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第313話 離島怪異譚(21)
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「思った通りだ。いやあ、これはまずいなあ」
数分後ー。
私の手から検査薬のスティックを受け取った乾医師は、それをひと目見るなり、唸り声を上げた。
予想通りの反応だった。
今にも壁が崩れてきそうな和式のトイレ。
片隅には、トイレットペーパーの代わりに、灰色の便所紙の束が置かれていた。
そうー。
まさに、トイレというより便所と呼ぶのがふさわしいその狭苦しい空間で、なんとか作業を終えた私は蒼ざめた。
スティックのリトマス紙みたいな試薬の部分は、経血を吸ったかのように、薄赤色に変色していたのだ。
「お嬢さん、あなた、間違いなく、妊娠してますよ」
ひょっとこ口を笑いの形に歪めて、髑髏そっくりな乾医師が言った。
「これは、妊娠3か月といったところですかな」
「ありえません」
つい、語気が荒くなった。
去年、付き合っていた彼と別れてから、ここ一年間、誰とも性交渉などしていない。
記憶にあるのは、昨夜の淫夢くらいなものである。
「それが、多胡島に限り、あり得るのですよ」
意味深な口調で、医師が続けた。
「身に覚えがないとはいわせませんよ。”あれ”のタネは、人間のものとは成長の度合いが違う」
まさか…。
嫌な予感が現実化したということか。
海魔の少女に襲われた野崎は、その数時間後に海魔に身体を乗っ取られ、変身の途中で死んでしまった。
昨夜のあの経験が夢でなかったとしたら、私の子宮内で海魔の子供が育っていたとしても、何の不思議もない…。
「今すぐなら、まだ間に合います」
私の尿で濡れた妊娠検査薬を口に入れ、うまそうにちゅうちゅう吸ってから、髑髏男が言った。
「無理な合体ではないでしょうから、通常の堕胎法で行けるはずです」
無理な合体…。
野崎のことだろうか。
野崎は海魔と細胞が融合した過程で、肉体に負荷がかかり過ぎて死んでしまったのだろう。
「どうしますか?」
嘗め終えた妊娠検査薬のスティックを指に挟んでくるくる回しながら、髑髏男が訊いてきた。
「堕ろしますか? それとも、産んで育てますか? 人類に災いをもたらす、怪物の仔を」
私は絶望的な気分に襲われた。
やはり、この不気味な医師は知っているのだ。
あの島で、何が起こっているのかを。
多胡島から逃げ出した女性たちは皆、私と同じように一番近いこの港町で産科を探し、ここに辿り着いたのだ。
「やってください」
もう、迷わなかった。
いや、迷っている暇などない、というのが正解だろう。
「ここで、この医院で、やっていただけるんですよね? その、堕胎手術を…」
「もちろん」
髑髏男の出目金みたいに大きな目がギラリと光った。
「私はそのためにここにいるようなものですから」
魚面の看護師がカーテンを引いた。
その向こうに現れたのは、手術室だった。
「では、服も下着も全部脱いで、あそこに寝てください」
医師が顎で示したものをひと目見るなり、私は口の中で唾が一瞬のうちに干上がるのを感じないではいられなかった。
それは、どうひいき目に見ても、中世ヨーロッパの拷問器具にそっくりだったからである…。
数分後ー。
私の手から検査薬のスティックを受け取った乾医師は、それをひと目見るなり、唸り声を上げた。
予想通りの反応だった。
今にも壁が崩れてきそうな和式のトイレ。
片隅には、トイレットペーパーの代わりに、灰色の便所紙の束が置かれていた。
そうー。
まさに、トイレというより便所と呼ぶのがふさわしいその狭苦しい空間で、なんとか作業を終えた私は蒼ざめた。
スティックのリトマス紙みたいな試薬の部分は、経血を吸ったかのように、薄赤色に変色していたのだ。
「お嬢さん、あなた、間違いなく、妊娠してますよ」
ひょっとこ口を笑いの形に歪めて、髑髏そっくりな乾医師が言った。
「これは、妊娠3か月といったところですかな」
「ありえません」
つい、語気が荒くなった。
去年、付き合っていた彼と別れてから、ここ一年間、誰とも性交渉などしていない。
記憶にあるのは、昨夜の淫夢くらいなものである。
「それが、多胡島に限り、あり得るのですよ」
意味深な口調で、医師が続けた。
「身に覚えがないとはいわせませんよ。”あれ”のタネは、人間のものとは成長の度合いが違う」
まさか…。
嫌な予感が現実化したということか。
海魔の少女に襲われた野崎は、その数時間後に海魔に身体を乗っ取られ、変身の途中で死んでしまった。
昨夜のあの経験が夢でなかったとしたら、私の子宮内で海魔の子供が育っていたとしても、何の不思議もない…。
「今すぐなら、まだ間に合います」
私の尿で濡れた妊娠検査薬を口に入れ、うまそうにちゅうちゅう吸ってから、髑髏男が言った。
「無理な合体ではないでしょうから、通常の堕胎法で行けるはずです」
無理な合体…。
野崎のことだろうか。
野崎は海魔と細胞が融合した過程で、肉体に負荷がかかり過ぎて死んでしまったのだろう。
「どうしますか?」
嘗め終えた妊娠検査薬のスティックを指に挟んでくるくる回しながら、髑髏男が訊いてきた。
「堕ろしますか? それとも、産んで育てますか? 人類に災いをもたらす、怪物の仔を」
私は絶望的な気分に襲われた。
やはり、この不気味な医師は知っているのだ。
あの島で、何が起こっているのかを。
多胡島から逃げ出した女性たちは皆、私と同じように一番近いこの港町で産科を探し、ここに辿り着いたのだ。
「やってください」
もう、迷わなかった。
いや、迷っている暇などない、というのが正解だろう。
「ここで、この医院で、やっていただけるんですよね? その、堕胎手術を…」
「もちろん」
髑髏男の出目金みたいに大きな目がギラリと光った。
「私はそのためにここにいるようなものですから」
魚面の看護師がカーテンを引いた。
その向こうに現れたのは、手術室だった。
「では、服も下着も全部脱いで、あそこに寝てください」
医師が顎で示したものをひと目見るなり、私は口の中で唾が一瞬のうちに干上がるのを感じないではいられなかった。
それは、どうひいき目に見ても、中世ヨーロッパの拷問器具にそっくりだったからである…。
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