激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

文字の大きさ
319 / 463
第9部 倒錯のイグニス

#319 幕間②

しおりを挟む
 戸口に、グレーのスーツに身を包んだ女が佇んでいる。
 無表情な瓜実顔に、縁なしの眼鏡をかけ、長いストレートヘアを背中に流している。
 服装は地味なのに、妙に肉感的な感じのする女性だった。
 年の頃は30代後半か、40代初めといったところだろうか。
 標準より背は高く、スタイルの良さがはちきれそうなスーツから見て取れる。
 あの女だ。
 幼稚園児たちを束ねていたあの女。
 彼女が幼児と男に私を襲わせたのだ。
 でも、何者なのだろう?
 杏里の恋人だったという、あのヤチカという画家でないことは確かだった。
 ヤチカの姿なら、沼人形工房に同行した時に、ちらっと眼にしていた。
 ヤチカはもっとボーイッシュな髪型で、スレンダーな肢体の持主だったように思う。
 この女とは、似ても似つかない。
「困ったわね。わかってるとは思うけど、あなたを今ここから出すわけにはいかないのよ」
 機械がしゃべるような事務的な口調で、女が言った。
「どういうこと? それは今がイベントの最中だから? あなたたちは、杏里をどうしようっていうの?」
 ルナは一歩、前に進み出た。
 鮮やかなアクアマリンの眼が、無表情な女の顔にじっと注がれる。
 ただの勘でしかない。
 だが、ルナは本能的に悟っていた。
 杏里の身に危険が迫っている。
 私が今すぐサポートに行かないと、過酷なイベントのさなか、杏里はきっとつぶされてしまうだろう。
 600人対ひとりの絶望的な戦いなのだ。
 いかに彼女が優秀なタナトスでも、その体力にはおのずと限界が来るに違いない。
 ましてや私を呼んだのが、重人のテレパシーだとしたら…。
 ひょっとして、あの重人の身にも、危険が迫っているのかも…。
「学園祭のシークレットイベントのどさくさにまぎれて、あの子を拉致する。ヤチカや百足丸はそのつもりらしいわ。まあ、私にはどうでもいいことなんだけど」
 気のない口ぶりで、あっさりと女が言った。
 隠すつもりもないらしい。
 それにしても、ひっかかる言い方だった。
 おかしい、と思う。
 ヤチカと、百足丸…?
 あの男の名が、その百足丸だとしても、どうしてヤチカが杏里を…?
「でもね、あの子には貸しがあるし、頼まれた以上は、私はあなたをここに足止めしておかなきゃならないの」
「そういうあんたは誰? 杏里やヤチカとどんな関係が?」
「わたしは丸尾美里。あの子から聞いてないかしら。暁中学の前任のタナトスよ」
「タナトス試作機…あの、失敗作…?」
 いつか、杏里から聞かされたことがある。
 杏里の今の任務は、暴走した前任者の”感染”を除去することだと。
「本人を前にして、失礼な言い方ね。わたしは失敗作などではないわ。むしろ、人類と外来種の橋渡し役、そう評価してほしいところなのだけれど」
 気分を害したふうもなく、淡々とした口調で美里と名乗る女は言う。
 この女には、感情がないのだろうか。
 なんだかあまりに非人間的で、薄気味が悪い。
 ルナは腰のあたりでこぶしをきつく握り締め、じっと不測の事態に身構えている。
「あんたが一部分でも外来種の種を宿してるのなら、それこそ私の出番かもね」
「そうだったわね」
 女がかすかに口角を吊り上げた。
「あなたはパトス。そのなかでも珍しい、サイキッカータイプなんですってね」
「だったらどうなの?」
 ルナの眼が光る。
「悪いけど、たかが変異外来種なんかに、私は止められない」
「それはどうかしら」
 美里がスーツのボタンに手をかけた。
「何事も、やってみなければ、わからないでしょう?」
 
 
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...