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第9部 倒錯のイグニス
#307 蜜色の罠②
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声をかけてきたのは、長身でやせ型の、落ちついた雰囲気の少年である。
少し長めの前髪を斜めに垂らし、銀縁の眼鏡を光らせている。
佐伯忠雄。
成績優秀で、クラス委員。
このE組クラスカーストの頂点に立つ、いけすかない少年だ。
佐伯は以前、クラスメイトたちを扇動して、この教室で杏里を襲わせたことがある。
あの時杏里は美里譲りの触手を使ってなんとか危地を脱したのだったが、クラスの浄化には失敗してしまった。
唯一、純ひとりを浄化できただけで終わってしまったのである。
その意味では、これは、いわばリターンマッチだった。
ただし、今回の相手にはD組のメンバーも入っているから、総数およそ60人。
しかも佐伯のほうも以前杏里に逆襲されたことを覚えているのか、こんな大掛かりな仕掛けまで用意している。
「ほかのクラスでは、ずいぶん姑息な手段を使ったようだが、ここではそうはいかないぞ」
しゃべりながら佐伯が眼で合図すると、水着姿の壁の一部が動いて、杏里の背後に回った。
これで退路は完全に断たれてしまったことになる。
「俺個人としては、褒賞の特典なんてどうでもいい。ただ、おまえには色々借りがあるからさ。みんなを楽しませるついでに、それを返させてもらおうと、こんな仕掛けを用意してみたんだが、どうだい? 気に入ってもらえたかな?」
「ローション・オイル入りのプールってわけ? 泥んこプロレスの真似事でもするつもりなの?」
ビニールプールをはさんだ対面の佐々木をにらみつけて、杏里は言った。
佐伯の言葉通りだとすると、ここではA組からC組にかけて使ってきた、個別の浄化は望めないということだ。
ならば、他の方法を考える必要がある。
でも、この人数…。
いったいどうしたら、一度に捌けるというのだろう?
「ま、そんなところかな。みんな、待ちくたびれてるし、そろそろ始めよう」
佐伯の端正な顔に、酷薄な笑みが浮かんだ。
「待って。その前に、ひとつ訊きたいんだけど。璃子とふみはどこ? あの子たちも一応クラスメイトでしょ?」
「知らないよ。あいつらはどっちかというと、先生たちと一緒に動いてる。待っててもここには現れないさ」
「先生たちと?」
尚もたずねようとした時だった。
ふいに背中を押され、杏里はたたらを踏んでプールサイドまでよろめき出た。
踏みとどまろうとしたが、無駄だった。
今度は両側から腕をつかまれ、抵抗する暇もなくプールの中に放り込まれてしまった。
鼻や口に、甘い香りのローション・オイルがなだれ込んできて、杏里は激しくむせ返った。
ビニールプールの底に尻をつけ、辛うじて首から上を水面に出すと、生徒たちの輪が狭まってくるのが見えた。
「かかれ!」
佐伯の号令とともに、第一陣がプールの中に次から次へと飛び込んできた。
少し長めの前髪を斜めに垂らし、銀縁の眼鏡を光らせている。
佐伯忠雄。
成績優秀で、クラス委員。
このE組クラスカーストの頂点に立つ、いけすかない少年だ。
佐伯は以前、クラスメイトたちを扇動して、この教室で杏里を襲わせたことがある。
あの時杏里は美里譲りの触手を使ってなんとか危地を脱したのだったが、クラスの浄化には失敗してしまった。
唯一、純ひとりを浄化できただけで終わってしまったのである。
その意味では、これは、いわばリターンマッチだった。
ただし、今回の相手にはD組のメンバーも入っているから、総数およそ60人。
しかも佐伯のほうも以前杏里に逆襲されたことを覚えているのか、こんな大掛かりな仕掛けまで用意している。
「ほかのクラスでは、ずいぶん姑息な手段を使ったようだが、ここではそうはいかないぞ」
しゃべりながら佐伯が眼で合図すると、水着姿の壁の一部が動いて、杏里の背後に回った。
これで退路は完全に断たれてしまったことになる。
「俺個人としては、褒賞の特典なんてどうでもいい。ただ、おまえには色々借りがあるからさ。みんなを楽しませるついでに、それを返させてもらおうと、こんな仕掛けを用意してみたんだが、どうだい? 気に入ってもらえたかな?」
「ローション・オイル入りのプールってわけ? 泥んこプロレスの真似事でもするつもりなの?」
ビニールプールをはさんだ対面の佐々木をにらみつけて、杏里は言った。
佐伯の言葉通りだとすると、ここではA組からC組にかけて使ってきた、個別の浄化は望めないということだ。
ならば、他の方法を考える必要がある。
でも、この人数…。
いったいどうしたら、一度に捌けるというのだろう?
「ま、そんなところかな。みんな、待ちくたびれてるし、そろそろ始めよう」
佐伯の端正な顔に、酷薄な笑みが浮かんだ。
「待って。その前に、ひとつ訊きたいんだけど。璃子とふみはどこ? あの子たちも一応クラスメイトでしょ?」
「知らないよ。あいつらはどっちかというと、先生たちと一緒に動いてる。待っててもここには現れないさ」
「先生たちと?」
尚もたずねようとした時だった。
ふいに背中を押され、杏里はたたらを踏んでプールサイドまでよろめき出た。
踏みとどまろうとしたが、無駄だった。
今度は両側から腕をつかまれ、抵抗する暇もなくプールの中に放り込まれてしまった。
鼻や口に、甘い香りのローション・オイルがなだれ込んできて、杏里は激しくむせ返った。
ビニールプールの底に尻をつけ、辛うじて首から上を水面に出すと、生徒たちの輪が狭まってくるのが見えた。
「かかれ!」
佐伯の号令とともに、第一陣がプールの中に次から次へと飛び込んできた。
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