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#413話 悪臭の源
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私は地下鉄で通勤しています。
けっこうな混み具合なので、行きも帰りも座れる可能性はほとんどありません。
そんなある朝のことです。
あのとんでもない悪臭事件に遭遇してしまったのは…。
ある日の帰り道のこと。
目の前で停まった地下鉄をふと見ると、いつもは満員の時間帯なのに、その車両だけが妙に空いていました。
疲れていた私は「 これなら座って帰れる」と、嬉々としてその車両に乗り込んだのですが…。
瞬間、鼻をつく強烈な悪臭に、
「うぅっ……」
と思わず顔をしかめてしまいました。
車内を見渡すと、正面の席にヨレヨレのコートに身を包んだ一人の男性が座っていました。
その足元には、何かがぎっしり詰まり、はち切れんばかりに膨らんだビニール袋が一つ、置かれています。
どうやら、車内に充満している臭気は、その袋から漂ってくるようです。
異臭には、他の乗客も気づいているようでした。
みんな、鼻と口を押さえながら、ちらちらと男性のほうをうかがっています。
問題の男性はといえば、周囲の注目を浴びているのが嬉しいのか、口元に薄ら笑いを浮かべています。
長い髪の毛はボサボサで、見るからに気味の悪い年齢不詳の人物です。
私は一瞬、どうしようか迷いました。
あからさまに避けるのはよくない気もしましたが、臭気耐えるのは正直厳しいものがありました。
迷いに迷った結果、混雑していた隣の車両に移ることにした時です。
「ママ~、あのおじさん、くさいよねえ」
突然、母親らしき女性とドアのあたりに立っていた小学校低学年くらいの男の子が、言い出しました。
しかも、
「こらっ!」と女性が止めるのも聞かず、スタスタと例の男性のほうへ近寄っていき、
「おじさん、それ、何が入ってるの?」
そう、物おじすることなく問いかける始末です。
固唾を呑んで私たちが見守るなか、
「見たいかい?」
にやりと笑って男が顔を上げました。
「うんっ!」
元気よく叫ぶ少年を隣に座らせると、足元の袋に手をかけます。
「ほら、のぞいてごらん」
とー。
次の一瞬でした。
「ぎゃあああっ!」
断末魔の絶叫が響いたかと思うと、かき消すように少年の姿が見えなくなりました。
後には、何か大きなものを飲み込んだ胃袋のように、どくんどくんと脈打ち始めた例の袋が残されているばかり。
「ユウくん!」
母親らしき女性が悲鳴を上げ、髪を振り乱し、男に駆け寄ります。
怖くなって、私はそそくさと隣の車両に移りました。
他の乗客たちも、次々と私の後に続いて移動してきて、隣の車両はかなり混み合いました。
それでも、あの悪臭と比べればマシだと思えるほどでした。
その男性は、次の駅で降り、例の袋を片手に、ホームの人ごみの中へと消えていきました。
気になって一度隣の車両をのぞいてみましたが、結局最後まで子供と母親の姿は見当たりませんでした。
地下鉄のような公共交通機関では、どんな人と遭遇するか、わかりません。
もちろん、いろいろな事情を抱えている人もいるでしょう。
そう思う一方で、私たちは日々、こうして他人と空間を共有しているのだと改めて実感させられたひと時でした。
投稿者:20代 会社員 女性
けっこうな混み具合なので、行きも帰りも座れる可能性はほとんどありません。
そんなある朝のことです。
あのとんでもない悪臭事件に遭遇してしまったのは…。
ある日の帰り道のこと。
目の前で停まった地下鉄をふと見ると、いつもは満員の時間帯なのに、その車両だけが妙に空いていました。
疲れていた私は「 これなら座って帰れる」と、嬉々としてその車両に乗り込んだのですが…。
瞬間、鼻をつく強烈な悪臭に、
「うぅっ……」
と思わず顔をしかめてしまいました。
車内を見渡すと、正面の席にヨレヨレのコートに身を包んだ一人の男性が座っていました。
その足元には、何かがぎっしり詰まり、はち切れんばかりに膨らんだビニール袋が一つ、置かれています。
どうやら、車内に充満している臭気は、その袋から漂ってくるようです。
異臭には、他の乗客も気づいているようでした。
みんな、鼻と口を押さえながら、ちらちらと男性のほうをうかがっています。
問題の男性はといえば、周囲の注目を浴びているのが嬉しいのか、口元に薄ら笑いを浮かべています。
長い髪の毛はボサボサで、見るからに気味の悪い年齢不詳の人物です。
私は一瞬、どうしようか迷いました。
あからさまに避けるのはよくない気もしましたが、臭気耐えるのは正直厳しいものがありました。
迷いに迷った結果、混雑していた隣の車両に移ることにした時です。
「ママ~、あのおじさん、くさいよねえ」
突然、母親らしき女性とドアのあたりに立っていた小学校低学年くらいの男の子が、言い出しました。
しかも、
「こらっ!」と女性が止めるのも聞かず、スタスタと例の男性のほうへ近寄っていき、
「おじさん、それ、何が入ってるの?」
そう、物おじすることなく問いかける始末です。
固唾を呑んで私たちが見守るなか、
「見たいかい?」
にやりと笑って男が顔を上げました。
「うんっ!」
元気よく叫ぶ少年を隣に座らせると、足元の袋に手をかけます。
「ほら、のぞいてごらん」
とー。
次の一瞬でした。
「ぎゃあああっ!」
断末魔の絶叫が響いたかと思うと、かき消すように少年の姿が見えなくなりました。
後には、何か大きなものを飲み込んだ胃袋のように、どくんどくんと脈打ち始めた例の袋が残されているばかり。
「ユウくん!」
母親らしき女性が悲鳴を上げ、髪を振り乱し、男に駆け寄ります。
怖くなって、私はそそくさと隣の車両に移りました。
他の乗客たちも、次々と私の後に続いて移動してきて、隣の車両はかなり混み合いました。
それでも、あの悪臭と比べればマシだと思えるほどでした。
その男性は、次の駅で降り、例の袋を片手に、ホームの人ごみの中へと消えていきました。
気になって一度隣の車両をのぞいてみましたが、結局最後まで子供と母親の姿は見当たりませんでした。
地下鉄のような公共交通機関では、どんな人と遭遇するか、わかりません。
もちろん、いろいろな事情を抱えている人もいるでしょう。
そう思う一方で、私たちは日々、こうして他人と空間を共有しているのだと改めて実感させられたひと時でした。
投稿者:20代 会社員 女性
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