超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

文字の大きさ
294 / 625

第270話 闇に這うもの(前編)

しおりを挟む
 そこは地下通路をくぐった先にある墓地に面した廃病院で、うっそうとした森に囲まれていた。
 しかも近畿地方の太平洋側にあるこの土地は、ただでさえ降水量が多く、じめついている。
 そんな所をわざわざ選んで肝試しをするやつの気が知れないのだが、僕らのサークルはそもそも”怖いもの研究会”を名乗っている以上、この心霊スポットは避けて通れないのだった。
 サークルと言っても、メンバーは6人。
 3年生の斉木と僕、そして石井。
 あとは2年生の女子の山形さんと今年の春入った1年生の浜田さんと並木さん。
 こういう時常にノリノリなのは部長の斉木で、撮影係の石井もすぐそれに乗っかっていく。
 女子3人はみんな最初はおっかなびっくりといった感じだったのだけれど、場数を踏むうちに大胆になっていくのが不思議だった。
 結局いつまでも怖がりが抜けないのは僕独りで、山形さんに「しっかりしなさいよ!」と気合を入れられる始末。
 今回もそうだった。
 連休を利用して集まった僕らは、さっそく廃病院探検へと繰り出したのだが、名物の地下通路を抜け、墓地の奥にある廃病院の前に到着した時には、僕は早くも帰りたくなっていた。
 霧雨の向こうに現れたその建物はいかにも廃墟でございといった感じで、怖気をふるうほど怖かったのだ。
 折しも時刻は夕方5時を過ぎようとしていて、中を探索しているうちに日が暮れるのは間違いなかった。
「やべー」
 石井が歓声を上げ、嬉々とした表情で自撮り棒につけたスマホを建物に向ける。
「ここ、20年前までは精神病院だったんだって。ホラーの舞台装置としては完璧だと思わないか?」
 自分の手柄のように得意げな口調で斉木が言った。
「なんか全体の雰囲気がどんよりしてるよね。あの建物だけ、違う次元に落ち込んだ感じっていうか」
 眼鏡を人差し指で押し上げ、山形さんはしげしげと廃病院を観察している。
 その理知的な横顔は、きめの細かい肌と相まってドキドキするほど魅力的だ。
 斉木たちはどんな時でもクールな彼女をアンドロイド美女とか呼んで揶揄するが、僕はそこに惹かれるのだ。
「本当でこんなとこに入るんですかあ」
「やだあ、お化けが出たらどうしよう」
 双子のような1年生たちは抱き合って騒いでいる。
 嫌だといいながら眸を輝かせているところが僕と違い、このシチュエーションを楽しんでいる証拠である。
「何はともあれ、暗くならないうちに探検だ。今回の動画、バズること間違いないからな」
 肩を怒らせ、斉木が先に立って歩き出す。
 やつは僕らの活動をSNSに上げて小遣いを稼ぎ、そのアガリでコンパを開催したりしているのだ。
「みんな、マスクするの忘れないで。古い建物はアスベスト使ってるから、吸い込んだらアウトだよ」
 山形さんに注意され、僕らはそれぞれ持参したお気に入りのマスクを装着して建物に足を踏み入れた。
 廃病院は正面入り口の自動ドアも取り外され、誰でも出入り自由の状態だ。
 正面ロビーはなぜか砕けたガラスや瓦礫で足の踏み場もないほどだった。
 一度解体しかけて中止になったのか、壁も所々破壊された跡がある。
 1階を回ったが、特に何事もなかった。
 埃だらけの廊下がコの字を形作っていて、そこに扉のない部屋がいくつもいくつも並んでいるだけだ。
「よし、次は2階だ」
 階段の下に立って、斉木が言った時だった。
「あれ、何だと思う?」
 ガラスの割れた窓から差し込む最後の一筋の陽射し。
 その中に浮かび上がったものを指差して、山形さんがつぶやいた。
 2階への階段の一部が、鈍い銀色に光っている。
 階段を上りながら、誰かが何かをこぼして行ったのか、あるいはその逆かー。
「何かわからないけど、このネバネバ、新しいよ」
 段々に付着した半透明の液体に懐中電灯の光を向けて、山形さんが言葉を継いだ。
 
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...