夢世界ウォーキング

戸影絵麻

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②”本部”へ

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 産業廃棄物や瓦礫の山を、登ったり遠回りしたり。

 足が痛くなるほどの難行苦行が続いた。

 ヤバいヤバい。

 歩きながらつぶやいた。

 どう考えても間に合わない。

 ひょっとしてもう、授業開始時刻の2時半を過ぎてるんじゃ?

 けれどこわくて時計を見る気になんてならなかった。

 とにかく今は”本部”にたどりつくことだけを考えよう。

 でー。

 どれだけ時間が経ったのか。

 ふと我に返ると、そこは”本部”の二階で、書庫の前だった。

 フロアには誰もおらず、それどころか、周りは妙に雑然としていて、埃っぽい。

 これじゃまんま打ち捨てられた廃ビルじゃん!

 そんなことを思いながら、目当ての教材を探す。

 なのに書棚にあるのは意味不明の紙束ばかりで、それらしきものは見当たらない。

 探しに探してようやく見つけたのは、フロアの隅に放置された段ボール箱の中だった。

「あったあった」

 大喜びで手に取って、がっくりきた。 

 見るからに、版が古そうなのだ。

 奥付を見ると、1976年になっていた。

 うーん。

 悩む。

 果たしてこれ、使い物になるだろうか。

 その疑念が、強い。

 科学の進歩は著しい。

 1976年と現在との間に、”電流”分野で何か新たな発見があったとしても、不思議じゃない。

 例えば、オームの法則をしのぐ何かの物理法則が見つかったとか、あるいは、電流や電圧の単位が変わったとか。

 悩み抜いた末、一応持っていくことにした。

 瓦礫の中をここまで歩いてきたのである。

 手ぶらで引き上げるのも癪だった。
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