ヒバナ、オーバードライブ DX!

戸影絵麻

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第9部 ヒバナ、アンブロークンボディ!

#52 玄武

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「ち、まずいのに見つかった。とりあえず、ひとり送るから、すぐに童子に食わせてくれ」
 耳の中の勾玉からツクヨミの声がした。
 牛鬼を送り込んでその場を立ち去ろうとしたナミは、仕方なく足を止めた。
 振り返ると、盤古がつくった"裂け目”の向こうは、まさに戦いの真っ最中だった。
 背中に亀の甲羅のような盾を背負った巨人が、牛鬼の猛攻を太い左腕一本で食い止めている。
 その下をかいくぐるようにして、セーラー服の少女が飛び出してきた。
 悲鳴を上げながら"裂け目"通り抜けてくると、氷の大地に足を滑らせてナミの目の前に転がった。
「童子、エサが来たよ」
 ナミが教えるまでもなかった。
 いつのまにか背後に酒呑童子が立っていた。
「恩ニ着ル」
 うなずくなり、少女の襟首をつかんで持ち上げた。
 いきなり腕を引きちぎる。
 少女が絶叫した。
 血しぶきを上げる白い腕をばりばり噛み砕くと、今度は足を引き抜いた。
 2階建てのビルほどもある酒呑童子を、ナミは見上げた。
 巨大な口から、血まみれの少女の下半身が飛び出している。
 ずるりと音を立てて飲み込んだ。
 ばりばりと骨を噛み砕く嫌な音が、また響いた。
「ウマイナ」
 手の甲で口をぬぐって、いった。
「闘技場に、もっと食べ応えのあるエサを用意してあるよ」
「女カ」
 ナミはうなずいた。
「うまくいけば、とびっきりの美女を2人、腹いっぱい食べられる」
「本当カ」
 鬼の十五個の眼が、そろってぎらりと輝いた。
「あの裂け目をくぐれば、闘技場」
 ナミは少しはなれたところに浮遊して、もうひとつの通路を作っている盤古のほうを指差した。
「あたしはもう少しやることがあるから、あんた、先に行っててくれる?」
「了解シタ」
 酒呑童子が闘技場への通路に向かうのを見届けると、ナミは左手の氷の壁に開いた穴に向かって、大声でいった。
「土蜘蛛、羅刹、出動準備!」

 玄武の腕輪を使った明日香は、身長4m、体重300キロの巨人に変貌していた。
 左手で牛鬼の角を握り、その突進を食い止めている。
 牛鬼。
 それは、見るからに醜い化け物だった。
 名前の通り、牛の体に鬼の頭が生えている。
 四本の足は内側に鉤型に曲がった節足動物のもので、先端に鋭い爪がついている。
 が、しょせん、玄武に変身した明日香の敵ではなかった。
 右手で背中の甲羅をはずし、頭上に振り上げる。
 盾にもなるその甲羅は、縁が鋭く磨かれ、切れ味のいい刃物のようになっていた。
 それを、ギロチンの要領で、怪物の首に振り下ろした。
 少し硬めのボンレスハムを切る感触に似ていた。
 途中で硬質のものに当たった。
 脊椎に違いなかった。
 その脊椎をぶちきると、あとは楽だった。
 するっと刃が通り、どっと血がしぶいた。
 ごろんと重い音がして、一抱えほどもある牛鬼の頭部が地面に落下した。
 頭を失った牛鬼の巨体が、ぐにゃりとその場に崩れ落ちた。
 後に、ツクヨミが残った。
 身を翻して"裂け目"に飛び込もうとしたツクヨミの左腕を、すかさず明日香はつかんだ。
「ナミ、次を頼む!」
 ツクヨミが叫んだ。
 裂け目から新たな怪物が現れようとしていた。
 毛むくじゃらの大蜘蛛である。
 2トントラックほどもある、タランチュラだ。
 それだけではなかった。
 蜘蛛の背中を跳び越えて、真っ黒な生き物が飛び出してきた。
 長い髪をなびかせた、やせて背の高い鬼だった。
 狂ったような目をしている。
 気味の悪い笑い声を立てて、地面に降り立った。
 明日香はツクヨミを背後に放り投げた。
 右腕を後ろに引き、力をためる。
 大蜘蛛が突進してきた。
 その顔面に、思いっきり拳を叩き込む、
 ぐしゃりとスイカのつぶれるような音がした。
 白い体液を噴き出して、蜘蛛が痙攣し始める。
 と、頭上から、もう一匹が飛びかってきた。
 明日香はとっさに甲羅を放り投げた。
 化け物の牙が明日香の首筋に迫った瞬間、
 ブーメランのように弧を描いてもどってきた甲羅が、その細い胴をまっぷたつに両断した。
「ちょっとブッチャー、あたいの分もとっといてよ」
 ふいに聞きなれた声がして、明日香は振り向いた。
 遠巻きにした野次馬をかき分けて、白いムク犬みたいな生き物が姿を現した。
 二本足で立ち、前足でヌンチャクを構えている。
「玉子か」
 明日香の眼が柔和な表情を取り戻した。
「ブッチャー、ひとりですごいね。ご苦労さま」
 その後ろから現れたのは、真っ白な戦闘服に身を包んだ緋美子である。
 -だれ、あの子?
 -すっげー、かわいいじゃん。
  野次馬の中から、歓声が上がった。
 ーこれから売り出すアイドル?
 -ってことは、これ、やっぱアトラクションじゃね? 
 野次馬の間にどよめきが広がっていく。
 その中に、ひずみと、超常研のふたりの姿もあった。

「ナミ、茨城童子は?」
 ツクヨミの声がした。
 珍しく、冷静さを欠いている。
「どこに埋まってるかわかんなかったから、魔物はこれで全部」
 ナミは煙草を吸いながら、裂け目の向こうを観察している。
 魔物が弱すぎるのか、あのでかぶつが強すぎるのか、あまりにもあっけない戦いの終焉だった。
 あれはたぶん、玄武の神獣使いだ、と思う。
 あの頑丈な体、盾にも武器にもなる甲羅。
 強いはずである。
「仕方ない、ナミ、君がこっちに来てくれないか」
 ツクヨミが懇願するように、いった。
「やだよ」
 ナミはあとじさった。
 なぜあんな衆人環視の中に出て行かねばないのだ。
「僕がそっちに戻るまでの、時間を稼いでくれるだけでいい」
「自分でやりなよ」
 そっけなく、ナミはいった。
「ブッチャーだけじゃない。玉子と、ねえさんもいる」
 ツクヨミは明らかに動揺しているようだった。
 必死の思いが勾玉を通して伝わってくる。
「僕だけじゃ、とても逃げ切れない」
「しょうがないわね」
 ナミはため息をついた。
 あまり目立つのは好きではない。
 だが、ここでツクヨミが敵の手に落ちるのは、得策ではなかった。
 計画を次に進めるには、自分が出向くしかない。
 酒呑童子は闘技場に送り込んだ。
 となれば、あと一息なのだ。
 コートのポケットからスマホを出す。
 スマホのケースについている鏡を覗き、髪型を整える。
 煙草を地面に捨て、スニーカーのつま先でにじり潰した。
「5分だけだよ」
 リップを塗り直しながら、ナミはいった。
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