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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!
#44 誤射
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「このへんだな」
カーナビを確認して、糸魚川貢はいった。
バイト代を奮発して、つい最近とりつけた最新機器である。
廃車寸前のアルトには不似合いだが、これだけ遠出が続くと、さすがに装備せざるを得なかったのだ。
緋美子もヒバナも空を飛べば車より速い。
が、目的地を空から探すのは容易ではないらしい。
その点、文明の利器、カーナビは便利なのだった。
緋美子と玉子がわざわざ狭苦しい貢のアルトに同乗してきたのは、それが理由である。
国道沿いに24時間営業のレストランが見えてきた。
その駐車場に車を乗り入れる。
無断駐車じゃないぞ、と心の中でつぶやく。
事が済んだら、ちゃんとここで朝飯を食べてやるから。
「あー、狭くて死ぬかと思ったぜ」
車のドアを足で蹴り飛ばすように開けると、外に転がり出るなり玉子がいった。
「んなことで死ぬかよ」
運転席から降りた貢がむっとする。
「ったく、口の減らないガキだな」
「ガキはおまえだろ?」
玉子が挑発するようにヌンチャクを構えた。
「ただのニンゲンのくせに、えらそーな口、きくなよな」
「んだと?」
貢ができもしない空手のポーズで応戦する。
「ちょっと、あんたたち」
後から降りてきた緋美子が、後ろから玉子のおかっぱ頭をぽんと叩いた。
「もう、時間がないんだから。私と玉ちゃんは空から現場に接近します。糸魚川さんは悪いけど、ここで待っててください」
「え? そんな」
貢が情けない顔になる。
「うははは、ざまーみろ」
玉子が勝ち誇ったように笑い出した。
「おまえが来ても足手まといになるだけなんだよ」
貢はしょんぼりとうなだれた。
悔しいが、確かに玉子の言う通りだった。
鬼童神社の一件でも、正直、貢は何の役にも立たなかったのである。
「詳しい場所を教えてもらえませんか。首塚はこのすぐ近くなんですよね」
「あそこの、角を、右に曲がったところ」
前方を指差して、力なく貢は答えた。
しょうがない。
コーヒーでも飲んでるとするか。
無断駐車にならないだけ、ましだろう。
そう、思い直すことにした。
「じゃ、行ってきます」
緋美子が微笑んだ。
天使のように美しく、魔女のように妖艶な微笑だった。
「ご武運を」
小声で、貢はいった。
5トントラック2台の間に入り、緋美子は変身した。
「いつでも魔法を撃てるように、詠唱を始めてて」
背中にしがみついている玉子に向かって、そう念を押す。
玉子の魔法は超強力である。
ところがひとつだけ、欠点があった。
詠唱時間が長いのだ。
詠唱を始めて魔法が作動するまでに、3分かかるのである。
ウルトラマンとは逆の意味で不便なのだった。
「風、土、火。雷、どれがいい?」
無邪気な口調で玉子が訊いた。
「雷で。麻痺効果もあるから」
即座に緋美子が答える。
いつか、オロチを足止めしたのも、玉子のイカヅチだったのである。
「おっしゃ」
玉子が呪文を唱え始めるのと同時に、トラックの上に飛び乗り、翼をいっぱいに広げた。
差し渡し5m以上ある、極彩色の猛禽類の翼だ。
脇に赤い弓を抱く。
古代ヤマトの神々の武器、アマテラスの弓である。
軽々と飛んだ。
あっという間に高度を上げる。
国道がすぐそばを通っているため、地上は思った以上に明るい。
国道から逸れた細い道の奥に、古い建物らしきものが見えてきた。
木々の緑と何本もの幟に囲まれた祠のような建造物である。
その前に、異形の生き物が二体、立っていた。
遠目にも、人間でないことがわかる。
鬼だ。
緋美子は弓を構え、耳の上から2本、羽根を抜いて番えた。
狙いを定めて、撃つ。
炎の矢が夜の空気を切り裂いて、飛ぶ。
二体の鬼が、ほとんど同時に首を射抜かれて、転倒した。
その陰から、ふたつの人影が現れた。
一瞬でわかった。
ツクヨミと、ナミだ。
ツクヨミは古風な着物を来て、馬鹿でかいビニール袋を抱えている。
あの中に鬼の首が入っているのだろう。
隣のナミは、薄いピンクのセーターにジーンズといったラフなスタイルだ。
ふたりがこちらを見上げた。
ツクヨミが驚きに目を見開く。
が、ナミは違った。
挑むように、睨んできた。
「玉ちゃん、魔法!」
緋美子は叫んだ。
「うりゃ」
玉子が両手を天に向けて差し上げる。
だしぬけに、頭上に黒雲が生まれた。
雷鳴が轟く。
バシッ、バシッとスパークが走った。
そのたびにストロボに照らされたように周囲が明るくなる。
「行けえ!」
玉子が咆哮した。
特大サイズの稲妻が、天から降ってきた。
え?
ふと、違和感を覚えた。
角度が、違う。
そう気づいた次の瞬間、すさましい電撃が緋美子の体を貫いた。
翼が燃えあがる。
「あちいっ!」
背中で玉子が悲鳴を上げた。
緋美子はパニックに陥った。
体がしびれて動かない。
指一本、動かせないのだ。
たまらず、体がぐらりと傾いた。
緋美子は石つぶてのように、落ちた。
熱い。
体が燃える。
もう、だめ・・・。
ヒバナ・・・どこ?
半ば気を失っていた。
あろうことか、玉子の黒魔法が、緋美子を直撃したのだった。
カーナビを確認して、糸魚川貢はいった。
バイト代を奮発して、つい最近とりつけた最新機器である。
廃車寸前のアルトには不似合いだが、これだけ遠出が続くと、さすがに装備せざるを得なかったのだ。
緋美子もヒバナも空を飛べば車より速い。
が、目的地を空から探すのは容易ではないらしい。
その点、文明の利器、カーナビは便利なのだった。
緋美子と玉子がわざわざ狭苦しい貢のアルトに同乗してきたのは、それが理由である。
国道沿いに24時間営業のレストランが見えてきた。
その駐車場に車を乗り入れる。
無断駐車じゃないぞ、と心の中でつぶやく。
事が済んだら、ちゃんとここで朝飯を食べてやるから。
「あー、狭くて死ぬかと思ったぜ」
車のドアを足で蹴り飛ばすように開けると、外に転がり出るなり玉子がいった。
「んなことで死ぬかよ」
運転席から降りた貢がむっとする。
「ったく、口の減らないガキだな」
「ガキはおまえだろ?」
玉子が挑発するようにヌンチャクを構えた。
「ただのニンゲンのくせに、えらそーな口、きくなよな」
「んだと?」
貢ができもしない空手のポーズで応戦する。
「ちょっと、あんたたち」
後から降りてきた緋美子が、後ろから玉子のおかっぱ頭をぽんと叩いた。
「もう、時間がないんだから。私と玉ちゃんは空から現場に接近します。糸魚川さんは悪いけど、ここで待っててください」
「え? そんな」
貢が情けない顔になる。
「うははは、ざまーみろ」
玉子が勝ち誇ったように笑い出した。
「おまえが来ても足手まといになるだけなんだよ」
貢はしょんぼりとうなだれた。
悔しいが、確かに玉子の言う通りだった。
鬼童神社の一件でも、正直、貢は何の役にも立たなかったのである。
「詳しい場所を教えてもらえませんか。首塚はこのすぐ近くなんですよね」
「あそこの、角を、右に曲がったところ」
前方を指差して、力なく貢は答えた。
しょうがない。
コーヒーでも飲んでるとするか。
無断駐車にならないだけ、ましだろう。
そう、思い直すことにした。
「じゃ、行ってきます」
緋美子が微笑んだ。
天使のように美しく、魔女のように妖艶な微笑だった。
「ご武運を」
小声で、貢はいった。
5トントラック2台の間に入り、緋美子は変身した。
「いつでも魔法を撃てるように、詠唱を始めてて」
背中にしがみついている玉子に向かって、そう念を押す。
玉子の魔法は超強力である。
ところがひとつだけ、欠点があった。
詠唱時間が長いのだ。
詠唱を始めて魔法が作動するまでに、3分かかるのである。
ウルトラマンとは逆の意味で不便なのだった。
「風、土、火。雷、どれがいい?」
無邪気な口調で玉子が訊いた。
「雷で。麻痺効果もあるから」
即座に緋美子が答える。
いつか、オロチを足止めしたのも、玉子のイカヅチだったのである。
「おっしゃ」
玉子が呪文を唱え始めるのと同時に、トラックの上に飛び乗り、翼をいっぱいに広げた。
差し渡し5m以上ある、極彩色の猛禽類の翼だ。
脇に赤い弓を抱く。
古代ヤマトの神々の武器、アマテラスの弓である。
軽々と飛んだ。
あっという間に高度を上げる。
国道がすぐそばを通っているため、地上は思った以上に明るい。
国道から逸れた細い道の奥に、古い建物らしきものが見えてきた。
木々の緑と何本もの幟に囲まれた祠のような建造物である。
その前に、異形の生き物が二体、立っていた。
遠目にも、人間でないことがわかる。
鬼だ。
緋美子は弓を構え、耳の上から2本、羽根を抜いて番えた。
狙いを定めて、撃つ。
炎の矢が夜の空気を切り裂いて、飛ぶ。
二体の鬼が、ほとんど同時に首を射抜かれて、転倒した。
その陰から、ふたつの人影が現れた。
一瞬でわかった。
ツクヨミと、ナミだ。
ツクヨミは古風な着物を来て、馬鹿でかいビニール袋を抱えている。
あの中に鬼の首が入っているのだろう。
隣のナミは、薄いピンクのセーターにジーンズといったラフなスタイルだ。
ふたりがこちらを見上げた。
ツクヨミが驚きに目を見開く。
が、ナミは違った。
挑むように、睨んできた。
「玉ちゃん、魔法!」
緋美子は叫んだ。
「うりゃ」
玉子が両手を天に向けて差し上げる。
だしぬけに、頭上に黒雲が生まれた。
雷鳴が轟く。
バシッ、バシッとスパークが走った。
そのたびにストロボに照らされたように周囲が明るくなる。
「行けえ!」
玉子が咆哮した。
特大サイズの稲妻が、天から降ってきた。
え?
ふと、違和感を覚えた。
角度が、違う。
そう気づいた次の瞬間、すさましい電撃が緋美子の体を貫いた。
翼が燃えあがる。
「あちいっ!」
背中で玉子が悲鳴を上げた。
緋美子はパニックに陥った。
体がしびれて動かない。
指一本、動かせないのだ。
たまらず、体がぐらりと傾いた。
緋美子は石つぶてのように、落ちた。
熱い。
体が燃える。
もう、だめ・・・。
ヒバナ・・・どこ?
半ば気を失っていた。
あろうことか、玉子の黒魔法が、緋美子を直撃したのだった。
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