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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!
#20 跪いて脚をお舐め①
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あの日、海底のコントロールルームから、最上階の広間に戻ると、
「じゃ、そういうことで。腕輪奪還の目処がついたら、すぐに連絡してちょうだい」
広間の奥の扉に手をかけて、麗奈はいったものだった。
そばに、いつのまにかあの水島と名乗った青年が控えていて、潤んだ目で女主人を見つめていた。
「もう、帰っていいの?」
ナギが訊くと、
「ええ。でも、今度来るときは、腕輪をお土産にお願いね」
妖艶に微笑んで、麗奈は答えた。
「あのふたり、怪しい」
再びエレベーターで下に下りながら、ナミがつぶやいた。
「恋人同士ってこと? それはありえないと思うな。彼女ならもっといい男、選び放題だろうし」
ナギが否定した。
「そんな対等な関係じゃなくてさ」
ナミが鼻の頭に不愉快そうに皺を寄せた。
「沼正三的っていうか、『家畜人ヤプー』的っていうか」
「ああ、それならわかる気がする」
ナギがうなずいた。
「要はアブノーマルってことだね。美人って、そういう一面があるのかも」
「麗奈が特別ヘンタイなんだよ。ここはきっと、アブノーマル・ヘブンなんだ」
アブノーマル・ヘブンかあ。
そんなやりとりをぼんやりと思い出していると、ノックせずにドアを開けていきなりナミが入ってきた。
「思いついたよ。腕輪奪還計画」
「入るときはノックくらいしてよって、いつもいってるじゃないか」
ナギの抗議も空しく、ナミはソファにどっかりと腰を据えると、トレーナーのポケットから、おもむろにシガレットケースを取り出した。
「また煙草? ここ、禁煙だっていってるのに」
「うるさいわね。少しは黙りなさいよ」
妹の癖に、いつもナミは強い。
能力に差がありすぎるのだから、ある程度は仕方ないと諦めているのだが、"家畜人"とは実は自分のことなのではないかと、ナギは時々思う。
「ナギ、あんた、子どもにもてるでしょ」
極細フレームの銀縁眼鏡を光らせて、何の前置きもなく、唐突にナミがいった。
「幼稚園児や小学校低学年の女子に、大人気だったよね」
「まあね」
ナギは部活のほかに、幼児相手のボランティアをやっている。
性にあっているからなのか、これだけはリセット前も今も変わっていない。
今回の世界リセットのあとも、気がつくとボランティア団体から次のイベントの案内が届いていた。
幼稚園の学芸会でゲストとしてヒーローショーを行うことになったから、怪人の役をぜひ頼む、という依頼である。
「でも、それとこれと、どういう関係が?」
「腕輪はたぶん、ヒバナたちの本拠地、極楽湯にあると思うの。でも、あそこのまわりには常世の結界が張られてるから、外部の者は簡単には入れない」
「ナミが得意のマインドコントロールで、全員を操ればいいじゃないか」
「緋美子がいたら無理だし、第一、あの連中は普通の人間に比べて精神がタフだから、支配下に置くの、けっこう骨が折れるんだよ。全員いっぺんだと、五分が限界」
「なるほど。途中でコントロールが解けたりしたら、目も当てられないね」
「それこそフルボッコまちがいなし」
「じゃ、尚更、非力な僕ではどうしようもないじゃないか」
「それが、そうでもない」
ナミが腕を組んで、ナギを見つめた。
「緋美子に妹がいたの、覚えてる?」
「うん。安奈ちゃんだろ」
いつだったか。
双子がまだ緋美子と同じ曙高校の生徒だったとき、文化祭に遊びに来た安奈と、ナギは遊んだことがあった。
根の国のこととか、禍津神のことはあまり記憶にないのに、なぜかそんなたわいのないことはよく覚えている。
「あの子を使うのよ」
「えー、だって安奈ちゃん、確か六歳くらいだったぜ。そんな小さい子に、何ができるんだい?」
「極楽湯の主人は、源造っていう、人間国宝級の爺さまなんだけど」
ナミがうまそうに煙草をふかした。
あわてて窓を開けに走るナギ。
「だいたいにおいて、爺さまは孫みたいな小さい子にはメロメロなものでしょ。そこを狙うの」
「メロメロ? それって死語じゃない?」
「男の癖に細かいわね」
ナミが睨んできた。
「つまり、僕が安奈ちゃんを唆して、爺さんから腕輪を盗ませるってこと?」
「わかりやすくいうと、そうね」
「ナミは何するの?」
「何にも」
「はあ?」
「これはナギ、あなたに与えられた使命なの。あたしには、何十人もの若い女を集めて、必要数の心臓を確保するっていう大事な任務があるんだから、腕輪の件はあんたがやりなさいよ」
そういえばそうだった。
『天国への階段』の信者は別として、足らない分の女を島の住人から補充するには、ナミのマインドコントロール能力がどうしても必要なのだ。
クトゥルーへの貢物、10代から20代の女性の心臓99個の調達である。
それについては、準備が出来次第、連絡する、と麗奈はいっていた。
腕輪奪還→ダゴン復活→心臓調達→ルルイエ浮上、というのが、麗奈の教えてくれた計画だった。
「まあ、やってもいいけど、でも、僕、ときどき思うんだよね」
「何を?」
「どうして僕ら、こんな面倒くさいこと、しなきゃならないのかなあ、って。別に、ルルイエを浮上させて、世界を破滅させなくたっていいじゃないか。普通の高校生として生活するの、充分に楽しいんだけど」
ポッキーを齧りながら、ナギはいった。
これはいつも思っていることである。
この前の世界でも、八岐大蛇復活の役目を任されたのだったが、苦痛でならなかった。
「あんたって、ほんとに向上心ないよね」
ナミが大げさにため息をつく。
「小市民的っていうか、草食系っていうか」
「小市民? それも死語だと思うよ」
「うるさいわね。だいたい、こんな世界のどこが快適なのよ。毎日のようにテロは起こるわ、空爆はやるわ、利権がらみで原発政策はとめられないわ、貧富の差は拡大する一方で、子どもの6人にひとりは貧困家庭で、ほんの数パーセントのずるいやつらだけがいい思いして・・・。ったく、ニュース見てるだけで腹が立ってくるじゃない」
「ナミは政治家になるべきだね」
「そんなまだるっこしいこと、やってられないわよ」
「じゃ、世界を壊して、どんな世界をつくりたいの?」
「明鏡止水みたいな、そうね。いってみれば、バカのいない世界」
「ふうん・・・バカのいない世界か」
そこでナギは、どきっとしたように、双子の妹を見た。
「それってもしかして、僕も失格ってこと?」
非情にも、ナミは答えなかった。
「じゃ、そういうことで。腕輪奪還の目処がついたら、すぐに連絡してちょうだい」
広間の奥の扉に手をかけて、麗奈はいったものだった。
そばに、いつのまにかあの水島と名乗った青年が控えていて、潤んだ目で女主人を見つめていた。
「もう、帰っていいの?」
ナギが訊くと、
「ええ。でも、今度来るときは、腕輪をお土産にお願いね」
妖艶に微笑んで、麗奈は答えた。
「あのふたり、怪しい」
再びエレベーターで下に下りながら、ナミがつぶやいた。
「恋人同士ってこと? それはありえないと思うな。彼女ならもっといい男、選び放題だろうし」
ナギが否定した。
「そんな対等な関係じゃなくてさ」
ナミが鼻の頭に不愉快そうに皺を寄せた。
「沼正三的っていうか、『家畜人ヤプー』的っていうか」
「ああ、それならわかる気がする」
ナギがうなずいた。
「要はアブノーマルってことだね。美人って、そういう一面があるのかも」
「麗奈が特別ヘンタイなんだよ。ここはきっと、アブノーマル・ヘブンなんだ」
アブノーマル・ヘブンかあ。
そんなやりとりをぼんやりと思い出していると、ノックせずにドアを開けていきなりナミが入ってきた。
「思いついたよ。腕輪奪還計画」
「入るときはノックくらいしてよって、いつもいってるじゃないか」
ナギの抗議も空しく、ナミはソファにどっかりと腰を据えると、トレーナーのポケットから、おもむろにシガレットケースを取り出した。
「また煙草? ここ、禁煙だっていってるのに」
「うるさいわね。少しは黙りなさいよ」
妹の癖に、いつもナミは強い。
能力に差がありすぎるのだから、ある程度は仕方ないと諦めているのだが、"家畜人"とは実は自分のことなのではないかと、ナギは時々思う。
「ナギ、あんた、子どもにもてるでしょ」
極細フレームの銀縁眼鏡を光らせて、何の前置きもなく、唐突にナミがいった。
「幼稚園児や小学校低学年の女子に、大人気だったよね」
「まあね」
ナギは部活のほかに、幼児相手のボランティアをやっている。
性にあっているからなのか、これだけはリセット前も今も変わっていない。
今回の世界リセットのあとも、気がつくとボランティア団体から次のイベントの案内が届いていた。
幼稚園の学芸会でゲストとしてヒーローショーを行うことになったから、怪人の役をぜひ頼む、という依頼である。
「でも、それとこれと、どういう関係が?」
「腕輪はたぶん、ヒバナたちの本拠地、極楽湯にあると思うの。でも、あそこのまわりには常世の結界が張られてるから、外部の者は簡単には入れない」
「ナミが得意のマインドコントロールで、全員を操ればいいじゃないか」
「緋美子がいたら無理だし、第一、あの連中は普通の人間に比べて精神がタフだから、支配下に置くの、けっこう骨が折れるんだよ。全員いっぺんだと、五分が限界」
「なるほど。途中でコントロールが解けたりしたら、目も当てられないね」
「それこそフルボッコまちがいなし」
「じゃ、尚更、非力な僕ではどうしようもないじゃないか」
「それが、そうでもない」
ナミが腕を組んで、ナギを見つめた。
「緋美子に妹がいたの、覚えてる?」
「うん。安奈ちゃんだろ」
いつだったか。
双子がまだ緋美子と同じ曙高校の生徒だったとき、文化祭に遊びに来た安奈と、ナギは遊んだことがあった。
根の国のこととか、禍津神のことはあまり記憶にないのに、なぜかそんなたわいのないことはよく覚えている。
「あの子を使うのよ」
「えー、だって安奈ちゃん、確か六歳くらいだったぜ。そんな小さい子に、何ができるんだい?」
「極楽湯の主人は、源造っていう、人間国宝級の爺さまなんだけど」
ナミがうまそうに煙草をふかした。
あわてて窓を開けに走るナギ。
「だいたいにおいて、爺さまは孫みたいな小さい子にはメロメロなものでしょ。そこを狙うの」
「メロメロ? それって死語じゃない?」
「男の癖に細かいわね」
ナミが睨んできた。
「つまり、僕が安奈ちゃんを唆して、爺さんから腕輪を盗ませるってこと?」
「わかりやすくいうと、そうね」
「ナミは何するの?」
「何にも」
「はあ?」
「これはナギ、あなたに与えられた使命なの。あたしには、何十人もの若い女を集めて、必要数の心臓を確保するっていう大事な任務があるんだから、腕輪の件はあんたがやりなさいよ」
そういえばそうだった。
『天国への階段』の信者は別として、足らない分の女を島の住人から補充するには、ナミのマインドコントロール能力がどうしても必要なのだ。
クトゥルーへの貢物、10代から20代の女性の心臓99個の調達である。
それについては、準備が出来次第、連絡する、と麗奈はいっていた。
腕輪奪還→ダゴン復活→心臓調達→ルルイエ浮上、というのが、麗奈の教えてくれた計画だった。
「まあ、やってもいいけど、でも、僕、ときどき思うんだよね」
「何を?」
「どうして僕ら、こんな面倒くさいこと、しなきゃならないのかなあ、って。別に、ルルイエを浮上させて、世界を破滅させなくたっていいじゃないか。普通の高校生として生活するの、充分に楽しいんだけど」
ポッキーを齧りながら、ナギはいった。
これはいつも思っていることである。
この前の世界でも、八岐大蛇復活の役目を任されたのだったが、苦痛でならなかった。
「あんたって、ほんとに向上心ないよね」
ナミが大げさにため息をつく。
「小市民的っていうか、草食系っていうか」
「小市民? それも死語だと思うよ」
「うるさいわね。だいたい、こんな世界のどこが快適なのよ。毎日のようにテロは起こるわ、空爆はやるわ、利権がらみで原発政策はとめられないわ、貧富の差は拡大する一方で、子どもの6人にひとりは貧困家庭で、ほんの数パーセントのずるいやつらだけがいい思いして・・・。ったく、ニュース見てるだけで腹が立ってくるじゃない」
「ナミは政治家になるべきだね」
「そんなまだるっこしいこと、やってられないわよ」
「じゃ、世界を壊して、どんな世界をつくりたいの?」
「明鏡止水みたいな、そうね。いってみれば、バカのいない世界」
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