超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第536話 満員電車の惨劇

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 いつものように、通勤列車はぎゅうぎゅう詰めだった。
 立錐の余地もない、とはまさにこのことだ。
 サラリーマンやOLたちの壁に囲まれ、小柄な私はともすれば窒息しそうになる。
 折悪しくも真夏である。
 車両内の空調はまったく効いておらず、周囲には汗や香水の匂いが充満している。
 ー1時間の辛抱だー
 こみ上げる吐き気に目をつぶって耐えていると、ふと後ろから髪の毛を引っ張られるのを感じた。
 振り向いて、蒼ざめた。
 斜め右後ろに立っている女子高生の手にしたハンディファンに、私の髪の毛の先っぽが巻き込まれているのだ。
 ーちょ、ちょっと!-
 声を上げようとして、気づいた。
 髪の毛は斜め左後ろからも引っ張られている。
 ーな、なに?-
 横目で見ると、案の定だった。
 スマホに夢中のOLが手にしたハンディファン。
 その羽根がやはり私の髪の毛を巻き込んでいるのである。
「止めて!」
 叫んだ時には、すでに遅かった。
 前方二方向へ、Vの字形に伸びる髪。
 スーツ姿のサラリーマンとカジュアルな服装の若者がもつ、更に二台のハンディファン。
 それが私の髪の毛を30度の角度で前へ前へと引っ張っている。
 ファンの風に吹き上げられた髪が四方八方に広がると、状況は凄まじいまでに悪化した。
 ブチブチブチブチッ!
 凄まじい勢いで髪の毛が抜けていく。
 激痛に私は絶叫した。
 ーや、やめて! し、死ぬ!ー
 余りの痛みに、意識が途切れるのがわかった…。
 
 次の駅で列車が止まると、雪崩を打って乗客たちがホームへと降りて行った。
 がらんとした車両内に、頭の皮を引きはがされ、血まみれになった死体がひとつ、ゴミのように残されていた。
 
 
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