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第9部 倒錯のイグニス
#286 西棟攻略⑤
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続く3年C組とD組も、同じパターンだった。
重人を触れなば落ちん状態にまで高めておき、入口で最後の一撃を加え、快楽の念波を一気に放出させる。
それで中にいた生徒たちは、一斉に涅槃の境地に没入してしまい、やがては自分でオナニーを始めたり、手近な者同士セックスをし始めたりして、じきに”浄化”が完了してしまったのだ。
1年生全員と3年生4クラス分を、ほとんど無傷で浄化できたのは、杏里にとって大きな僥倖だった。
この調子で3年E組、2階の2年生5クラス、そして最後に職員室の教師たちを片づけてしまえば、今回の杏里のミッションは終了ということになる。
だが、そんな杏里の目論見にも、齟齬が生じ始めていた。
D組をクリアして廊下に戻ったものの、あろうことか、あと一歩のところで重人が床に座り込んで動かなくなってしまったのである。
「杏里…僕、もう、無理だよ」
下半身丸裸のまま、体育座りをして、重人が言った。
変に弱々しい、今にも泣き出しそうな声だった。
「白状するよ。僕、本当は君のこと、大好きだよ。だから、作戦とはいえ、こうして君とセックスの真似事ができて、うれしかったんだ。日常生活では、まず不可能なことだもんね。だけど、もう、だめだ。身体がいうこと、きかないんだ。いくら君の頼みでも、ほら」
そう言いながら、重人がゆっくりと股を開く。
股間で、ペニスがくたりとしおれてしまっているのが見えた。
「もう勃たないんだ。精液が、一滴もないんだと思う。これ以上やったら、僕、死んじゃう気がする。それに、頭が割れるように痛くて…これは、テレパスにしかわからないと思うけど、超能力って、使うと使った分だけ後でダメージが来るんだよ。僕、これまで、こんなふうに自分の力、限界まで使ったことなかったから、それで…」
「重人…」
驚いて、杏里は少年の傍らにひざまずいた。
強烈な既視感を覚えるシチュエーションだった。
そう。
由羅の最期も、確かこんなふうだったのだ。
杏里を守るために、満身創痍で黒野零に挑んでいった由羅…。
私は、また仲間を失うのだろうか。
由羅、いずな、ルナ、そしてこの重人まで…。
「あなたがつらいのはわかる。でも、もう少しなんだよ」
重人のしなびたペニスを右手ですくい取り、手のひらに載せて杏里は言った。
「あとひとクラスで、3年生が終わるの。それが終わったら、2年生のいる2階へ行く前に、少し休憩すればいい。せっかくここまで来たのに、ここであなたに戦線離脱されちゃったら、私…」
「だよね」
重人が泣き笑いのような表情を青ざめた顔に浮かべ、杏里を見た。
「でも、杏里。僕ら、どうしてこんなこと、しなきゃならないんだろう? 僕らが命を削ってミッションを成し遂げても、結局得をするのは人間だけじゃないか。僕らにまともに人権も与えてくれない人間たちのために、どうして君はそこまで頑張るんだい?」
「そんなこと…」
今更言われても困る。
杏里は床に目を落とした。
それは、己が人間ではなく、タナトスであることを知ってからというもの、ずっと杏里につきまとってきた命題だった。
以前由羅にも同じことを訊かれたし、杏里自身、その疑問を誰かにぶつけたこともある。
だが、答えは出ないままなのだ。
「私にもよくわからない。でも、ひとつ言えるのは、私は何も、創造主である人間のために頑張ってるんじゃないってこと。しいて言えば、それは自分のため。うん、きっと、そうだと思う」
言葉を慎重に選び、一語一語区切って、杏里は言った。
「自分の、ため?」
重人がいぶかしそうに眼を細めた。
「格好つけて言うとね、私がなぜこの世界に生まれてきたのか、それを確かめるため。私には”性”を武器にして対象を浄化する、それしかできない。他人と比べて私が優位に立てるのは、その点だけ。だからそれをとことんつきつめて、最後に何か意味を見出したい…そう、心のどこかで願ってる。動機はきっとそういうことなんだと思う」
「アイデンティティの証明か…いわゆる”自分探し”だね。にしても、セックスをつきつめて自己存在の価値を見出そうだなんて、いかにも杏里らしくて笑っちゃう」
重人が初めて明るい笑顔を見せた。
「悪かったね。他に取り柄がなくて」
重人の笑顔に救われた気がして、杏里はわざとすねた表情をしてみせた。
「わかった。こうなったら、最後までつき合うよ」
しばしの沈黙の後、重人がいつものいつもの屈託のない口調に戻って、言った。
「もう、愚痴は言わない。君を最後までサポートしてあげる、ただ、ひとつだけ、お願いがあるんだけど」
「お願い? なあに? なんでも言ってみて」
「ここで、少しの間でいい。僕が元気になるまで、抱いていてほしいんだ。その…本当の恋人同士みたいにね」
はにかむような重人の笑顔に、杏里は胸を絞られるような痛みを覚えずにはいられなかった。
重人…。
あんたは、そんな格好悪いこと、口が裂けても言わない子だったのにね…。
苦い思いとともに、ふとそう思ったのだ。
重人を触れなば落ちん状態にまで高めておき、入口で最後の一撃を加え、快楽の念波を一気に放出させる。
それで中にいた生徒たちは、一斉に涅槃の境地に没入してしまい、やがては自分でオナニーを始めたり、手近な者同士セックスをし始めたりして、じきに”浄化”が完了してしまったのだ。
1年生全員と3年生4クラス分を、ほとんど無傷で浄化できたのは、杏里にとって大きな僥倖だった。
この調子で3年E組、2階の2年生5クラス、そして最後に職員室の教師たちを片づけてしまえば、今回の杏里のミッションは終了ということになる。
だが、そんな杏里の目論見にも、齟齬が生じ始めていた。
D組をクリアして廊下に戻ったものの、あろうことか、あと一歩のところで重人が床に座り込んで動かなくなってしまったのである。
「杏里…僕、もう、無理だよ」
下半身丸裸のまま、体育座りをして、重人が言った。
変に弱々しい、今にも泣き出しそうな声だった。
「白状するよ。僕、本当は君のこと、大好きだよ。だから、作戦とはいえ、こうして君とセックスの真似事ができて、うれしかったんだ。日常生活では、まず不可能なことだもんね。だけど、もう、だめだ。身体がいうこと、きかないんだ。いくら君の頼みでも、ほら」
そう言いながら、重人がゆっくりと股を開く。
股間で、ペニスがくたりとしおれてしまっているのが見えた。
「もう勃たないんだ。精液が、一滴もないんだと思う。これ以上やったら、僕、死んじゃう気がする。それに、頭が割れるように痛くて…これは、テレパスにしかわからないと思うけど、超能力って、使うと使った分だけ後でダメージが来るんだよ。僕、これまで、こんなふうに自分の力、限界まで使ったことなかったから、それで…」
「重人…」
驚いて、杏里は少年の傍らにひざまずいた。
強烈な既視感を覚えるシチュエーションだった。
そう。
由羅の最期も、確かこんなふうだったのだ。
杏里を守るために、満身創痍で黒野零に挑んでいった由羅…。
私は、また仲間を失うのだろうか。
由羅、いずな、ルナ、そしてこの重人まで…。
「あなたがつらいのはわかる。でも、もう少しなんだよ」
重人のしなびたペニスを右手ですくい取り、手のひらに載せて杏里は言った。
「あとひとクラスで、3年生が終わるの。それが終わったら、2年生のいる2階へ行く前に、少し休憩すればいい。せっかくここまで来たのに、ここであなたに戦線離脱されちゃったら、私…」
「だよね」
重人が泣き笑いのような表情を青ざめた顔に浮かべ、杏里を見た。
「でも、杏里。僕ら、どうしてこんなこと、しなきゃならないんだろう? 僕らが命を削ってミッションを成し遂げても、結局得をするのは人間だけじゃないか。僕らにまともに人権も与えてくれない人間たちのために、どうして君はそこまで頑張るんだい?」
「そんなこと…」
今更言われても困る。
杏里は床に目を落とした。
それは、己が人間ではなく、タナトスであることを知ってからというもの、ずっと杏里につきまとってきた命題だった。
以前由羅にも同じことを訊かれたし、杏里自身、その疑問を誰かにぶつけたこともある。
だが、答えは出ないままなのだ。
「私にもよくわからない。でも、ひとつ言えるのは、私は何も、創造主である人間のために頑張ってるんじゃないってこと。しいて言えば、それは自分のため。うん、きっと、そうだと思う」
言葉を慎重に選び、一語一語区切って、杏里は言った。
「自分の、ため?」
重人がいぶかしそうに眼を細めた。
「格好つけて言うとね、私がなぜこの世界に生まれてきたのか、それを確かめるため。私には”性”を武器にして対象を浄化する、それしかできない。他人と比べて私が優位に立てるのは、その点だけ。だからそれをとことんつきつめて、最後に何か意味を見出したい…そう、心のどこかで願ってる。動機はきっとそういうことなんだと思う」
「アイデンティティの証明か…いわゆる”自分探し”だね。にしても、セックスをつきつめて自己存在の価値を見出そうだなんて、いかにも杏里らしくて笑っちゃう」
重人が初めて明るい笑顔を見せた。
「悪かったね。他に取り柄がなくて」
重人の笑顔に救われた気がして、杏里はわざとすねた表情をしてみせた。
「わかった。こうなったら、最後までつき合うよ」
しばしの沈黙の後、重人がいつものいつもの屈託のない口調に戻って、言った。
「もう、愚痴は言わない。君を最後までサポートしてあげる、ただ、ひとつだけ、お願いがあるんだけど」
「お願い? なあに? なんでも言ってみて」
「ここで、少しの間でいい。僕が元気になるまで、抱いていてほしいんだ。その…本当の恋人同士みたいにね」
はにかむような重人の笑顔に、杏里は胸を絞られるような痛みを覚えずにはいられなかった。
重人…。
あんたは、そんな格好悪いこと、口が裂けても言わない子だったのにね…。
苦い思いとともに、ふとそう思ったのだ。
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