超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

#427話 畜生転生③

　森を抜けると、眼下に段々畑が広がっていた。
　その向こうに藁ぶきの民家が数件寄り添うように建っていて、農作業にいそしむ農夫たちの姿が見えた。
　人間の里に違いなかった。
　なんだか、昭和の風景みたいな、牧歌的な雰囲気である。
　オークに見放されたら、もう人間にすがるしかない。
　だいたい、元はといえば私は人間なのだ。
　ちゃんと礼を尽くせば、受け入れてくれることだろう。
「あのう、ちょっといいですかあ？」
　稲刈りの最中の老夫婦を見かけたので、寄って行って声をかけると、老人のほうが、信じられないといった表情で私を見返した。
「おい、ばあさんや、なんとまあ、ブタがしゃべったぞ」
「くわばらくわばら、ブタがしゃべるだなんて。じっさま、こりゃ、呪いに違いねえだべ」
　がくがく震え出すと、ばあさんがすたこら逃げ出した。
「呪い？　そりゃ大変じゃあ」
　続いてじいさんも駆けていく。
　年の割に元気そうなふたりである。
　ぼけっとして見ていると、ふたりの去った方角から怒声のようなものが聞こえてきた。
　手に手に得物を持った若者の集団が、砂ぼこりを立ててこっちに向かってくる。
「殺せ！　殺せえ！」
「呪いの豚女をたたっ殺すんだあ！」
　顔から血の気が引くのがわかった。
　そんな…。
　　ショックのあまり、周囲の風景から色が消え、白黒写真みたいになった。
　なんと。
　オークばかりか、私は人間にまで仲間はずれにされてしまったのである。