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第9部 倒錯のイグニス
#217 進化する淫獣③
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杏里は、裸のまま、風呂場の前の廊下に身体を丸くして横たわっている。
その杏里を、上がり框に立った小田切が、見下ろしていた。
以外だったのは、その肩越しに冬美の顔が見えたことである。
「そんなんじゃない」
冬美の視線に、杏里は冷静さを取り戻した。
「オナニーだなんて、そんな…」
由羅との確執を皮切りにして、杏里の胸の奥には冬美への敵愾心が熾火のようにくすぶっている。
小田切の上司とはいえ、弱みを見せたくない相手であることは確かだった。
「とにかく服を着てちょうだい。落ち着いたら、何があったか、話してくれない?」
グレーのスーツに身を包んだ冬美は、値踏みするようなまなざしで杏里を見つめている。
今の私の変化に気づいているのだろうか?
私を変異外来種と認定したら、この女は私の身を平気で委員会に売るに違いない。
そんな考えが脳裏をかすめ、少なからず不快な気分になった。
杏里は黙って立ち上がると、バスタオルで身体を隠し、よろよろと自室に引き返した。
開きっ放しの三面鏡を閉じ、バスタオルで入念に体と髪を拭いて水気と体液を拭い取る。
先ほど生じた変異の名残りで、乳首と陰核、そして膣の奥がまだ疼いていた。
舌が体内を舐め回った後戻ってきたせいで、口の中が異様に生臭かった。
無意識のうちに、身体にぴったりフィットしたTシャツと、丈の短いデニムのショートパンツに着替えていた。
ブラをつけていないから、勃起したままの乳首があからさまにTシャツの生地を押し上げてしまっている。
居間に行くと、冬美と小田切が気まずい雰囲気を間に漂わせて、卓袱台で向かい合っていた。
冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出すと、口直しに半分ほど飲み干し、それから杏里はどさりと小田切に隣に尻を落ち着けた。
「何があったの? 体調でも悪いの? あんな大声を上げて、急にお風呂場から飛び出してくるなんて」
きれいに描いた眉をひそめて、冬美が訊いてきた。
そこ、見られてたんだ。
杏里は赤くなり、それを隠すためにうつむいた。
「美里先生が、生きてた」
ぼそりと杏里はつぶやいた。
「それで、ちょっとしたバトルになって、その影響で…」
バトルという表現が自分でもおかしかったが、かといって、ほかに形容のしようがなかった。
「美里先生って、あの、丸尾美里か? 以前曙中学に配備されていた、プロトタイプのタナトスだという…」
眼鏡の奥で、いぶかしげに小田切が目を細めた。
「しかし、あれは、2ヶ月ほど前に、おまえたちが倒したはずだろう?」
「美里先生は、自分は試作品だから、外来種の第2の脳も移植されてるんだって、そう言ってた。その第2の脳さえ生きてれば、大脳を破壊されても蘇生できるんだって…」
「富樫博士の研究通りね」
小田切に目配せして、冬美が口を挟んだ。
「杏里ちゃん、会ったんですってね。富樫博士と」
ここで博士の名が出るということは、やはり冬美の北海道出張は、彼に関することだったのだろう。
そんなことを考えながら、杏里は小さくうなずいた。
「実は私、急な出張から帰ってきたばかりなの。タナトス計画のラボから、貴重な研究データが盗まれたって報告があって…。どうやらそれは、以前博士の右腕として働いていた女性職員の仕業じゃないかってことに落ち着いたところなんだけど。杏里ちゃん、なにか心当たりはない?」
冬美は美里の生存より、博士の行方のほうが気になるようだ。
「女の人が、一緒にいました。サングラスかけた、クールな感じの女の人。それから、博士は、美里先生の復活も予測してるみたいでした」
冬美に好意はもっていないが、だからといって、情報を隠すメリットもなかった。
杏里は淡々とした口調で、事のあらましを説明した。
「やっぱりね」
冬美が納得したようにつぶやいた。
「だけど、データを手に入れて、博士はいったい何をしようというのかしら?」
「さあな」
かぶりを振る小田切。
「とにかく、当面やっかいなのは、美里の復活だろう。曙中の浄化イベントは明後日だったよな。時期が時期だけに、気になる。それに、杏里、おまえ、この前美里と戦った時、体に異変が生じただろう? まさか、あれがまた再発したんじゃないだろうな?」
小田切が言っているのは、触手のことだ。
美里を倒した時、杏里は彼女の触手機能をラーニングし、その後それをサイコジェニーに封印されたのだった。
「本部で検査する時間はないから、私が代行するわ」
突然の冬美の言葉に、杏里はぎくりとした。
「代行って?」
「あなたの身体を調べるのよ。丸尾美里に汚染されていないかどうか」
「別に…いいですけど」
杏里は冬美の整った顔をにらみ返した。
こんな女に、しっぽをつかまれてなるものか。
そんな反抗心が、メラメラとわいてくる。
「でも、そんなことより、ルナが大変かもしれない。ルナ、美里先生に拉致されたんじゃないかと思うんです」
「ルナが?」
冬美が青ざめた。
「あり得んだろう」
小田切も半信半疑の面持ちだ。
「あの超絶サイキックを、どうやって無効化したっていうんだよ?」
その杏里を、上がり框に立った小田切が、見下ろしていた。
以外だったのは、その肩越しに冬美の顔が見えたことである。
「そんなんじゃない」
冬美の視線に、杏里は冷静さを取り戻した。
「オナニーだなんて、そんな…」
由羅との確執を皮切りにして、杏里の胸の奥には冬美への敵愾心が熾火のようにくすぶっている。
小田切の上司とはいえ、弱みを見せたくない相手であることは確かだった。
「とにかく服を着てちょうだい。落ち着いたら、何があったか、話してくれない?」
グレーのスーツに身を包んだ冬美は、値踏みするようなまなざしで杏里を見つめている。
今の私の変化に気づいているのだろうか?
私を変異外来種と認定したら、この女は私の身を平気で委員会に売るに違いない。
そんな考えが脳裏をかすめ、少なからず不快な気分になった。
杏里は黙って立ち上がると、バスタオルで身体を隠し、よろよろと自室に引き返した。
開きっ放しの三面鏡を閉じ、バスタオルで入念に体と髪を拭いて水気と体液を拭い取る。
先ほど生じた変異の名残りで、乳首と陰核、そして膣の奥がまだ疼いていた。
舌が体内を舐め回った後戻ってきたせいで、口の中が異様に生臭かった。
無意識のうちに、身体にぴったりフィットしたTシャツと、丈の短いデニムのショートパンツに着替えていた。
ブラをつけていないから、勃起したままの乳首があからさまにTシャツの生地を押し上げてしまっている。
居間に行くと、冬美と小田切が気まずい雰囲気を間に漂わせて、卓袱台で向かい合っていた。
冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出すと、口直しに半分ほど飲み干し、それから杏里はどさりと小田切に隣に尻を落ち着けた。
「何があったの? 体調でも悪いの? あんな大声を上げて、急にお風呂場から飛び出してくるなんて」
きれいに描いた眉をひそめて、冬美が訊いてきた。
そこ、見られてたんだ。
杏里は赤くなり、それを隠すためにうつむいた。
「美里先生が、生きてた」
ぼそりと杏里はつぶやいた。
「それで、ちょっとしたバトルになって、その影響で…」
バトルという表現が自分でもおかしかったが、かといって、ほかに形容のしようがなかった。
「美里先生って、あの、丸尾美里か? 以前曙中学に配備されていた、プロトタイプのタナトスだという…」
眼鏡の奥で、いぶかしげに小田切が目を細めた。
「しかし、あれは、2ヶ月ほど前に、おまえたちが倒したはずだろう?」
「美里先生は、自分は試作品だから、外来種の第2の脳も移植されてるんだって、そう言ってた。その第2の脳さえ生きてれば、大脳を破壊されても蘇生できるんだって…」
「富樫博士の研究通りね」
小田切に目配せして、冬美が口を挟んだ。
「杏里ちゃん、会ったんですってね。富樫博士と」
ここで博士の名が出るということは、やはり冬美の北海道出張は、彼に関することだったのだろう。
そんなことを考えながら、杏里は小さくうなずいた。
「実は私、急な出張から帰ってきたばかりなの。タナトス計画のラボから、貴重な研究データが盗まれたって報告があって…。どうやらそれは、以前博士の右腕として働いていた女性職員の仕業じゃないかってことに落ち着いたところなんだけど。杏里ちゃん、なにか心当たりはない?」
冬美は美里の生存より、博士の行方のほうが気になるようだ。
「女の人が、一緒にいました。サングラスかけた、クールな感じの女の人。それから、博士は、美里先生の復活も予測してるみたいでした」
冬美に好意はもっていないが、だからといって、情報を隠すメリットもなかった。
杏里は淡々とした口調で、事のあらましを説明した。
「やっぱりね」
冬美が納得したようにつぶやいた。
「だけど、データを手に入れて、博士はいったい何をしようというのかしら?」
「さあな」
かぶりを振る小田切。
「とにかく、当面やっかいなのは、美里の復活だろう。曙中の浄化イベントは明後日だったよな。時期が時期だけに、気になる。それに、杏里、おまえ、この前美里と戦った時、体に異変が生じただろう? まさか、あれがまた再発したんじゃないだろうな?」
小田切が言っているのは、触手のことだ。
美里を倒した時、杏里は彼女の触手機能をラーニングし、その後それをサイコジェニーに封印されたのだった。
「本部で検査する時間はないから、私が代行するわ」
突然の冬美の言葉に、杏里はぎくりとした。
「代行って?」
「あなたの身体を調べるのよ。丸尾美里に汚染されていないかどうか」
「別に…いいですけど」
杏里は冬美の整った顔をにらみ返した。
こんな女に、しっぽをつかまれてなるものか。
そんな反抗心が、メラメラとわいてくる。
「でも、そんなことより、ルナが大変かもしれない。ルナ、美里先生に拉致されたんじゃないかと思うんです」
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冬美が青ざめた。
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