超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第265話 祟り人形(前編)

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 解体工事のバイトをしている頃のことだった。
 ある廃屋の解体中、壁の中から妙なものが出てきた。
 人形である。
 おかっぱ髪で、和服を着た日本人形だ。
「君が悪いな」
 先輩が言った。
「なんで人形が壁の中に塗りこめられてるんだよ」
「持って帰って、供養したほうがいいですかね」
 少しビビった俺は、そうたずねた。
「なんかこいつ、あれにそっくりじゃないですか。夜の間に髪の毛が伸びるっていう、お菊人形」
「ばーか、こういうのはな、放置しておくのが一番なんだ。さわらぬ神に祟りなしって言うだろ。下手に情けをかけると、憑りつかれちまうんだよ」
「お、脅かさないでくださいよ」
 作業が終わり、瓦礫の山の中に人形は埋もれて消えた。
 けど、それで終わり、ではなかった。
 下宿に帰って部屋の電気をつけた俺は、思わずぎゃっと悲鳴を上げた。
 六畳一間の和室である。
 その真ん中に置いたテーブルの上に、何か赤いものが乗っている。
 手に取って確かめてみるまでもなかった。
 あの人形だ。
 おかっぱ髪で、頬のふっくらした、赤い和服姿の日本人形である。
 置いてきたはずなのに…。
 先輩の言葉が耳の奥に蘇る。
 ー情けをかけると、憑りつかれちまうんだよー
 人形に見つめられているような気がして、背筋がぞっとなった。
 おそるおそる近づいて首根っこを掴み、燃えるゴミの袋に放り込んだ。
 幸い、明日はごみ収集日だ。
 ちょっと早いけど、もうゴミ捨て場に出しておこう。
 だがー。
 無駄だった。
 翌日。
 日曜日だったのでバイトもなく、昼近くになって起きてみると、居たのである。
 あの人形が。
 今度は俺の机の上に。
 憑りつかれた?
 俺は何もやっていないのに?
 もしかしてこいつ、俺と先輩の会話を聞いていて、それで…。
 さすがに耐えられなくなった。
 どっか遠い所に捨てに行こう。
 山の中に埋めるか、海に捨てるかすれば、いくらなんでも、戻って来られないに違いない。
 人形をまたゴミ袋に詰め、レンタカーを借りた。
 散々迷った末、山に捨てることにした。
 海だと潮の加減でまた岸に流れ着かないとは限らないからである。
 ホームセンターで軍手とスコップを購入し、出発した。
 走行中、軽四のトランクの中で、人形がゴトゴト揺れているのがわかった。
 
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