183 / 463
第9部 倒錯のイグニス
#183 イベント準備⑩
しおりを挟む
カラオケルームは、アウトレットの一角、ゲームセンターの奥にあった。
さまざまなアーケードゲームが電子音を奏でる迷宮の中を、杏里はルナの手を引いて歩いた。
リズムゲームに興じて踊る女子小学生、格闘ゲームに歓声を上げる男子中学生のグループ。
UFOキャッチャーを取り巻き、大騒ぎする女子高生たち。
杏里とルナがそばを通り過ぎると、その誰もが手を止めて振り向いた。
セクシー系の杏里と金髪美少女ルナのコンビは、否が応でも人目を引く。
そのふたりが訳ありげに手をつないでいるのだから、尚更だ。
目当ての店にたどりつくと、杏里はカウンターで2時間分の料金を払い、ついでにファーストフードのセットを注文した。
提案したのはルナだが、今や主導権は完全に杏里が握っている。
個室に入り、ソファに身を投げ出すと、テーブルの脇に立ったままのルナに声をかけた。
「まずは軽く何か食べてからでいいかな? それに、せっかくだから、何か歌おうよ」
テーブルからマイクを拾い上げ、ルナに手渡した。
「わたし、最近の歌なんて、知らないから」
ルナが力なく、かぶりを振った。
「歌いたいなら、杏里ひとりで歌いなよ。わたしは、聴いてるだけでいい」
「変なの。じゃ、遠慮なく」
タッチペン片手に、リクエスト画面をのぞきこむ杏里。
杏里はいつになくハイになっている。
視聴覚室で、AV男優を浄化した経験が、自信を取り戻させたのだ。
一昨日、沼人形工房の”ヤチカの部屋”で姿の見えないヤチカにいいように弄ばれ、へこみかけていた時である。
今朝の一件は、杏里にとって、明らかにプラスに働いたようだった。
続けざまに2曲入れると、ステージに上がってイントロに合わせ、ミニスカ姿で腰を振り始める。
選んだのは、誰もが知っているアイドルグループのヒット曲だ。
声量もなく、歌もうまくないが、杏里は身体を動かすことは嫌いではない。
コスチュームによっては、自分をよりセクシーに見せることができるからだ。
下着をこれみよがしに見せながら、ルナを挑発するように歌い、踊った。
ようやくソファに座ったものの、まるで初夜を目前にした花嫁のように、ルナの表情は硬いままである。
そのくせその眼は杏里の一挙手一投足をぴったりと追い、1秒たりとも離れようとしない。
2曲目を歌い終わる頃、オーダーしたフード類と飲み物が運ばれてきた。
「あー、おなかすいた」
フライドポテトに手を伸ばし、むしゃむしゃやりながら、そっとルナの様子をうかがった。
ルナは食べ物にも飲み物にも手をつけず、じっとテーブルの上に視線を落としたままだ。
この美少女を、どんな具合に屈服させようか。
空腹を満たしながら、さっきから杏里はそんなことばかり考えている。
不思議と甘酸っぱい感情はなく、性的な興味が前面に出てしまっていた。
恋愛感情が薄れたのは、ルナが完全に自分の軍門に下ったのがわかってしまったからだろう。
かつての由羅との関係の変化から、杏里はそんな教訓を学んでいた。
欲しかったものがいったん手に入ると、興味自体が薄れてしまう。
杏里にはどうもそんな薄情な性向があるらしいのだ。
「なあ、杏里、やっぱりこんなの、間違ってるよな」
杏里の内面の変化も知らず、ルナが力のない声でぽつりとそう言った。
「パトスとタナトスは、浄化し合うものじゃない。もともと、信頼で結ばれたパートナーなんだから」
「それはそうだけど」
今頃になってのルナの変心に、さすがの杏里も戸惑った。
「少なくとも、シンガポールでの生活はそうだった。そこでは、相棒を守って外来種と戦うことだけが、私の人生だったんだ。こんな気持ちになったのは、杏里、おまえが初めてだよ」
「あなたのパートナーは、どうなったの?」
「今も向こうにいる。快活でさっぱりした気性の中国人の少女さ。おまえとは、真逆のタイプだな」
「ドロドロしてて、陰気くさくて悪かったわね」
ぷいとそっぽを向く杏里。
心の中では、ほくそ笑んでいる。
ルナをいじるのが、こんなに楽しいとは思わなかった。
「そんなことは、言ってない」
気色ばむルナ。
その過剰な反応が、今の杏里には面白くてならないのだ。
「わたしは、彼女、マオマオにそんな気持ちを抱いたことはない。抱きたいとか、自分だけのものにしたいとか…だいたい、私はレズでもなんでもなかったし…」
苦渋に満ちた口調ながら、ルナの言葉はいつもストレートだ。
「抱きたいから、ここに誘ったんでしょ? なのに今更、何ぐずぐず悩んでるの?」
唐揚げに手をつけ、おいしそうに頬張りながら、あっけらかんとした口調で、杏里は言った。
「ちらっと思ったんだ。浄化されてしまったら、わたしとおまえの関係は、終わってしまうんじゃないかって」
ルナは痛々しい眼をしている。
「そうだね」
杏里はゆっくりうなずいた。
「今と同じには、もう戻れないと思うよ」
それはね。
あなたの中の私への”衝動”を、私がすべて吸い取ってしまうから。
性欲が消えた時、恋愛関係は終わるのだから。
さまざまなアーケードゲームが電子音を奏でる迷宮の中を、杏里はルナの手を引いて歩いた。
リズムゲームに興じて踊る女子小学生、格闘ゲームに歓声を上げる男子中学生のグループ。
UFOキャッチャーを取り巻き、大騒ぎする女子高生たち。
杏里とルナがそばを通り過ぎると、その誰もが手を止めて振り向いた。
セクシー系の杏里と金髪美少女ルナのコンビは、否が応でも人目を引く。
そのふたりが訳ありげに手をつないでいるのだから、尚更だ。
目当ての店にたどりつくと、杏里はカウンターで2時間分の料金を払い、ついでにファーストフードのセットを注文した。
提案したのはルナだが、今や主導権は完全に杏里が握っている。
個室に入り、ソファに身を投げ出すと、テーブルの脇に立ったままのルナに声をかけた。
「まずは軽く何か食べてからでいいかな? それに、せっかくだから、何か歌おうよ」
テーブルからマイクを拾い上げ、ルナに手渡した。
「わたし、最近の歌なんて、知らないから」
ルナが力なく、かぶりを振った。
「歌いたいなら、杏里ひとりで歌いなよ。わたしは、聴いてるだけでいい」
「変なの。じゃ、遠慮なく」
タッチペン片手に、リクエスト画面をのぞきこむ杏里。
杏里はいつになくハイになっている。
視聴覚室で、AV男優を浄化した経験が、自信を取り戻させたのだ。
一昨日、沼人形工房の”ヤチカの部屋”で姿の見えないヤチカにいいように弄ばれ、へこみかけていた時である。
今朝の一件は、杏里にとって、明らかにプラスに働いたようだった。
続けざまに2曲入れると、ステージに上がってイントロに合わせ、ミニスカ姿で腰を振り始める。
選んだのは、誰もが知っているアイドルグループのヒット曲だ。
声量もなく、歌もうまくないが、杏里は身体を動かすことは嫌いではない。
コスチュームによっては、自分をよりセクシーに見せることができるからだ。
下着をこれみよがしに見せながら、ルナを挑発するように歌い、踊った。
ようやくソファに座ったものの、まるで初夜を目前にした花嫁のように、ルナの表情は硬いままである。
そのくせその眼は杏里の一挙手一投足をぴったりと追い、1秒たりとも離れようとしない。
2曲目を歌い終わる頃、オーダーしたフード類と飲み物が運ばれてきた。
「あー、おなかすいた」
フライドポテトに手を伸ばし、むしゃむしゃやりながら、そっとルナの様子をうかがった。
ルナは食べ物にも飲み物にも手をつけず、じっとテーブルの上に視線を落としたままだ。
この美少女を、どんな具合に屈服させようか。
空腹を満たしながら、さっきから杏里はそんなことばかり考えている。
不思議と甘酸っぱい感情はなく、性的な興味が前面に出てしまっていた。
恋愛感情が薄れたのは、ルナが完全に自分の軍門に下ったのがわかってしまったからだろう。
かつての由羅との関係の変化から、杏里はそんな教訓を学んでいた。
欲しかったものがいったん手に入ると、興味自体が薄れてしまう。
杏里にはどうもそんな薄情な性向があるらしいのだ。
「なあ、杏里、やっぱりこんなの、間違ってるよな」
杏里の内面の変化も知らず、ルナが力のない声でぽつりとそう言った。
「パトスとタナトスは、浄化し合うものじゃない。もともと、信頼で結ばれたパートナーなんだから」
「それはそうだけど」
今頃になってのルナの変心に、さすがの杏里も戸惑った。
「少なくとも、シンガポールでの生活はそうだった。そこでは、相棒を守って外来種と戦うことだけが、私の人生だったんだ。こんな気持ちになったのは、杏里、おまえが初めてだよ」
「あなたのパートナーは、どうなったの?」
「今も向こうにいる。快活でさっぱりした気性の中国人の少女さ。おまえとは、真逆のタイプだな」
「ドロドロしてて、陰気くさくて悪かったわね」
ぷいとそっぽを向く杏里。
心の中では、ほくそ笑んでいる。
ルナをいじるのが、こんなに楽しいとは思わなかった。
「そんなことは、言ってない」
気色ばむルナ。
その過剰な反応が、今の杏里には面白くてならないのだ。
「わたしは、彼女、マオマオにそんな気持ちを抱いたことはない。抱きたいとか、自分だけのものにしたいとか…だいたい、私はレズでもなんでもなかったし…」
苦渋に満ちた口調ながら、ルナの言葉はいつもストレートだ。
「抱きたいから、ここに誘ったんでしょ? なのに今更、何ぐずぐず悩んでるの?」
唐揚げに手をつけ、おいしそうに頬張りながら、あっけらかんとした口調で、杏里は言った。
「ちらっと思ったんだ。浄化されてしまったら、わたしとおまえの関係は、終わってしまうんじゃないかって」
ルナは痛々しい眼をしている。
「そうだね」
杏里はゆっくりうなずいた。
「今と同じには、もう戻れないと思うよ」
それはね。
あなたの中の私への”衝動”を、私がすべて吸い取ってしまうから。
性欲が消えた時、恋愛関係は終わるのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる