超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

文字の大きさ
556 / 605

第532話 冥府の王(完)

しおりを挟む
「今度の事件はフェイク」
 僕の右半身=香澄が続けた。
「邪魔者を呼び集めるためのね」
 テーブルの下で、香澄の右手は湾曲した鋭い鎌に変わっている。
 僕の左手の先が、鉤爪に変化したように。
「その声は、香澄ちゃん…?」
 信じられないといった表情をして、由利亜が訊いた。
「どういうことだよ? 樹、説明しろよ」
 得体の知れぬ不気味さは伝わったらしく、剛は半ば椅子から腰を浮かしかけている。
「香澄とお兄ちゃんは、ふたつでひとつ」
 歌うような口調で、香澄が言った。
「まさか…」
 由里亜も中腰になっている。
 でも、もう遅い。
 香澄が下から右腕を突き上げ、鎌でテーブルを真っ二つに割った。
「や、やめろ…」
 逃げ腰になってあとじさる剛の顔面に、僕は左の鉤爪を叩き込んだ。
 由里亜の悲鳴に、店内の客たちが一斉に振り返る。
 顔面を柘榴のように潰された剛が、ずしんと床にくず折れた。
「逃げても無駄」
 壁際に由利亜を追い詰め、香澄が言う。
「鏡を見られなくて残念ね。由利亜、あなたの顔にはもう”刻印”が出てるのよ」
「うそ…」
 由里亜が顔に両手を這わせた、その瞬間だった。
 香澄の鎌が、空気を切り裂いて弧を描いた。
 鮮血がしぶき、由利亜の頭部がすっ飛んだ。
 窓ガラスを割って、夜の闇の中へと消えていく。
 糸の切れたマリオネットのように、スレンダーな身体が剛の死体の上に崩れ落ちていった。
「切り方が違う」
 僕は言った。
「まだいいのよ」
 香澄が笑った。
「獲物を半裂きにするのは、後継者が欲しくなった時で」
 それもそうだ。
 今はまだ、新たなハンザキが誕生したばかりなのだ。
 当分の間は、このみなぎる力で、殺しを思う存分楽しめばいい。
「ケリをつけなきゃね」
 香澄が言った。
「村へ戻るのか?」
 僕はたずねた。
「戻ってあいつを倒す?」
「うん」
 香澄がうなずいた。
「この世にハンザキは一体いればいい」
 

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

処理中です...