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第9部 倒錯のイグニス
#276 東棟攻略①
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映画『ロッキー』のBGMに追い立てられるようにして、杏里はシアターを出た。
何この音楽。馬鹿にしてる。
体育館シューズをスニーカーに履き替えながら、憮然とした表情で空を振り仰ぐ。
別に『ロッキー』のBGMが嫌いなわけではない。
ただ、何もこんなところで流さなくてもいいのに、とそう思うのだ。
音楽は校庭に設置されたスピーカーから流れてくるようだ。
頭上の空は半ば以上を黒雲に覆われ、今にもひと雨来そうなほど重苦しい。
雨が降る前に、東棟に潜入しなければ。
杏里は小走りに校庭を横切った。
幸い、周囲に人影はない。
東棟に行く前に、まずは体育館裏のクラブハウスに寄る必要がある。
体育館の角を回ると、長屋のような平屋建ての建物群が現れた。
一番端の鍵の壊れたドアが、目的の場所だった。
ノックもなしに、肩でドアを押し開けた。
「あ、杏里」
丸テーブルに向かって教科書を拡げていた重人が顔を上げた。
ボブカットに黒縁メガネの重人は、薄暗い所で見ると、国民的人気のアニメのキャラクターのように見える。
「セレモニー、どうだった? も何もないか。その格好見れば、何が起こったか、だいたい想像がつくよ」
杏里は下着をつけていない。
だから、へその位置まで開いたコスチュームの間から、生の乳房が半分以上見えているのだ。
「行くよ。準備はいい?」
「ああ。といっても、僕に準備するものなんてないんだけどね」
小さく首を振りながら、いかにも気乗りしなさそうに丸椅子から重人が立ちあがる。
「そうでもない」
くびれた腰に両のこぶしを当て、立ち上がった重人をためつすがめつして、杏里は言った。
「まず、そのズボン、邪魔。脱ぎなさい」
「はあ?」
黒い制服のズボンを人差し指で指され、ぽかんと口を開ける重人。
「自分の役割を考えてみなさいよ。ズボンなんて、穿いてても邪魔なだけでしょ」
「ぼ、僕の、役割…?」
「今更とぼけないで。あんたは”発信機”なの。私が与える快楽を、増幅して周囲に向け、発信する。屋上で試したようにね」
そう。
重人の”念”による精神汚染。
残り500人を浄化するには、その方法にすがるのが一番だ。
邪道だというのはわかっている。
サイコジェニーに知られたら、止められる可能性は十分にある。
だが、なるべく自分の力は温存しておきたい。
それが正直なところなのだ。
”敵”は500人の生徒たちだけではない。
職員室で待ちかまえる教師たちの一団もいる。
更に璃子とふみの凶悪コンビ。
彼女らが何か企んでいることはほぼ間違いない。
ヤチカと謎の男の存在も気になるところだ。
ふたりがすでに校内に入り込んでいるのかどうか…。
そこまではわからないが、いずれどこかで再会する気がしてならない。
「わかったよ。わかったって」
無言で睨みつけていると、重人が顔を真っ赤にしてズボンを脱ぎ出した。
「なんならそれも脱いでいく?」
へそまで隠れるデカパンを指さすと、
「勘弁してよ。僕にフリチンで走り回れっていうのかい?」
重人が泣き笑いのような表情で杏里を見た。
何この音楽。馬鹿にしてる。
体育館シューズをスニーカーに履き替えながら、憮然とした表情で空を振り仰ぐ。
別に『ロッキー』のBGMが嫌いなわけではない。
ただ、何もこんなところで流さなくてもいいのに、とそう思うのだ。
音楽は校庭に設置されたスピーカーから流れてくるようだ。
頭上の空は半ば以上を黒雲に覆われ、今にもひと雨来そうなほど重苦しい。
雨が降る前に、東棟に潜入しなければ。
杏里は小走りに校庭を横切った。
幸い、周囲に人影はない。
東棟に行く前に、まずは体育館裏のクラブハウスに寄る必要がある。
体育館の角を回ると、長屋のような平屋建ての建物群が現れた。
一番端の鍵の壊れたドアが、目的の場所だった。
ノックもなしに、肩でドアを押し開けた。
「あ、杏里」
丸テーブルに向かって教科書を拡げていた重人が顔を上げた。
ボブカットに黒縁メガネの重人は、薄暗い所で見ると、国民的人気のアニメのキャラクターのように見える。
「セレモニー、どうだった? も何もないか。その格好見れば、何が起こったか、だいたい想像がつくよ」
杏里は下着をつけていない。
だから、へその位置まで開いたコスチュームの間から、生の乳房が半分以上見えているのだ。
「行くよ。準備はいい?」
「ああ。といっても、僕に準備するものなんてないんだけどね」
小さく首を振りながら、いかにも気乗りしなさそうに丸椅子から重人が立ちあがる。
「そうでもない」
くびれた腰に両のこぶしを当て、立ち上がった重人をためつすがめつして、杏里は言った。
「まず、そのズボン、邪魔。脱ぎなさい」
「はあ?」
黒い制服のズボンを人差し指で指され、ぽかんと口を開ける重人。
「自分の役割を考えてみなさいよ。ズボンなんて、穿いてても邪魔なだけでしょ」
「ぼ、僕の、役割…?」
「今更とぼけないで。あんたは”発信機”なの。私が与える快楽を、増幅して周囲に向け、発信する。屋上で試したようにね」
そう。
重人の”念”による精神汚染。
残り500人を浄化するには、その方法にすがるのが一番だ。
邪道だというのはわかっている。
サイコジェニーに知られたら、止められる可能性は十分にある。
だが、なるべく自分の力は温存しておきたい。
それが正直なところなのだ。
”敵”は500人の生徒たちだけではない。
職員室で待ちかまえる教師たちの一団もいる。
更に璃子とふみの凶悪コンビ。
彼女らが何か企んでいることはほぼ間違いない。
ヤチカと謎の男の存在も気になるところだ。
ふたりがすでに校内に入り込んでいるのかどうか…。
そこまではわからないが、いずれどこかで再会する気がしてならない。
「わかったよ。わかったって」
無言で睨みつけていると、重人が顔を真っ赤にしてズボンを脱ぎ出した。
「なんならそれも脱いでいく?」
へそまで隠れるデカパンを指さすと、
「勘弁してよ。僕にフリチンで走り回れっていうのかい?」
重人が泣き笑いのような表情で杏里を見た。
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