4 / 295
第1部 ヒバナ、オーバードライブ!
#2 収穫祭
しおりを挟む
「隠れろ」
青年が、低く、押し殺した声でささやいた。
ヒバナは、白い招き猫の像に向かって走り、その後ろに身を隠した。
殺人鬼が、青門の路地の入り口から、戻ってくるところだった。
両手で血まみれの死体を二体、ひきずっている。
怪物の後ろに、血の筋ができていた。
例の空間の裂け目のところまで行くと、死体を持ち上げ、無造作に中に投げ入れた。
更に、広場に転がっている死体を一体ずつ肩に担ぐと、同じように空間の裂け目の中へ次々に放り込んでいく。
何をやってるんだろう?
がたがた震えながら、ヒバナは思った。
これはただの通り魔ではない。
何か目的があって、人を殺しているのだ。
そんな気がしてならなかった。
殺人鬼が、7体目の死体を放り込もうと、こちらに肉厚の背中を向けたときだった。
ヒバナの反対側に身を潜めていた和装の青年が、動いた。
日本刀を腰だめに構え、飛ぶように怪物めがけて突進すると、刀ごと背中にぶつかった。
怪物がうめき、上体をねじって後ろを振り向いた。
刀の切っ先が胸から突き出している。
が、不思議なことに、一滴の血も流れていなかった。
怪物が両腕を振り上げる。
手の甲から、金属音とともに、例の長大な牛刀が伸びた。
青年が日本刀を抜こうとする。
だが、刃が筋肉にくわえ込まれてしまっているのか、刀はぴくりとも動かない。
その青年の首筋に、怪物が右の牛刀を振り下ろした。
眼をつぶる暇もなかった。
青年の首が、飛んだ。
青空に舞い上がり、放物線を描いて隣の民家の庭に飛び込んでいった。
怪物が、間髪を入れず、左の牛刀で下から青年の胴を突き上げる。
鈍い音がした。
首のない青年の胴体が、ヒバナの足元まで転がってきた。
ヒバナは悲鳴を上げた。
上げたくて上げたわけではない。
気がつくと、叫んでいたのだ。
怪物の動きが止まった。
フードの奥の赤い眼が、ヒバナのほうを見た。
うっ、見つかった!
亀の子のように、ヒバナは首をすくめた。
ずいぶん長い時間が過ぎた気がした。
が、やがて、怪物の視線が逸れた。
何事もなかったように、周りを見回している。
残った死体に目を留め、作業を再開した。
ヒバナは生まれて初めて、自分の存在感の薄さに感謝した。
またしても、見過ごされたのだ。
ここまでくると、もはや超能力といっていい。
怪物は、残り4、5体の死体を集めると、機械的に裂け目に放り込み、来たときと同じように、縁をまたいで最後に自分が中に入った。
怪物の巨体が見えなくなるのと同時に、裂け目も消え、元の風景が戻ってきた。
ふう。
ヒバナはため息をつき、その場にしゃがみこんだ。
ぼんやりとあたりを見回した。
死体の消えた広場。
赤いペンキをところかまわずぶちまけたように、血だまりがあちこちにできていた。
すぐそこに、首のない青年の体が、うつぶせに倒れている。
広場は血の海と化しているにもかかわらず、奇妙なことに、青年はきれいなままだ。
あの怪物同様、まったく血を流していないのである。
首の切断面も、なんだかつるっとした感じで、あまり気持ち悪くない。
ただ茫然と眺めていると、
突然、青年の背中あたりがもぞもぞと膨らみ始めた。
「いやあ、派手にやられちまったな」
中年男の声がした。
そして、青年の着物の襟元から、目の覚めるような全身緑色の生き物が這い出してきた。
体長15センチくらいの、大きなトカゲだった。
いや、白いところのないギョロっとした眼、ざらついた表皮の感じからして、トカゲというより、ペットショップでたまに見かけるカメレオンに違いない。
「あぶないところだったぜ。あと1センチ敵の刃が上に来てたら、オレもオシマイってとこだった」
長い尻尾を蚊取り線香のような形に巻くと、いきなりカメレオンがしゃべった。
そして、ギョロ目でヒバナを見た。
一目でヒバナの存在に気づいたのは、きょうはこのカメレオンが初めてだった。
「おまえ、変わってるな」
おびえるヒバナを見上げて、感心したような口調で、言う。
「忍術でも、使えるのか?」
ヒバナはぶるぶると首を横に振った。
通り魔の次は、しゃべるカメレオン。
もう、わけがわからなかった。
遠くからサイレンが近づいてきた。
「やべえな」
だんだん大きくなってくるパトカーと救急車のサイレンの音に反応して、カメレオンがつぶやいた。
「トロはやられちまったし、この姿じゃ目立ってかなわねえ。おい、娘、ちょいとおいらをかくまってくれねえか」
そう言うなり、本人の返事も聞かず、ヒバナの背中のリュックの中にもぐりこんでしまう。
あわただしい足音がして、周囲の路地の入り口に警官や救急隊員の姿が現れた。
「きみ、だいじょうぶか」
警官の一人がヒバナを助け起こす。
「ここにもひとり、倒れてるぞ。あれ? なんだ、これ、人形じゃないか」
青年の死体に手をかけようとして、救急隊員が驚いたように言った。
え? 人形?
救急車のほうに連れて行かれながら、ヒバナは思った。
あの人が人形って、それ、どういうこと?
青年が、低く、押し殺した声でささやいた。
ヒバナは、白い招き猫の像に向かって走り、その後ろに身を隠した。
殺人鬼が、青門の路地の入り口から、戻ってくるところだった。
両手で血まみれの死体を二体、ひきずっている。
怪物の後ろに、血の筋ができていた。
例の空間の裂け目のところまで行くと、死体を持ち上げ、無造作に中に投げ入れた。
更に、広場に転がっている死体を一体ずつ肩に担ぐと、同じように空間の裂け目の中へ次々に放り込んでいく。
何をやってるんだろう?
がたがた震えながら、ヒバナは思った。
これはただの通り魔ではない。
何か目的があって、人を殺しているのだ。
そんな気がしてならなかった。
殺人鬼が、7体目の死体を放り込もうと、こちらに肉厚の背中を向けたときだった。
ヒバナの反対側に身を潜めていた和装の青年が、動いた。
日本刀を腰だめに構え、飛ぶように怪物めがけて突進すると、刀ごと背中にぶつかった。
怪物がうめき、上体をねじって後ろを振り向いた。
刀の切っ先が胸から突き出している。
が、不思議なことに、一滴の血も流れていなかった。
怪物が両腕を振り上げる。
手の甲から、金属音とともに、例の長大な牛刀が伸びた。
青年が日本刀を抜こうとする。
だが、刃が筋肉にくわえ込まれてしまっているのか、刀はぴくりとも動かない。
その青年の首筋に、怪物が右の牛刀を振り下ろした。
眼をつぶる暇もなかった。
青年の首が、飛んだ。
青空に舞い上がり、放物線を描いて隣の民家の庭に飛び込んでいった。
怪物が、間髪を入れず、左の牛刀で下から青年の胴を突き上げる。
鈍い音がした。
首のない青年の胴体が、ヒバナの足元まで転がってきた。
ヒバナは悲鳴を上げた。
上げたくて上げたわけではない。
気がつくと、叫んでいたのだ。
怪物の動きが止まった。
フードの奥の赤い眼が、ヒバナのほうを見た。
うっ、見つかった!
亀の子のように、ヒバナは首をすくめた。
ずいぶん長い時間が過ぎた気がした。
が、やがて、怪物の視線が逸れた。
何事もなかったように、周りを見回している。
残った死体に目を留め、作業を再開した。
ヒバナは生まれて初めて、自分の存在感の薄さに感謝した。
またしても、見過ごされたのだ。
ここまでくると、もはや超能力といっていい。
怪物は、残り4、5体の死体を集めると、機械的に裂け目に放り込み、来たときと同じように、縁をまたいで最後に自分が中に入った。
怪物の巨体が見えなくなるのと同時に、裂け目も消え、元の風景が戻ってきた。
ふう。
ヒバナはため息をつき、その場にしゃがみこんだ。
ぼんやりとあたりを見回した。
死体の消えた広場。
赤いペンキをところかまわずぶちまけたように、血だまりがあちこちにできていた。
すぐそこに、首のない青年の体が、うつぶせに倒れている。
広場は血の海と化しているにもかかわらず、奇妙なことに、青年はきれいなままだ。
あの怪物同様、まったく血を流していないのである。
首の切断面も、なんだかつるっとした感じで、あまり気持ち悪くない。
ただ茫然と眺めていると、
突然、青年の背中あたりがもぞもぞと膨らみ始めた。
「いやあ、派手にやられちまったな」
中年男の声がした。
そして、青年の着物の襟元から、目の覚めるような全身緑色の生き物が這い出してきた。
体長15センチくらいの、大きなトカゲだった。
いや、白いところのないギョロっとした眼、ざらついた表皮の感じからして、トカゲというより、ペットショップでたまに見かけるカメレオンに違いない。
「あぶないところだったぜ。あと1センチ敵の刃が上に来てたら、オレもオシマイってとこだった」
長い尻尾を蚊取り線香のような形に巻くと、いきなりカメレオンがしゃべった。
そして、ギョロ目でヒバナを見た。
一目でヒバナの存在に気づいたのは、きょうはこのカメレオンが初めてだった。
「おまえ、変わってるな」
おびえるヒバナを見上げて、感心したような口調で、言う。
「忍術でも、使えるのか?」
ヒバナはぶるぶると首を横に振った。
通り魔の次は、しゃべるカメレオン。
もう、わけがわからなかった。
遠くからサイレンが近づいてきた。
「やべえな」
だんだん大きくなってくるパトカーと救急車のサイレンの音に反応して、カメレオンがつぶやいた。
「トロはやられちまったし、この姿じゃ目立ってかなわねえ。おい、娘、ちょいとおいらをかくまってくれねえか」
そう言うなり、本人の返事も聞かず、ヒバナの背中のリュックの中にもぐりこんでしまう。
あわただしい足音がして、周囲の路地の入り口に警官や救急隊員の姿が現れた。
「きみ、だいじょうぶか」
警官の一人がヒバナを助け起こす。
「ここにもひとり、倒れてるぞ。あれ? なんだ、これ、人形じゃないか」
青年の死体に手をかけようとして、救急隊員が驚いたように言った。
え? 人形?
救急車のほうに連れて行かれながら、ヒバナは思った。
あの人が人形って、それ、どういうこと?
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる