超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第503話 冥府の王(54)

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 目が慣れてくると、広い和室が暗闇の中にぼんやりと浮かび上がった。
「今明かりをつけるわね」
 母が壁に指を這わせると、カチリと音がして、天井で淡い非常灯がともった。
 オレンジ色の光が、少しだけ闇を押しのけた。
 明かりの中に浮かび上がったのは、部屋の中央に立てられた屏風である。
 屏風にはやはり金の糸で絵が描かれていた。
 裸の女性と、その上にのしかかる黒い悪魔のような影。
 猛禽類の爪を生やした五本の指が、逃げようとする女性の乳房を、後ろから鷲掴みにしている。
 僕にはその悪魔が、ハンザキに見えてならなかった。
 そうすると、あの女の人は、いったい…。
 母だろうか。
 あるいは、母の話に登場した曾祖母なのか。
 見ようによっては、大人になった香澄に見えないこともない。
「あれから逃れるにはね、抵抗しちゃ、ダメなの」
 屏風の中に僕を連れ込むと、母が言った。
「私たちは、ただあれの喜ぶようなことをしていればいいのよ」
 震える手が僕のパジャマをはぎとっていく。
 パジャマの下に僕が何もつけていないことに気づいて、母が満足げにため息をつく。
 僕を生まれたままの姿にすると、蛇のように母が腕を絡みつかせてきた。
 いとおしむように肌を撫でさすり、杏のような胸の突起をつまんでくる。
「あ」
 小声で呻くと、
「気持ち、いいの?」
 すでに勃起している僕のペニスを逆手に握って、母が訊いてきた。
 そのままマシュマロのように柔らかい乳房で僕の肌をなぞりながら、腰を上げ、膝立ちになった。
 母の熱い唇が、僕の右の乳首を含んだ。
 同時に左手が、早くもペニスをしごき始める。
「あ、あ、あ、だ、だめ」
 立っているのがやっとだった。
 僕は腰をがくがくさせ、母の顔に薄い胸を押しつけるように上体をのけぞらせた。
 頭の中が赤く染まっていく。
 身体中が火照ってたまらない。
 今にも放出しそうになった時である。
「こんなことだろうと思った」
 突然、屏風が向こう側に倒れたかと思うと、薄闇の中から香澄の声が響いた。
「香澄ちゃん…」
 母の手が止まった。
 甘噛みしていた僕の乳首から口を離し、ゆっくりと振り返る。
 つられて僕も、母の視線を追った。
 屏風の後ろに、一糸まとわぬ姿の香澄が立っていた。
「お、おまえ…寝たふりしてたのか…?」
 くそ。
 寝息まで確かめたのに。
 あれも全部演技だったというわけか。
 が、香澄は僕など見てはいなかった。
 その燃えるような瞳は、ただ母だけに向けられている。
「お兄ちゃんは、渡さないよ」
 母に向かって、挑発するように、香澄が言った。
「お母さんは知らないだろうけど、私とお兄ちゃんは、もうセックスだってしてるんだからね」


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