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冥途からの使者②
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何?
何が光ってるの?
正直、逃げ出したくなった。
が、逃げたところで他に行くところもない。
隣の蓮月は、乙都より早くあがった後、どうやら外出してしまっているようだ。
落ち着いて。
胸に手を置き、息を調える。
スマホの壁紙が市松人形の写真に変わっていたせいで、少しナーバスになっているだけだ。
中に入ってみれば、大したことではないかもしれないのだ。
バッグから鍵を取り出し、鍵穴に当てる。
手が震えて、うまく入らない。
何度目かにようやく成功し、ガチャリと鍵を回した。
そっとドアを引き、中をのぞき込む。
光は奥の六畳間から来ているようだ。
テレビがつけっ放しになっているのだろうか。
それしては、光の具合が一定過ぎる。
テレビなら、画像の変化に合わせて光はもっとめまぐるしく明減するはずである。
靴を脱ぎ、裸足で玄関に上がる。
短い廊下が手前の四畳半まで伸びている。
右手が狭いキッチン、左手がユニットバスというシンプルな間取りである。
二部屋あるのでワンルームマンションよりは広いが、築はかなり古く、廊下以外、床は畳敷きになっている。
歩き出す前に、壁を手探りして、玄関の電気をつけた。
が、カチッと音がするだけで、なぜか明るくならない。
何度やっても同じだった。
ヒューズが飛んで、ブレーカーでも落ちたのだろうか。
後で見てみることにして、とりあえず先に進む。
手前の四畳半には異常はなさそうだった。
といっても、ここには大した家具はない。
クローゼット、卓袱台と座椅子、文庫本を並べたカラーボックスひとつとノートパソコンが一台あるだけ。
ただ、ここも電気がつかないのは同じだった。
天井から下がった照明器具の紐を引いても、音がするだけでいっこうに明るくならないのだ。
光源が近くなる。
雄を鼓して、奥の六畳間をのぞいてみた。
ここが乙都の寝室である。
畳敷きの和室だが、カーペットを敷いて壁際にシングルベッドを置いている。
案の定、テレビはついていなかった。
光源は、床にあった。
ベッドの前、サイドテーブルの隅で、何かがぼうっと光っている。
思ったより、大きい。
目を凝らした。
「何?」
恐怖のあまり、つい、そう口に出していた。
と、ガサガサガサッと音がして、それが動いた。
「いやっ!」
目の前に現れた”それ”を見るなり、乙都は喉の奥で小さな悲鳴を上げていた。
微光を放っているのは、一抱えほどもある、巨大な髑髏だった。
しかも、中に何か入っているようだ。
何か、生き物、みたいなものが。
髑髏の下から、蛸の足みたいな吸盤だらけの太い触手が何本も出て、うねうねと蠢いているのである。
髑髏はじっと乙都を見上げていた。
黒々とした眼窩の奥に、熾火のような光が宿っている。
なぜだか、体中から力が抜けていくのがわかった。
蛇に睨まれた蛙にでもなった心境だった。
乙都は柱を背に、へなへなと床に坐り込んだ。
「伊能乙都だな。いいのか? このままでは殺されるぞ」
ふいに髑髏がしゃべった。
変に甲高い、つくりものめいた声だった。
剥き出しの両脚を躰に引きつけ、両腕で膝を抱くようにしながら、その膝の間から乙都はこわごわ髑髏に目をやった。
「こ、殺されるって、誰に・・・?」
かろうじて、訊き返す。
歯の根が合わなかった。
舌が上顎に貼りついてしまったようで、うまく声が出ない。
「わかっているはずだ」
乙都を正面から見据えて、髑髏が続けた。
「あの狂った依子人形にだよ」
何が光ってるの?
正直、逃げ出したくなった。
が、逃げたところで他に行くところもない。
隣の蓮月は、乙都より早くあがった後、どうやら外出してしまっているようだ。
落ち着いて。
胸に手を置き、息を調える。
スマホの壁紙が市松人形の写真に変わっていたせいで、少しナーバスになっているだけだ。
中に入ってみれば、大したことではないかもしれないのだ。
バッグから鍵を取り出し、鍵穴に当てる。
手が震えて、うまく入らない。
何度目かにようやく成功し、ガチャリと鍵を回した。
そっとドアを引き、中をのぞき込む。
光は奥の六畳間から来ているようだ。
テレビがつけっ放しになっているのだろうか。
それしては、光の具合が一定過ぎる。
テレビなら、画像の変化に合わせて光はもっとめまぐるしく明減するはずである。
靴を脱ぎ、裸足で玄関に上がる。
短い廊下が手前の四畳半まで伸びている。
右手が狭いキッチン、左手がユニットバスというシンプルな間取りである。
二部屋あるのでワンルームマンションよりは広いが、築はかなり古く、廊下以外、床は畳敷きになっている。
歩き出す前に、壁を手探りして、玄関の電気をつけた。
が、カチッと音がするだけで、なぜか明るくならない。
何度やっても同じだった。
ヒューズが飛んで、ブレーカーでも落ちたのだろうか。
後で見てみることにして、とりあえず先に進む。
手前の四畳半には異常はなさそうだった。
といっても、ここには大した家具はない。
クローゼット、卓袱台と座椅子、文庫本を並べたカラーボックスひとつとノートパソコンが一台あるだけ。
ただ、ここも電気がつかないのは同じだった。
天井から下がった照明器具の紐を引いても、音がするだけでいっこうに明るくならないのだ。
光源が近くなる。
雄を鼓して、奥の六畳間をのぞいてみた。
ここが乙都の寝室である。
畳敷きの和室だが、カーペットを敷いて壁際にシングルベッドを置いている。
案の定、テレビはついていなかった。
光源は、床にあった。
ベッドの前、サイドテーブルの隅で、何かがぼうっと光っている。
思ったより、大きい。
目を凝らした。
「何?」
恐怖のあまり、つい、そう口に出していた。
と、ガサガサガサッと音がして、それが動いた。
「いやっ!」
目の前に現れた”それ”を見るなり、乙都は喉の奥で小さな悲鳴を上げていた。
微光を放っているのは、一抱えほどもある、巨大な髑髏だった。
しかも、中に何か入っているようだ。
何か、生き物、みたいなものが。
髑髏の下から、蛸の足みたいな吸盤だらけの太い触手が何本も出て、うねうねと蠢いているのである。
髑髏はじっと乙都を見上げていた。
黒々とした眼窩の奥に、熾火のような光が宿っている。
なぜだか、体中から力が抜けていくのがわかった。
蛇に睨まれた蛙にでもなった心境だった。
乙都は柱を背に、へなへなと床に坐り込んだ。
「伊能乙都だな。いいのか? このままでは殺されるぞ」
ふいに髑髏がしゃべった。
変に甲高い、つくりものめいた声だった。
剥き出しの両脚を躰に引きつけ、両腕で膝を抱くようにしながら、その膝の間から乙都はこわごわ髑髏に目をやった。
「こ、殺されるって、誰に・・・?」
かろうじて、訊き返す。
歯の根が合わなかった。
舌が上顎に貼りついてしまったようで、うまく声が出ない。
「わかっているはずだ」
乙都を正面から見据えて、髑髏が続けた。
「あの狂った依子人形にだよ」
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