超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第282話 トイレ事変

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 他の社員がみんな帰ったのを見届けてから、トイレに入った。
 私は冷房が苦手である。
 この時期になると、早々と事務所のエアコンを冷房にするやからがいるので、必ず夕方にはおなかが痛くなる。
 きょうもいつもと同じく冷気に胃腸をやられてしまい、今までずっとトイレを我慢していたというわけだ。
 便座に座って太い息を吐く。
 事務所は狭いため、勤務時間中に”大”をするとすぐばれてしまう。
 後に匂いが残るのもあるし、ともすれば音が外に聴こえてしまうのだ。
 だから私のような女子社員は特に、勤務中は排便を我慢せずにはいられないのである。
 いきむまでもなく、にゅるっとした感触とともに奔流のように熱いものが噴出した。
 出し終えて、冷や汗を拭った。
 危なかった、と思う。
 勤務時間中にこの勢いで排便してしまったら、すぐに大便をしたとバレてしまうところだった。
 そんなことになれば、同僚や後輩社員たちに陰で何を言われるかわからない。
 そんなことを考えながら、水を流そうとした時だった。
 どこからか、お囃子や手拍子のようなものが、かすかに聴こえてきた。
 近くの公園で、お祭りでもやっているのだろうか。
 時節柄、夏祭りのシーズンが近いので、近所で盆踊り大会が開催されている可能性は十分にある。
 潮騒のようなお囃子を聴きながら、ウォッシュレットのボタンを押した、その瞬間である。
 恐ろしいことが起こった。
 バタン!
 いきなり、四方の壁が一斉に倒れたのだ。
 私は便座に腰かけたままの姿勢で、高い櫓の上に居た。
 周囲には浴衣姿の人々がひしめき合いながら団扇を片手に踊っている。
 その中には見慣れた同僚や上司、後輩社員たちの顔も見えた。
 びっくりして立ち上がったのが、間違いだった。
 ブヒッ!
 ブヒブヒブヒッ!
 次の瞬間、私は衆人環視の中、お囃子に負けないくらいの大音量で脱糞してしまっていたのである…。
 
 
 
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