ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!

#4 錯誤

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「あれ」
 ナミが立ち止まった。
 森を抜けた、小高い丘の上である。
 秋らしく、木々の葉が赤や黄色に色づくなか、目の前には更地が広がっている。
「あたしたちの家、確かここだったよね?」
 振り返って、兄のナギに訊く。
「と思ったんだけど、自信ないなあ」
 限りなく金髪に近い茶髪を振って、ナギが答えた。
 那古野市は千種区の高級住宅街の一郭である。
 ナミのぼんやりした記憶だと、ここに三階建ての洒落た洋館が建っていたはずなのだ。
「記憶が混乱してるようだね」
 笑いを含んだ声で、白髪の少年がいった。
 呼んでもいないのに、勝手に2人についてきたのである。
「記憶?」
「前の世界の記憶の残滓が、覚醒を邪魔してるのさ」
「前の世界?」
「そう、リセットされる前の世界。まあ、そこではもう、君たちは死んじゃってたんだけどね」
「いったい何の話よ」
 ナミが声を尖らせたとき、
「あ、そうだよ。思い出した。僕らの家はここじゃないよ。同じ区内だけど、別の場所だ」
 だしぬけに、ナギがいった。
「ここからなら歩いていける。2人とも、ついておいで。案内するよ」
 自分の家に案内される、というのも妙な話だった。
 キツネにつままれたような思いで、ナミは仕方なく兄に続いて歩き出した。

 気象観測台を見上げる隣の丘の裾に、その洋館は位置していた。
 長い車寄せの道、時計塔。
 記憶通りの我が家である。
 玄関は分厚いオークの扉だった。
 鍵はかかっていなかった。
 扉を開けると、
「あら、2人ともきょうは早いじゃない」
 品のよさそうな女性が、ソファの陰から振り返った。
 細面の、銀縁眼鏡の美人である。
「ママ・・・?」
 ナミは驚いた。
 両親は、海外勤務でほとんど家にいないのではなかったのか。
 こんなところで、掃除機をかけているママを見るなんて、おそらく生まれて初めてだ・・・。
「部活はなかったの? あ、ごめんなさい、お友だちも一緒だったのね」
 後半はツクヨミに向けての言葉だった。
 白髪、赤目の少年を見て、少しびっくりしたような顔をする。
「よかったら食堂で待ってて。すぐにデザート、用意するから」
「いいよ。先にラボに用があるから」
 ナミはぶっきらぼうにいった。
 気味が悪いほどやさしくなった母親に、どう接していいか、わからなかったからだ。
「いやだ、帰ってくる早々、また実験? ほんとあなたは変わり者なんだから」
 母が苦笑する。
「学校の宿題があってさ」
 快活な声でナギが助け舟を出した。
「レポートの提出期限、あしたまでなんだよ」
 螺旋階段の下に、透明なシリンダーがある。
 地下に降りるエレベーターだ。
 降りた先が、ナミ専用のラボだった。
 3人でエレベーターに乗り込むと、ナミはツクヨミを睨んだ。
「ここに何があるか、なんであんたが知ってるの?」
 教室での初対面の挨拶のあと、ツクヨミがいったのである。
 君のラボにある、"あれ"を見せてほしい、と。
「ぼくは前の世界でも死んでいないから、しっかり記憶が残ってるんだよ。というより、リセットの瞬間、今まで見えなかったものも色々見えちゃってね」
 ドアが開く。
 中に一歩足を踏み入れたナミは、思わず息を呑んだ。
 なつかしい研究室の風景が目の前に広がっている。
 大学病院の手術室のような機能美を備えた、広々としたスペースだ。
 その中央に、異様なものが天井から宙吊りになっていた。
「これが、今度のぼくらの"武器"だ。もっとも、ごらんの通り、まだ未完成だがね」
 ツクヨミが淡々とした口調でいった。
「うは」
 ナギのうめき声が聞こえてきた。
「すごいな、これは」
 ナミも同感だった。
 でも、と思う。
 なぜこんなものが、ここにあるのだろう?
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