢する。決しておまえには迷惑をかけない。もちろん、パトスの任務も全うするから心配するな」
「そんなことできるの? 急にいい子ぶっちゃって、きょうのルナ、なんか変だよ? 頭、大丈夫?」
燃え上がり損ねた欲情を持て余し、杏里はつい、そんな暴言を吐いていた。
が、ルナは振り返りもしなかった。
杏里の言葉は、荒々しくドアが閉まる音にかき消された。
「どうなってるの?」
閉まったドアを見つめ、杏里は呆然とそうひとりごちた。
「どうなってるんだ? あの外人女だけ、出て来たぞ」
隣のボックスから廊下の様子をうかがっていた百足丸は、信じられないといったふうに首をかしげた。
「喧嘩でもしたのか? リュックを背負ってるから、トイレでもなさそうだ」
廊下を歩く長身の少女の後ろ姿を目で追いながら、いぶかしげにつぶやいた。
「願ったり叶ったりね」
テーブルの上の灰皿で、細身のメンソールをにじり潰し、ヤチカが言う。
「理由なんかどうでもいいじゃない。こんなチャンス、めったにないんだから」
サングラスのせいで表情はわからないが、相変わらず淡々とした口調である。
「やるのか?」
声をひそめて、百足丸はたずねた。
「しかし、状況が変わったぞ。ふたりを引き離す必要がなくなった。計画の変更はどうするんだ?」
「私に任せて」
ヤチカが腰を上げた。
コートの裾が割れて、ストッキングに包まれた艶めかしい太腿が露わになる。
「あなたは最後の最後に出てきてくれればいい」
「だけど、方法は? 何の力もないおまえに、あのサイキッカーを無力化できるのか?」
「あなたや井沢さんには悪いけど」
部屋を出がけにヤチカがちらりと百足丸を見た。
「さすがに不安だったから、実はあなたたちには内緒で、こっそり保険をかけさせてもらったの。それが思わぬかたちで役に立ちそうよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる