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第280話 退職連鎖(後編)
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「いったいどういうことなんだろうねえ」
俺の報告を聞くなり店長は頭を抱えた。
「3人とも、退職の理由は、本物の体調不良・・・。それじゃまるで、うちのコンビニで感染症でも発生してるみたいじゃないか」
「でも、俺らはなんともありませんよ。なあ浜田、おまえはどうだ?」
僕は床掃除をしているバイトの浜田に声をかけた。
浜田はこの夏で丸2年この店に勤めていて、バイトの大学生の中では一番の古参である。
顔と雰囲気が暗いのであまり表に出せないが、休まず働くので雑用させるにはちょうどいい。
「おまえ、ここでバイトするようになってから、病気にかかったとか、そういうの、あったか?」
たずねてみたが、
「……」
浜田は両生類みたいな顔で俺と店長を見比べるだけで、いっこうに答えようとしない。
「わかった。仕事に戻れ」
しばらく待ったが返事がないので、ため息をつき、俺はカエル男を追い払った。
仕方のないやつだ。
コミュ障にもほどがある。
見れば健康だとわかるから、やつの場合は、まあ、それでよしとしよう。
「あの浜田もそうですが、男子は誰も病欠はしてないと思いますよ。現に俺と店長も、この通り元気ですし」
「てことは…」
「感染症ではありえない。女性だけがかかる感染症、なんて聞いたことありません」
「だよねえ」
「とにかく、もうひとり居ますから、明日は彼女を当たってみます。八神美里ちゃん、でしたっけ。辞めたのは、もう、1年半くらい前でしたっけね」
「ちょっと待ってて。今、履歴書持ってくる」
店長が探してきた履歴書を見ると、八神美里は今年23歳で、当時、隣町の実家からバスで通っていた。
「普通なら、大学卒業してるんじゃないかな。就職してる可能性が高い」
「結婚してるかもですね」
「その場合、在宅を確認してから出かけたほうがいいんじゃない? 引っ越してるかもしれないし」
「うーん、ただ、むやみに警戒されて居留守を使われるのもどうかと」
「そうか。ま、そのへんは、君に任せるよ」
そんなわけで、俺は翌日の午後、隣町へ向かう市バスに乗った。
幸いこの日は日曜日で、八神美里が仮に就職していたとしても、昼から在宅している可能性があったからだ。
美里の住む公営団地はすぐにわかった。
10近い棟を有する、町で一番大きな団地だったからだ。
ついでに言えば、八神美里もすぐにわかった。
団地の公園でベビーカーを押しているそのふくよかな姿に見覚えがあったからである。
「あの、八神さん? 俺です。覚えてますか? 隣の町のコンビニで一緒だった…」
「あら、おひさしぶり」
ふりむいた丸顔の女性が破顔した。
その朗らかな笑顔はやはり美里のものだった。
「ご結婚、なさったんですか?」
訊くなり、美里の表情が曇った。
「え? い、いえ、そうでは、なくて…」
「じゃ、この赤ちゃんは…?」
ベビーカーの中に目をやって、俺はぎくりとなった。
こちらを見返してきた赤ん坊の顔に、奇妙な既視感を覚えたからである。
ま、マジか…。
こ、これはいったい、どうしたことだ…?
ー解決編に続くー
俺の報告を聞くなり店長は頭を抱えた。
「3人とも、退職の理由は、本物の体調不良・・・。それじゃまるで、うちのコンビニで感染症でも発生してるみたいじゃないか」
「でも、俺らはなんともありませんよ。なあ浜田、おまえはどうだ?」
僕は床掃除をしているバイトの浜田に声をかけた。
浜田はこの夏で丸2年この店に勤めていて、バイトの大学生の中では一番の古参である。
顔と雰囲気が暗いのであまり表に出せないが、休まず働くので雑用させるにはちょうどいい。
「おまえ、ここでバイトするようになってから、病気にかかったとか、そういうの、あったか?」
たずねてみたが、
「……」
浜田は両生類みたいな顔で俺と店長を見比べるだけで、いっこうに答えようとしない。
「わかった。仕事に戻れ」
しばらく待ったが返事がないので、ため息をつき、俺はカエル男を追い払った。
仕方のないやつだ。
コミュ障にもほどがある。
見れば健康だとわかるから、やつの場合は、まあ、それでよしとしよう。
「あの浜田もそうですが、男子は誰も病欠はしてないと思いますよ。現に俺と店長も、この通り元気ですし」
「てことは…」
「感染症ではありえない。女性だけがかかる感染症、なんて聞いたことありません」
「だよねえ」
「とにかく、もうひとり居ますから、明日は彼女を当たってみます。八神美里ちゃん、でしたっけ。辞めたのは、もう、1年半くらい前でしたっけね」
「ちょっと待ってて。今、履歴書持ってくる」
店長が探してきた履歴書を見ると、八神美里は今年23歳で、当時、隣町の実家からバスで通っていた。
「普通なら、大学卒業してるんじゃないかな。就職してる可能性が高い」
「結婚してるかもですね」
「その場合、在宅を確認してから出かけたほうがいいんじゃない? 引っ越してるかもしれないし」
「うーん、ただ、むやみに警戒されて居留守を使われるのもどうかと」
「そうか。ま、そのへんは、君に任せるよ」
そんなわけで、俺は翌日の午後、隣町へ向かう市バスに乗った。
幸いこの日は日曜日で、八神美里が仮に就職していたとしても、昼から在宅している可能性があったからだ。
美里の住む公営団地はすぐにわかった。
10近い棟を有する、町で一番大きな団地だったからだ。
ついでに言えば、八神美里もすぐにわかった。
団地の公園でベビーカーを押しているそのふくよかな姿に見覚えがあったからである。
「あの、八神さん? 俺です。覚えてますか? 隣の町のコンビニで一緒だった…」
「あら、おひさしぶり」
ふりむいた丸顔の女性が破顔した。
その朗らかな笑顔はやはり美里のものだった。
「ご結婚、なさったんですか?」
訊くなり、美里の表情が曇った。
「え? い、いえ、そうでは、なくて…」
「じゃ、この赤ちゃんは…?」
ベビーカーの中に目をやって、俺はぎくりとなった。
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