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第10部 姦禁のリリス
#27 重人と由羅①
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美里がヤチカの屋敷に現れた同じ頃ー。
重人は濡れ縁に将棋盤を持ち出し、詰め将棋の最中だった。
冬美はいない。
委員会本部に出かけたまま、帰ってこない日々が続いている。
それは重人にとって、羽を伸ばすいい機会だった。
委員会の幹部のひとりである冬美とひとつ屋根の下で暮らすのは、正直、息が詰まる。
重人自身、委員会にある疑念を抱いているだけに、その息苦しさは日に日に我慢できないものになっている。
「相変わらずだな」
いきなり声をかけられて、ぎくりとする重人。
どこから入ってきたのか、いつのまにか由羅が庭に立っていた。
いつものパンク風の衣装で身を飾った由羅は、晩秋の陽射しを浴びて、次元の裂け目から忽然と出現した小悪魔のように見える。
目の周りのシャドウと蝙蝠が翼を広げたみたいな髪型が、その印象を更に強めているのだ。
「ああ、由羅。ちょうどいい時に来た。ね。久しぶりに一局どう?」
「ばーか」
由羅が憮然として口を尖らせる。
「おまえ、いんちきするから、やんねえよ」
以前、負けてばかりだったことを覚えているのだ。
「いんちきするのは由羅のほうだろ? 負けそうになると盤を卓袱台返しするしさ」
「どっちにしろ、そんなことしてる場合じゃないだろ」
土足でずかずか上がってくると、下着が見えるのも構わず、重人の前で胡坐をかいた。
「きょうこそ、ヤチカの屋敷に潜入する」
由羅が”きょうこそ”を強調るのは、前回の出陣が急きょ取りやめになったからだった。
ハンバーガーショップを出たとたん、由羅のスマホに”命の恩人”から連絡が入ったのである。
「いったん戻ってこいだとよ」
その時、由羅は不満そうに吐き捨てたものである。
「まだうちの身体、いくつか検査しなきゃなんないんだってさ」
それからすでに数日経っている。
「で、あれからルナの様子は?」
「まずいよ。ますます深入りしてるみたい」
将棋の駒を片付けながら、重人は言った。
「思考をのぞくたびに、快感が津波になって襲ってくるから、もういやになっちゃったよ。あれじゃ、もはや正常な思考は望めないね。いつもヤチカさんにされたことばっかり、考えててさ」
「まるで廃人だな」
由羅の眉が吊り上がる。
「きっと杏里も、一時期、そうだったんだろう」
「まあね。由羅が捨てられたには、ヤチカさんのせいだしね」
「誰が捨てられたって?」
由羅が器用に右足を伸ばして、重人のおでこをブーツのつま先でつついた。
「いい加減なこと抜かすと、おまえの大事なとこ、引っこ抜いてやるかんな!」
「残念でした。その”大事なところ”は、今の僕にはないんだよ」
しれっとした顔で、重人が言い返す。
「あ、そうか、そういえばそうだったな」
珍しく、由羅が殊勝に引き下がった。
「それで思い出したんだけど…。その、ルナの快感が伝わってきた時、重人、おまえ、どうなんだよ? あそこがなくても、その、催したりするのかよ?」
「余計なお世話、といいたいとこだけど」
重人が手元の将棋の駒から目を上げた。
「そこがやっかいなところでさ。実は、ないのに感じるんだ。勃起してるペニスをね。幻肢ってやつなのかな。ほら、腕や足を切断した人が、いつまでも指のかゆみを感じるみたいに…」
「なんか気の毒な話だな」
いたたまれないような表情をする由羅。
「それじゃ、蛇の生殺しじゃないか」
「うん」
寂しそうに、重人はうなずいた。
「だから、早く杏里に会いたいよ。会って、僕の性器、復元してもらいたい…」
「だったら」
由羅がすっくと立ちあがる。
「まずはルナだろ? ルナを救い出して、彼女を味方につけ、それから杏里だ」
「だよね」
重人も腰を上げた。
「問題はルナの頭だ。助け出したとしても、どうやって正常に戻すかだね」
重人は濡れ縁に将棋盤を持ち出し、詰め将棋の最中だった。
冬美はいない。
委員会本部に出かけたまま、帰ってこない日々が続いている。
それは重人にとって、羽を伸ばすいい機会だった。
委員会の幹部のひとりである冬美とひとつ屋根の下で暮らすのは、正直、息が詰まる。
重人自身、委員会にある疑念を抱いているだけに、その息苦しさは日に日に我慢できないものになっている。
「相変わらずだな」
いきなり声をかけられて、ぎくりとする重人。
どこから入ってきたのか、いつのまにか由羅が庭に立っていた。
いつものパンク風の衣装で身を飾った由羅は、晩秋の陽射しを浴びて、次元の裂け目から忽然と出現した小悪魔のように見える。
目の周りのシャドウと蝙蝠が翼を広げたみたいな髪型が、その印象を更に強めているのだ。
「ああ、由羅。ちょうどいい時に来た。ね。久しぶりに一局どう?」
「ばーか」
由羅が憮然として口を尖らせる。
「おまえ、いんちきするから、やんねえよ」
以前、負けてばかりだったことを覚えているのだ。
「いんちきするのは由羅のほうだろ? 負けそうになると盤を卓袱台返しするしさ」
「どっちにしろ、そんなことしてる場合じゃないだろ」
土足でずかずか上がってくると、下着が見えるのも構わず、重人の前で胡坐をかいた。
「きょうこそ、ヤチカの屋敷に潜入する」
由羅が”きょうこそ”を強調るのは、前回の出陣が急きょ取りやめになったからだった。
ハンバーガーショップを出たとたん、由羅のスマホに”命の恩人”から連絡が入ったのである。
「いったん戻ってこいだとよ」
その時、由羅は不満そうに吐き捨てたものである。
「まだうちの身体、いくつか検査しなきゃなんないんだってさ」
それからすでに数日経っている。
「で、あれからルナの様子は?」
「まずいよ。ますます深入りしてるみたい」
将棋の駒を片付けながら、重人は言った。
「思考をのぞくたびに、快感が津波になって襲ってくるから、もういやになっちゃったよ。あれじゃ、もはや正常な思考は望めないね。いつもヤチカさんにされたことばっかり、考えててさ」
「まるで廃人だな」
由羅の眉が吊り上がる。
「きっと杏里も、一時期、そうだったんだろう」
「まあね。由羅が捨てられたには、ヤチカさんのせいだしね」
「誰が捨てられたって?」
由羅が器用に右足を伸ばして、重人のおでこをブーツのつま先でつついた。
「いい加減なこと抜かすと、おまえの大事なとこ、引っこ抜いてやるかんな!」
「残念でした。その”大事なところ”は、今の僕にはないんだよ」
しれっとした顔で、重人が言い返す。
「あ、そうか、そういえばそうだったな」
珍しく、由羅が殊勝に引き下がった。
「それで思い出したんだけど…。その、ルナの快感が伝わってきた時、重人、おまえ、どうなんだよ? あそこがなくても、その、催したりするのかよ?」
「余計なお世話、といいたいとこだけど」
重人が手元の将棋の駒から目を上げた。
「そこがやっかいなところでさ。実は、ないのに感じるんだ。勃起してるペニスをね。幻肢ってやつなのかな。ほら、腕や足を切断した人が、いつまでも指のかゆみを感じるみたいに…」
「なんか気の毒な話だな」
いたたまれないような表情をする由羅。
「それじゃ、蛇の生殺しじゃないか」
「うん」
寂しそうに、重人はうなずいた。
「だから、早く杏里に会いたいよ。会って、僕の性器、復元してもらいたい…」
「だったら」
由羅がすっくと立ちあがる。
「まずはルナだろ? ルナを救い出して、彼女を味方につけ、それから杏里だ」
「だよね」
重人も腰を上げた。
「問題はルナの頭だ。助け出したとしても、どうやって正常に戻すかだね」
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