ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!

#2 襲撃

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 貢の車は18年落ちのスズキアルトである。
 走るのが不思議なくらいの骨董品だ。
 そのアルトがが官庁街にさしかかると、ビル群の間から白い煙がたちのぼっているのが見えてきた。
「本来、警察病院というのは」
 コインパークに車を入れながら、貢がいった。
「東京、神奈川、大阪、京都にしか存在しないことになっている」
 車が停まるのを待ちかねたように、ヒバナが助手席から降りる。
 うーんと大きく伸びをする。
 モスグリーンのTシャツに白のコットンパンツという軽装である。
 細身だが均整のとれた体と小ぶりだがきゅっと締まったヒップが、たちまち貢の目を釘づけにする。
「この愛知県の病院は、いわば『裏・警察病院』みたいなもので、存在自体が極秘扱いらしいんだよ」
「なのに襲撃されてしまった?」
「正体不明だけど、敵はよほどの者と見てよさそうだ」
 現場に近づくにつれ、警官の姿が目立ってきた。
 黄色と黒の非常線で通行止めができており、先に進めないようになっている。
「背中につかまって」
 ヒバナがいって、いきなりその場で腰をかがめた。
「おんぶしてあげるから」
 意味がわからなかったが、こんなチャンス、めったにない。
 貢は何の異議を唱えることもなく、むしろ嬉々としてヒバナの指示にしたがった。
 後ろから首筋に抱きついた。
 ヒバナの白く細いうなじが目の前にある。
 いい匂いがする。
 指先が胸の膨らみに触れた。
 下半身がヒバナの腰に密着している。
 ダメだ。
 このままだと、刺激が強すぎて、コーフンがヒバナに伝わってしまう・・・。
 そんなくだらないことが頭の隅をよぎった瞬間だった。
 ふいに、ヒバナが跳んだ。
 前方のビルに向かって、ジャンプしたのだ。
 6,7メートルを余裕で跳び越えた。
 ダン、とスニーカーの底を鳴らして屋上に着く。
 そのまま走った。
 助走をつけて、ビルの縁からもう一度跳躍する。
 その繰り返しで、着いた先は”現場”を見下ろす5階建ての建物の上だった。
「うわ」
 ヒバナにおんぶされたまま、貢はうめいた。
 眼下に、ビル群に周囲を囲まれた白亜の建物が見える。
 バースディケーキみたいに丸い形をした、背の低い建造物だ。
 その真ん中が、見るも無惨にひしゃげている。
 爆弾が落ちたというより・・・。
「なんだか、怪獣にでも踏まれたみたい」
 ヒバナが珍しく的確な表現をした。
 何台も救急車が止まっており、怪我人を隊員たちが建物から運び出している。
「あ、丸山さんだ」
 驚くほど視力の効くヒバナが一点を指差した。
 なるほど、救急車と救急車の間に張られた簡易テントの中に、見慣れた長髪の青年が見えた。
 頭を抱えて、パイプ椅子に坐っている。
 貢をおぶったまま、ヒバナがひらりとビルから飛び降りた。
 着地するとすぐに貢を下ろし、そのまま何食わぬ顔でテントに近づいていった。
「ヒバナ君、あ、貢も来たか」
 丸山時郎が顔を上げ、2人を見た。
 彫りの深い顔立ちの、いわゆるイケメンである。
 6回生だから、貢たちより5歳以上年上だった。
「店長は?」
 ヒバナが訊いた。
 丸山が、ゆるゆるとかぶりを振った。
「私が病院を出た直後だった。すさまじい音がして、建物の中央部がいきなり陥没した」
 疲れきった声だった。
「ちょうど、今岡さんの病室があったあたりだ」
「そんな・・・」
 ヒバナが絶句した。
 肩が震えている。
 泣いているのだ。
「でも、先輩、世界は消滅していないんです」
 貢がいった。
「これって、ひょっとして、まだ今岡さんが生きている証拠なんじゃ?」
「あの様子じゃ、無理だったろうな」
 崩壊した病院の建物を見やって、丸山がつぶやいた。
「今岡さんなら、さっき担架で運ばれていくのを見たよ。完全に、息がなかった」
 ヒバナの啜り泣きが激しくなる。
「じゃ、これはやっぱり、『多重人間原理』?」
「そう。多重というより、『複合的人間原理』だな。現代の『観測者』は彼ひとりではなかったんだ」
 よろよろと丸山が立ち上がる。
「どこへ行くんです?」
 貢が訊くと、
「私は曲がりなりにも次世代の『観測者候補』だ。いつ命を狙わるか、知れたものじゃない。しばらく、身を隠すことにするよ。その間は、貢、おまえが超常研の部長代理だ」
 別れの挨拶のつもりか、力なく右手を挙げる。
「そんなあ・・・。先輩までいなくなっちまったら、俺たちどうしたらいいか、わからないじゃないですか」
 丸山は答えなかった。
 よろめくような足取りで、警官たちの輪の中へと消えていく。
 いつまでも泣き止まないヒバナの肩に手を置き、貢は茫然と立ち竦んでいた。
 なんだか、砂漠の中に取り残された赤子にでもなったような、そんなひどく頼りない気分だった。
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