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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!
#14 弱点
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「ごめんなさいね、元はといえば、うちのおばあさんの夢の話なのに」
美月にそっくりの目をした女性が頭を下げた。
青沼家の居間である。
「なんだか、娘が無駄に騒ぎ立てちゃって」
頭を下げた和服の女性は、美月の母だった。
とがめるような視線を、傍らの美月に向ける。
「だって、おばあちゃんの予言は当たるんだよ。この前だって」
美月が不服そうにいった。
「公民館の火事、その前の夜に夢で見たって、当てちゃったじゃないの」
「そんなの偶然に決まってるでしょ」
母親がうんざりした顔をする。
「それで、おばあさまのお加減は、いかがなんですか?」
ヒバナが2人の間に割って入った。
さすが唯一人の社会人だけあって、このへんの呼吸は如才ない。
「それが、体には何の異常もないんですよ」
美月の母が苦笑まじりに答えた。
「お医者さんは、神経性のものだろうって」
「今は薬が効いてて寝てるから、起きるまでの間、みなさんには、酒造や神社を案内します」
美月がいって、腰を上げた。
「それがいいわ」
美月の母がうなずく。
青沼家は京都にでもありそうな典型的な町屋だった。
その縦に細長い建物の西隣が、酒造である。
大きな倉庫のような木造の建物の中に入ると、巨大な樽が並んでいるのが視界に入ってきた。
作業着姿の従業員たちが、樽の上に差し渡された板張りの通路の上に陣取って、長い櫂で樽の中をかき回していた。
濃厚な日本酒の匂いが鼻をつく。
長居をしたら、この匂いだけで酔っ払ってしまいそうだ。
「おお、美月」
頭上で作業をしていた男性の1人が、美月に向かって手を振った。
ヘルメットの下の顔は、柔和にほころんでいる。
「その人たちが、おまえのいってた探偵さんか?」
「おとうさん」
美月の顔に笑みが広がる。
「そうだよ。超常研の糸魚川さんと、ヒバナさん。つやちゃんは知ってるよね」
「おお、お通夜か。少しはきれいになったか?」
がははと笑う。
美月の隣でお通夜が赤くなる。
そういえば、お通夜と美月は高校時代の友人同士なのだ。
貢はお通夜の実家が岐阜だということを思い出した。
ここ犬山から岐阜は目と鼻の先である。
お互い、行き来があっても不思議はない。
「まあ、せいぜいがんばって、鬼をやっつけてくれや」
明るい声で言われた。
あんまり期待されてはいないようだが、かといって邪魔者扱いというわけでもないようだ。
「神社は、この裏です」
酒造を出ると、美月がいった。
なるほど、建物の裏はこんもりとした森になっていて、上へと続く石段が見える。
下から見上げると、登りきったところに、赤い鳥居が立っていた。
「おじいちゃんには、一応話してありますけど」
美月の表情が少し曇る。
「なにぶん気難しい老人なので、失礼なこというかもしれないけど、気を悪くしないでね」
「まあ、それは仕方ないよなあ」
貢は苦笑いした。
「だって俺ら、どうみてもただの野次馬だし」
「そんなこと・・・」
美月がいいかけたときである。
「あ」
ふいにお通夜が小さく叫んだ。
「ヒバナさん!」
見ると、ヒバナが真っ青な顔をして、石段の上にへたりこんでいた。
「な、なんだ? どうした?」
貢は驚いた。
こんな具合の悪そうなヒバナを見るのは、これが初めてだった。
真っ青な顔をして、額に玉の汗を浮かべている。
息が荒い。
「へへ、ちょ、ちょっと、酔っ払っちゃったみたい・・・」
弱々しく笑って、ヒバナがいった。
「あ、さっきの匂い?」
お通夜が訊く。
苦しそうにうなずくヒバナ。
なんということだ。
貢は愕然となった。
このスーパーヒロインの弱点が、お酒だったとは。
しかも、匂いを嗅いだだけでこのありさまなのだ。
以前の打ち上げのときも、居酒屋でヒバナは食べる専門だった気がする。
まずい。
貢は青ざめた。
美月にそっくりの目をした女性が頭を下げた。
青沼家の居間である。
「なんだか、娘が無駄に騒ぎ立てちゃって」
頭を下げた和服の女性は、美月の母だった。
とがめるような視線を、傍らの美月に向ける。
「だって、おばあちゃんの予言は当たるんだよ。この前だって」
美月が不服そうにいった。
「公民館の火事、その前の夜に夢で見たって、当てちゃったじゃないの」
「そんなの偶然に決まってるでしょ」
母親がうんざりした顔をする。
「それで、おばあさまのお加減は、いかがなんですか?」
ヒバナが2人の間に割って入った。
さすが唯一人の社会人だけあって、このへんの呼吸は如才ない。
「それが、体には何の異常もないんですよ」
美月の母が苦笑まじりに答えた。
「お医者さんは、神経性のものだろうって」
「今は薬が効いてて寝てるから、起きるまでの間、みなさんには、酒造や神社を案内します」
美月がいって、腰を上げた。
「それがいいわ」
美月の母がうなずく。
青沼家は京都にでもありそうな典型的な町屋だった。
その縦に細長い建物の西隣が、酒造である。
大きな倉庫のような木造の建物の中に入ると、巨大な樽が並んでいるのが視界に入ってきた。
作業着姿の従業員たちが、樽の上に差し渡された板張りの通路の上に陣取って、長い櫂で樽の中をかき回していた。
濃厚な日本酒の匂いが鼻をつく。
長居をしたら、この匂いだけで酔っ払ってしまいそうだ。
「おお、美月」
頭上で作業をしていた男性の1人が、美月に向かって手を振った。
ヘルメットの下の顔は、柔和にほころんでいる。
「その人たちが、おまえのいってた探偵さんか?」
「おとうさん」
美月の顔に笑みが広がる。
「そうだよ。超常研の糸魚川さんと、ヒバナさん。つやちゃんは知ってるよね」
「おお、お通夜か。少しはきれいになったか?」
がははと笑う。
美月の隣でお通夜が赤くなる。
そういえば、お通夜と美月は高校時代の友人同士なのだ。
貢はお通夜の実家が岐阜だということを思い出した。
ここ犬山から岐阜は目と鼻の先である。
お互い、行き来があっても不思議はない。
「まあ、せいぜいがんばって、鬼をやっつけてくれや」
明るい声で言われた。
あんまり期待されてはいないようだが、かといって邪魔者扱いというわけでもないようだ。
「神社は、この裏です」
酒造を出ると、美月がいった。
なるほど、建物の裏はこんもりとした森になっていて、上へと続く石段が見える。
下から見上げると、登りきったところに、赤い鳥居が立っていた。
「おじいちゃんには、一応話してありますけど」
美月の表情が少し曇る。
「なにぶん気難しい老人なので、失礼なこというかもしれないけど、気を悪くしないでね」
「まあ、それは仕方ないよなあ」
貢は苦笑いした。
「だって俺ら、どうみてもただの野次馬だし」
「そんなこと・・・」
美月がいいかけたときである。
「あ」
ふいにお通夜が小さく叫んだ。
「ヒバナさん!」
見ると、ヒバナが真っ青な顔をして、石段の上にへたりこんでいた。
「な、なんだ? どうした?」
貢は驚いた。
こんな具合の悪そうなヒバナを見るのは、これが初めてだった。
真っ青な顔をして、額に玉の汗を浮かべている。
息が荒い。
「へへ、ちょ、ちょっと、酔っ払っちゃったみたい・・・」
弱々しく笑って、ヒバナがいった。
「あ、さっきの匂い?」
お通夜が訊く。
苦しそうにうなずくヒバナ。
なんということだ。
貢は愕然となった。
このスーパーヒロインの弱点が、お酒だったとは。
しかも、匂いを嗅いだだけでこのありさまなのだ。
以前の打ち上げのときも、居酒屋でヒバナは食べる専門だった気がする。
まずい。
貢は青ざめた。
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