激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【激闘編】

戸影絵麻

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第10部 姦禁のリリス

#6 重人の懊悩

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 ここに入院して、もう一週間か。
 壁にかけられたカレンダーに目をやって、重人はため息をついた。
 下半身は包帯でぐるぐる巻きにされ、排尿のためのカテテールだけが伸びている。
 ひどい目に遭った、と思う。
 杏里を助けるためとはいえ、男性機能を完膚なきまでに失ってしまったのだ。
 医師の話だと、幸い睾丸は残っているので、整形手術でペニスをつくれないことはない、とのことだった。
 重人の腿の組織などを使って、ペニスもどきみたいなものをつくり出そうというわけだ。
 ただ、勃起や射精まで可能になるかどうかは、難しいところであるらしかった。
 排尿のためのホースくらいはなんとかなるが、ちゃんとした海綿体を備えたペニスの複製は困難に近い。
 どうやらそういうことらしい。
 医師の説明を聞いた時、可能性があるとすれば、現代医学ではなく、それは杏里の能力だろう、と思った。
 杏里の驚異的な再生能力なら、あるいは、という気がしないでもないのだ。
 だが、その杏里は行方が知れないままだった。
 1週間前のあの日。
 気がつくと、重人は保健室のベッドに寝かされていた。
 不思議なことに、砕け散ったペニスの跡の傷口は塞がっていて、出血も止まっていた。
 杏里だろう、と重人は悟った。
 杏里が重人を保健室まで運び、己の体液で応急処置をしてくれたのだ。
 その杏里を探しに行こうと、ベッドを降りかけた時である。
 ふいに窓の外で大きな爆発音が聞こえた。
 びっくりして窓から身を乗り出すと、体育館が紅蓮の炎に包まれていた。
 救出活動のためなのか、その周囲を作業服姿の人影が何人も右往左往しているのが見えた。
 テレパシーは使えなかった。
 脳を酷使しすぎて、機能が麻痺してしまっていたからだった。
 杏里の名を呼びながら裸足で飛び出すと、警官らしき男に後ろから羽交い絞めにされた。
 抗いもがくうちに、そこで気を失ってしまったらしい。
 次に目覚めると、重人はすでにこの病院に居て、事件から丸一日経ってしまっていたのである。
 駆けつけてきた冬美は、あれは事故ではなく、杏里を拉致するために仕組まれたテロ行為らしいと言い切った。
 全焼した体育館の残骸からは数十人の炭化した生徒と教師の死体が見つかったが、その中に杏里のものらしき死体は混じっていなかったのだという。
 それを聞いてほっとすると同時に、重人は心配でたまらなくなった。
 杏里を拉致した者がいるとすれば、それはヤチカとあの男に違いないと思った。
 とすれば、ヤチカは杏里や重人を裏切り、委員会とは立場を異にする組織の傘下に入ったということなのかもしれない…。
 重人にとって、性器の再生より、杏里の行方のほうが重要だった。
 早くここを出て、杏里を探さなければ…。
 そうじりじりしているところに、予想外の訪問者がやってきたのである。

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