黒い羊 ~ロスト・イノセント~

戸影絵麻

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#25 対決

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 鈴の攻撃のタイミングは、あらかじめ予想がついていた。
 
 だから、その”触手”が放たれた直後、エレナはまず肩の駆動体を飛ばしていた。

 ふたりの中間地点で、透明な駆動体同士が絡み合い、狂った蛇のようにのたうった。

 エレナが己の劣勢に気づいたのは、その瞬間だった。

 強い。

 なんて力なの・・・?

 太さが二倍ほどもある鈴の駆動体は、エレナの駆動体に絡みつき、今にも引きちぎらんばかりの勢いだ。

 肩がみしみしと軋んだ音を立てた。

 まずい。
 
 エレナの顔に、苦渋の色が浮かんだ。

「この程度か」

 鈴が嘲笑った。

 あっと思った時には、駆動体が2本とも引きちぎられていた。

 レイナは血の噴き出る両肩を押さえてよろめいた。

 しかし、この程度は予測済みだ。

 鈴が勝ち誇ったように微笑んだ時には、エレナの第3、第4の駆動体が額から発射され、すでに鈴の駆動体のつけ根に絡みついていた。

 今度はこっちの番だった。

 全身の力を駆動体に集め、鈴の触手を引き抜きにかかった。

「いやあああっ!」

 鈴の悲鳴とともに、何かが爆ぜる音が響き、太い2本の駆動体が弧を描いて宙に舞い上がった。

 勝った!

 エレナは地を蹴った。

 鈴はもう駆動体を持っていない。

 それに比べ、こっちにはまだ2本残っている。

 が、エレナが鈴に踊りかかろうとした時だった。

 突如として身体を見えない手でつかまれ、エレナは空中で静止した。

 Tシャツとショートパンツ、そして下着までもが粉々になり、まるで紙ふぶきのように身体からはがれていく。

 まさか・・・念動力?

 エレナは唇を噛んだ。

 おのれのうかつさを呪いたい気分だった。

 相手が浮遊していた時点で、気づくべきだったのだ。

 鈴が黒い羊として、そこまで進化を遂げていることに。

 全裸に剥かれたエレナの乳房が、不可視の手につかまれ、見るも無残に変形していく。

 べりべりと乳房が胸板からはがされる激痛に、一瞬、気が遠くなる。

 見えない手が両足をつかみ、エレナの股を180度開き切る。

 剥き出しになった性器に、やにわに不可視の異物をぶちこまれ、エレナは感電したように全身を硬直させた。

 くう、このままでは、身体中バラバラにされてしまうー。

 歯を食いしばり、駆動体を操った。

 1本を鈴の首に巻きつけ、もう1本を真下から突き上げた。

「あうっ!」

 スカートの中を直進した駆動体に性器を貫通され、鈴の真っ白な太腿に鮮血がほとばしる。

 鈴が両手でエレナの駆動体を鷲掴みにして、あっけなく引き千切った。

 が、身体を拘束する力が緩むのを、エレナは見逃さなかった。

 錐揉み状態で降下すると、両腕を鈴の首に巻きつけて地面に引き倒そうとした。

「やるじゃない」

 目と鼻の先で、鈴が笑った。

 駆動体をなくしたふたりに残された道は、肉弾戦のみだ。

 どちらかが息を止めるまで、己の肉体だけを頼りに戦うのだ。

 念動力を使われないよう、エレナは鈴の首を締め上げたまま、その額に頭突きをくらわせた。

 何度も続けるうちに白い額が割れ、噴き出た血潮が鈴の眼に入りこむ。

 だが、エレナの優位はあっけなく崩れた。

 次の一瞬、鈴の手刀がエレナの柔らかい下腹に突き刺さったのだ。

 傷口に両手をかけ、鈴がレイナの腹腔をめりめりと開き始めた。

 どぼっと血の塊が飛び出し、ふたりの下半身を濡らした。

 鈴がレイナの腸をつかみ、ずるずると引き出した。

 引き出しただけでは足りず、憎しみをこめてバラバラに引き千切る。

 更に空になった腹腔に右手を突っ込むと、あばら骨の間から心臓を探り当て、ものすごい力で握りしめてきた。

 万事休すだった。

 レイナは、全身の筋肉から力という力が抜けていくのを感じていた。

 鈴の首から手を離し、その顔を両手で挟んで眼を覗き込む。

「これで勝ったと思うな」

 親指の腹を鈴のまぶたに当て、ぎゅっと力を込める。

 ずぶりと嫌な感触がして、眼球が潰れ、血と透明な液体があふれ出す。

 鈴に心臓を握りつぶされる寸前、エレナはぽっかり空いた血まみれの眼窩に口をつけ、中に長い舌を突っ込んで鈴の脳を破壊することに成功した。

 鈴の身体が水母のように柔らかくなり、ぐったりとエレナの肩にかぶさった。

 その熱い身体を抱きしめ、エレナは夢中で鈴の脳を吸った。

 それは、まさしく”神の酒”の味だったー。
 
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