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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!

#42 魔界の誕生

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 三河湾をドーム状に多い尽くした灰色の霧は、12月に入ってもいっこうに消えようとしなかった。
 それどころか、その霧は徐々に範囲を広げているらしく、今少しのところで知多、渥美の両半島に届きそうになっていた。
 自衛隊の船舶やヘリコプターが情報収集に当たってはいたが、三河湾一帯に浮かぶ島々との通信は一切途絶し、霧の中がどんな状態になっているかは、外部からは全く窺い知ることができなかった。
 湾が謎の霧に閉ざされる直前に脱出に成功した数名の漁師や観光客の話によると、湾の中心部に突如として新たな島のようなものが隆起し、そこから霧が噴き出しているとのことだった。
 もっとも、彼らの談話は妄想に近い内容のものが多く、中には、霧に触れた人間の多くは発狂し、お互い殺しあった挙句、死体を食べている、とありえないことを述べる者まで出る始末だった。

 が、霧の中で何か尋常でない事態が起こっていることは疑いを入れなかった。
 その証拠に、霧が出始めた直後、中に入った者たちは未だに戻ってこないのだった。
 自衛隊員、レスキュー隊員、警察及びマスコミ関係者など、多くの者が連絡を絶ち、霧のベールの向こうに消息を断ってしまっていた。
 政府は事態を重く見、国会で三河湾を封鎖する決議が承認されると、2つの半島の先端に自衛隊と機動隊を配備して、湾への交通を完全に遮断した。
 そのニュースは世界中の注目を集め、各機関の研究者たちが続々と日本に集まりつつあった。

 そんな状況の中で12月は暮れを迎え、岬ヒバナたちも久しぶりに全員、ベースキャンプである極楽湯に顔をそろえたのだった。
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