259 / 605
第251話 黄金仮面(前編)
しおりを挟む
警報音で目が覚めた。
く、こんな時に…。
ベッドから身を起こし、僕は額の汗をぬぐった。
すこぶる体調が悪かった。
きのう、会社の送別会で、ハメを外し過ぎたのだ。
というか、僕自身はそんな気はさらさらなかったのに、上司に無理やり酒を飲まされたのである。
胃に刺すような痛みがあり、全身、気味の悪い汗でびっしょりだった。
壁にかかった日めくりカレンダーは、日曜日になっている。
二日酔いでも明日はゆっくり休めるからまあ、いいか。
昨夜、そう思いながらカレンダーをめくり、ベッドに入ったのを思い出す。
だがー。
さっそく、その淡い期待は破られた。
サイドテーブルのスマホを拾い上げると、画面が点滅していた。
アプリを立ち上げるまでもなく、勝手に動画が始まった。
ーJR真砂駅西口に隣接したショッピングセンターに、怪人が出現しました。黄金仮面の出動を要請しますー
音声入りテロップがそう告げる。
1階と2階をつなぐ長いエスカレーター。
その登り切ったところに、ヒト型の異形が仁王立ちになっている。
頭にかぶっているのは、オニヤンマの仮面だろうか。
遠目にも、大きな複眼がふたつと獰猛な牙が見て取れる。
女性タイプらしく、肌にフィットしたボデイスーツに包まれた身体は、モデル顔負けの曲線美を誇っている。
が、そのセクシーな外観を台なしにしているのが、ボデイスーツの腹部に開いた”窓”だった。
そこだけ透明になっていて、体内の様子が見えているのである。
つまり、蠢動する大腸と小腸が丸見えなのだ。
これぞまさに、彼女が日本征服を狙う腸詰帝国の手先である何よりの証拠だった。
トンボ女の武器は、両手に持った鞭のようだ。
2メートルはありそうなしなやかな鞭を振り回しながら、今しも客たちに襲いかかろうとしている。
「くそ、腸詰帝国め。休日も休ませてくれないのか」
悪態をつきながら、ベランダに出る。
本当は、用便を済ませたり、シャワーを浴びたりしたかった。
だが、動画を見る限り、事態は待ったなしだ。
仕方ない。
洗濯竿に吊り下げてあった仮面を手に取った。
思わず、ほおっと太いため息が出た。
仮面はいつ見ても美しい。
僕の仮面は腸詰帝国の雑魚どものものとは、根本的に違う。
太陽の光をエネルギーとして使う、神々しい黄金仮面なのだ。
「行くぞ。変身!」
顔に装着するなり、変化が始まった。
仮面から光の粒子がヴェールとなって広がり、僕の全裸の身体を包み込んだのだ。
粒子はすぐにボデイスーツへと実体化して、隙間なく肌にぴたりと貼りついた。
下が裸体だけに股間のふくらみは隠せない。
でも実はこのもっこりと乳首のポッチがSNSでバズり中であることを、僕は知っている。
ただひとつ、気に入らないのは、腹部に開いた透明窓だった。
あのトンボ女と同様に、20センチ四方の正方形の透明な”窓”から、内臓が見えているのだ。
なぜかといえば、僕こと黄金仮面も、もともとは腸詰帝国の改造人間だったからである。
僕らはそもそも、腸詰帝国のマッドサイエンティストの手により、人類征服のために生み出された超人だ。
けれど色々あって僕だけ良心に目覚め、帝国の秘密基地を脱出し、彼らに対抗して人類側についたというわけだ。
変身が完了すると、少し気分がましになった。
いつもと比べて力が出ない気がするけど、そんなことを言っている場合ではなかった。
「黄金仮面出動、とうっ!」
僕はベランダの壁によじ登ると超常体力にものを言わせ、はるか下方の往来めがけて一気にジャンプした。
く、こんな時に…。
ベッドから身を起こし、僕は額の汗をぬぐった。
すこぶる体調が悪かった。
きのう、会社の送別会で、ハメを外し過ぎたのだ。
というか、僕自身はそんな気はさらさらなかったのに、上司に無理やり酒を飲まされたのである。
胃に刺すような痛みがあり、全身、気味の悪い汗でびっしょりだった。
壁にかかった日めくりカレンダーは、日曜日になっている。
二日酔いでも明日はゆっくり休めるからまあ、いいか。
昨夜、そう思いながらカレンダーをめくり、ベッドに入ったのを思い出す。
だがー。
さっそく、その淡い期待は破られた。
サイドテーブルのスマホを拾い上げると、画面が点滅していた。
アプリを立ち上げるまでもなく、勝手に動画が始まった。
ーJR真砂駅西口に隣接したショッピングセンターに、怪人が出現しました。黄金仮面の出動を要請しますー
音声入りテロップがそう告げる。
1階と2階をつなぐ長いエスカレーター。
その登り切ったところに、ヒト型の異形が仁王立ちになっている。
頭にかぶっているのは、オニヤンマの仮面だろうか。
遠目にも、大きな複眼がふたつと獰猛な牙が見て取れる。
女性タイプらしく、肌にフィットしたボデイスーツに包まれた身体は、モデル顔負けの曲線美を誇っている。
が、そのセクシーな外観を台なしにしているのが、ボデイスーツの腹部に開いた”窓”だった。
そこだけ透明になっていて、体内の様子が見えているのである。
つまり、蠢動する大腸と小腸が丸見えなのだ。
これぞまさに、彼女が日本征服を狙う腸詰帝国の手先である何よりの証拠だった。
トンボ女の武器は、両手に持った鞭のようだ。
2メートルはありそうなしなやかな鞭を振り回しながら、今しも客たちに襲いかかろうとしている。
「くそ、腸詰帝国め。休日も休ませてくれないのか」
悪態をつきながら、ベランダに出る。
本当は、用便を済ませたり、シャワーを浴びたりしたかった。
だが、動画を見る限り、事態は待ったなしだ。
仕方ない。
洗濯竿に吊り下げてあった仮面を手に取った。
思わず、ほおっと太いため息が出た。
仮面はいつ見ても美しい。
僕の仮面は腸詰帝国の雑魚どものものとは、根本的に違う。
太陽の光をエネルギーとして使う、神々しい黄金仮面なのだ。
「行くぞ。変身!」
顔に装着するなり、変化が始まった。
仮面から光の粒子がヴェールとなって広がり、僕の全裸の身体を包み込んだのだ。
粒子はすぐにボデイスーツへと実体化して、隙間なく肌にぴたりと貼りついた。
下が裸体だけに股間のふくらみは隠せない。
でも実はこのもっこりと乳首のポッチがSNSでバズり中であることを、僕は知っている。
ただひとつ、気に入らないのは、腹部に開いた透明窓だった。
あのトンボ女と同様に、20センチ四方の正方形の透明な”窓”から、内臓が見えているのだ。
なぜかといえば、僕こと黄金仮面も、もともとは腸詰帝国の改造人間だったからである。
僕らはそもそも、腸詰帝国のマッドサイエンティストの手により、人類征服のために生み出された超人だ。
けれど色々あって僕だけ良心に目覚め、帝国の秘密基地を脱出し、彼らに対抗して人類側についたというわけだ。
変身が完了すると、少し気分がましになった。
いつもと比べて力が出ない気がするけど、そんなことを言っている場合ではなかった。
「黄金仮面出動、とうっ!」
僕はベランダの壁によじ登ると超常体力にものを言わせ、はるか下方の往来めがけて一気にジャンプした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる