ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!

#43 鬼首

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 地面と岩盤の間の隙間は1mほどだった。
 よほど重いのだろう、岩盤を支えている二頭の鬼の貌には、東大寺南大門の金剛力士像さながらの、決死の形相が刻み込まれている。
「あと少し、頼むよ。僕らが出てくるまで」
 鬼たちにそう声をかけて、ツクヨミが中に入っていく。
 もし鬼が力尽きて蓋を落としてしまったら、と想像するとあまり気が進まなかったが、仕方なくナミも後に続いた。
 腰をかがめて岩盤の下をくぐると、足元は階段になっていた。
 先は、闇の底に消えていて、どれだけ続いているのか見当もつかなかった。
 ツクヨミが首から下げた大型懐中電灯をつける。
 ナミはおそるおそる下を覗いてみた。
 急勾配の石段は意外と短く、10mほど降りたところで終わっていた。
 そこからは横穴になっているらしい。
 黴臭い湿った臭いに混じって、なにやら生臭い臭気が空気にこもっている。
 ナミはセーターの袖に鼻を押しつけ、右手でツクヨミの腰の帯をつかみながら、そろそろと石段を降り始めた。
 底にたどり着くと、案の定、目の前に横穴の入口があった。
「あれだ」
 懐中電灯を掲げて、低い声でツクヨミがいった。
 光の輪の中に、異形が浮かび上がっていた。
 土を掘ってつくられた即席の祭壇。
 その奥に、巨大な顔がある。
「うそ」
 ナミはうめいた。
「ほんとにあったんだ。信じられない・・・」
 それが人間の頭部でないことは、ひと目でわかった。
 まず、頭に角が五本、生えている。
 額にユニコーンのそれのような長く鋭い角が1本、
 髪の生え際を取り囲むように、短い角が四本。
 そこだけ見れば、太古の鎧竜さながらだった。
 そして、もっと異様なのは、その眼の数である。
 まぶたを閉じてはいるが、それが十個以上もあるのだ。
「あの面構えは、言い伝え通りだね」
 ツクヨミが闇の中でくすくす笑う。
「酒呑童子は角が五本、目が十五個あったといわれてるんだ」
「噛みつかないでしょうね」
 ナミは立ち止まった。
 自分でも、声が震えているのがわかる。
 精神感応を試してみたが、首の思考を読むことはできなかった。
 何か、ブラックアウトしたテレビ画面のようなものに突き当たっただけだったのだ。
 ツクヨミが、腰に下げた布袋から大きなビニール袋を取り出した。
「手伝ってくれないか」
 ナミのほうを見て、いった。
「冗談でしょ」
 ナミがしりごみする。
「この袋の口を広げて持っててくれればいい。あとは僕がやるから」
「・・・しょうがないわね」
 しぶしぶそばに行き、袋を受け取った。
 生臭い臭いが強くなっている。
 この臭い、首がまだ生きている証拠だろうか、とナミは思う。
 ツクヨミが祭壇に両手を伸ばし、慎重に鬼の首を持ち上げた。
「うわ、予想以上に重いよ」
 腰が砕け、落としそうになる。
 力仕事にはまったく向いていないらしい。
 かといって、ナミには手伝う気などさらさらない。
 生まれつき、手を汚すのが大嫌いなのだ。
 相当な時間をかけて、ツクヨミがようやく首を袋の中に着地させた。
 ナミが袋の口を縛る。
「半分、持ってくれない?」
 袋に収まった首をへっぴり腰で持ち上げると、情けない声でツクヨミがいった。
「いや」
 ナミはにべもない。
「手伝ってくれたら、君に世界をあげる。姉さんを殺して、呪いを解くことができたら、僕の”根の片津国”をそっくり君にあげるよ」
「いらないわよ。あんな暗い所」
 ナミが肩をすくめて、首を振る。
「じゃ、オロチを復活させて、人間界を更地にできたら、その人間界をあげるってのは?」
「あたしはそんなちっぽけなこと、望んじゃいないの」
 シガレットケースを取り出し、一本を口にくわえ、ジッポのライターで火をつける。
「あたしはね、決めたの」
「決めたって、何を?」
「観測者の観測者になるの」
「観測者の、観測者?」
 ツクヨミが、鬼の首を抱えたまま、目を丸くする。
「いい? 観測者は確かに宇宙を創り、それを維持してるのかもしれないけど、この不完全さは何? それはたぶん、観測者を観測する者が不在だからじゃないかと思うわけ。あたしはそこを狙ってるのよ」
「つまり、神を超える神になる?」
「ま、そんなとこ」
「面白いな、君は」
 ツクヨミが楽しそうに笑った。
「ますます好きになったよ。ナミ、君といると本当に楽しい」
「好き? 楽しい? なにそれ」
 馬鹿にしたようにいいながら、ナミは頬が熱くなるのを感じていた。
 暗闇でよかった、と思う。
「とにかく、せめて懐中電灯だけでも持ってくれないかな。早くここを出ないと、鬼たちがもたないかもしれない。そうなったら最後、僕らはここに生き埋めだ。もっとも僕にはテレポート能力があるから、なんとかひとりでなら脱出できるんだけどね。でも、君と一緒は無理だな。転移先の情報を書き換えるのって、これでけっこう大変なんだよ」
「なにわけのわかんないこといってるのよ。貸しなさいよ」
 ナミはツクヨミから懐中電灯をひったくると、どんどん先に立って歩き始めた。
 潜在意識の底に、かつて根の国=黄泉の国に閉じ込められたときのトラウマが刻み込まれているからなのか、ナミはずっと前から暗い所が大嫌いなのだった。



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