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第532話 冥府の王(完)
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「今度の事件はフェイク」
僕の右半身=香澄が続けた。
「邪魔者を呼び集めるためのね」
テーブルの下で、香澄の右手は湾曲した鋭い鎌に変わっている。
僕の左手の先が、鉤爪に変化したように。
「その声は、香澄ちゃん…?」
信じられないといった表情をして、由利亜が訊いた。
「どういうことだよ? 樹、説明しろよ」
得体の知れぬ不気味さは伝わったらしく、剛は半ば椅子から腰を浮かしかけている。
「香澄とお兄ちゃんは、ふたつでひとつ」
歌うような口調で、香澄が言った。
「まさか…」
由里亜も中腰になっている。
でも、もう遅い。
香澄が下から右腕を突き上げ、鎌でテーブルを真っ二つに割った。
「や、やめろ…」
逃げ腰になってあとじさる剛の顔面に、僕は左の鉤爪を叩き込んだ。
由里亜の悲鳴に、店内の客たちが一斉に振り返る。
顔面を柘榴のように潰された剛が、ずしんと床にくず折れた。
「逃げても無駄」
壁際に由利亜を追い詰め、香澄が言う。
「鏡を見られなくて残念ね。由利亜、あなたの顔にはもう”刻印”が出てるのよ」
「うそ…」
由里亜が顔に両手を這わせた、その瞬間だった。
香澄の鎌が、空気を切り裂いて弧を描いた。
鮮血がしぶき、由利亜の頭部がすっ飛んだ。
窓ガラスを割って、夜の闇の中へと消えていく。
糸の切れたマリオネットのように、スレンダーな身体が剛の死体の上に崩れ落ちていった。
「切り方が違う」
僕は言った。
「まだいいのよ」
香澄が笑った。
「獲物を半裂きにするのは、後継者が欲しくなった時で」
それもそうだ。
今はまだ、新たなハンザキが誕生したばかりなのだ。
当分の間は、このみなぎる力で、殺しを思う存分楽しめばいい。
「ケリをつけなきゃね」
香澄が言った。
「村へ戻るのか?」
僕はたずねた。
「戻ってあいつを倒す?」
「うん」
香澄がうなずいた。
「この世にハンザキは一体いればいい」
僕の右半身=香澄が続けた。
「邪魔者を呼び集めるためのね」
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僕の左手の先が、鉤爪に変化したように。
「その声は、香澄ちゃん…?」
信じられないといった表情をして、由利亜が訊いた。
「どういうことだよ? 樹、説明しろよ」
得体の知れぬ不気味さは伝わったらしく、剛は半ば椅子から腰を浮かしかけている。
「香澄とお兄ちゃんは、ふたつでひとつ」
歌うような口調で、香澄が言った。
「まさか…」
由里亜も中腰になっている。
でも、もう遅い。
香澄が下から右腕を突き上げ、鎌でテーブルを真っ二つに割った。
「や、やめろ…」
逃げ腰になってあとじさる剛の顔面に、僕は左の鉤爪を叩き込んだ。
由里亜の悲鳴に、店内の客たちが一斉に振り返る。
顔面を柘榴のように潰された剛が、ずしんと床にくず折れた。
「逃げても無駄」
壁際に由利亜を追い詰め、香澄が言う。
「鏡を見られなくて残念ね。由利亜、あなたの顔にはもう”刻印”が出てるのよ」
「うそ…」
由里亜が顔に両手を這わせた、その瞬間だった。
香澄の鎌が、空気を切り裂いて弧を描いた。
鮮血がしぶき、由利亜の頭部がすっ飛んだ。
窓ガラスを割って、夜の闇の中へと消えていく。
糸の切れたマリオネットのように、スレンダーな身体が剛の死体の上に崩れ落ちていった。
「切り方が違う」
僕は言った。
「まだいいのよ」
香澄が笑った。
「獲物を半裂きにするのは、後継者が欲しくなった時で」
それもそうだ。
今はまだ、新たなハンザキが誕生したばかりなのだ。
当分の間は、このみなぎる力で、殺しを思う存分楽しめばいい。
「ケリをつけなきゃね」
香澄が言った。
「村へ戻るのか?」
僕はたずねた。
「戻ってあいつを倒す?」
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香澄がうなずいた。
「この世にハンザキは一体いればいい」
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